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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
番外編

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今はまだ効かないが、寿司はいずれ乙女の涙にも効くようになる

 泣きじゃくる望月さんも、リーベや香苗さんに慰められてようやっと落ち着いた頃に、説明会もようやく終わりを迎えた。

 時刻はちょうどいい感じに昼。夜の祝勝会は近場のホテルでやるんだけど、とりあえず昼もみんなで食べようか、という話になっていた。

 そのへんは広瀬さんが気を利かせて──というかお偉いさん方を迎える立場だから気合十分だったみたいだ──、なんと桶の寿司なんて豪盛にも出前を取っていた。

 

「お寿司……! これが、お寿司!」

「ファファ、本場日本で食べるのは久しぶりだねえ」

 

 大会議室に次々運ばれる煌めく特上寿司に、リンちゃんは瞳を煌めかせ、マリーさんは楽しそうに笑う。

 他のみんなも大概似たような反応で、なんならうちの家族なんてめちゃくちゃはしゃいでいた。

 

「うおおお……母ちゃん、こ、この寿司あれだぞ、近所の、やたらお高い板前んとこの!」

「はー、太っ腹。さすが探査者組合、お金持ちね〜」

「すご……! え、これ食べていいの? 探査者じゃないならガリだけ食べてろ的なやつじゃないの!?」

「なわけないだろ! 探査者をなんだと思ってんだ!」

「ま、まあまあ公平さん。たしかにすごく豪華なお寿司ですから、仕方ないですよー。リーベだって正直、じゅるり!」

 

 失礼だからそういうことを言うんじゃないよ優子ちゃん!

 そして父ちゃんにしろ母ちゃんにしろなんだけども、真っ先に金関係を気にしないでくれ、頼むから。家の中だけでやってほしい、そういうのは。

 リーベが苦笑いしつつも山形家のフォロー役に回る。いやお前も涎垂れてるし!

 

『いやはや、寿司はいつ見ても美味しそうだ……まさか生魚をそのまんま食うなんて、君の世界は変なことするよ。じゅるり』

 

 脳内に響く邪悪なる思念の声。もうあからさまに寿司に興味津々だ。お前もかい!

 リーベといいこいつといい、なんだ? 食欲に目覚めた疑似人格プログラムは、それにのめり込む習性でもあるのか?

 

「ジャパニーズ・寿司! ああ、これが夜なら日本酒の肴にしたいところですねえ!」

「あら、ベナウィさん? お酒がほしいなら申し出れば、たぶん用意してもらえると思いますよ」

「え、そうですか? なら、そうですねえ……夜に祝勝会もありますから嗜む程度にですが、お願いしましょうか」

「ふふ、私もご相伴に預かりましょうか。夜のパーティーは、ヴァールと交代ですからね」

 

 そしてやはり酒にこだわるベナウィさんと、のほほんと話しているソフィアさん。昼呑みとか、夜に宴会するって言ってるじゃないですかヤダー!

 ていうかソフィアさんも呑むのか……ちょっと意外だ。それとベナウィさんと意気投合するレベルとは。ヴァールも呑むんだろうか? ちょっと、夜が楽しみだな、そのへん。

 

「公平くん。ささ、どうぞこちらへ」

「香苗さん? それに、望月さん」

「公平様、祝勝会の前ですが、どうかこれまでを労わせてください! お疲れさまでした、本当に、大変でしたね……!」

 

 不意に呼ばれて振り向くと香苗さん。すでに席に着いていて、望月さんとの間に一席空けて座っている。そしてその空席に俺を招いているのだ。

 まあせっかくだしとふらふら、そちらに行くと望月さんがやたら熱の篭った視線と言葉で労ってくれる。泣いてはいないが、泣き止んですぐだから目が赤い。

 一体何がそこまで彼女の涙腺に触れたのだろう……さすがにそろそろ平常心に戻って欲しい気がしてきた。

 せっかくの高級寿司が待ってるんだし、楽しく行こうぜ〜。

 

「望月さん、まあ楽しくいきましょうよ。俺のあれこれがどうであれ、もう全部終わったことですから。これからこれから、ね?」

「はい……ごめんなさい。勝手に思い昂って、勝手に情緒不安定になってしまって……」

「誰かを想って泣くことの、何が悪いことなんですか。そんな風に涙を流せるあなたは素敵ですし、流してもらえる俺は、それだけで報われてますよ」

「……ありがとう、ございます」

 

 俺の言葉に、ようやく彼女は微笑んでくれた。うんうん、やっぱり人間笑顔が一番だね。

 香苗さんも、さっきまではどこか沈痛な顔で俺を見ていたけれど、今は普段どおりだ。

 

 それでいい。それが良い。

 当たり前の日々を、当たり前に笑顔で暮らせるように。そのために山形公平はこれまで、できる限りを尽くしてきたんだから。

 コマンドプロンプトとしての意識に目覚めた後でもそこだけは変わらない。困ってる人を助けたい。泣いてる人がいたら手を差し伸べたい。疲れ切った誰かの傍に、せめて寄り添っていたい。

 

 光も闇も、きれいもきたないも、好きも嫌いも。全部まるごと護りたい。それこそが俺、山形公平の理由なんだ。

 

「さーて、食べましょうか! いやあ、色々ベラベラ喋ったもんですから、お腹減って喉乾いちゃって!」

「ふふ、お疲れさまでした。ジュースならこちらに。コーラをどうぞ」

「お寿司もどうぞお召し上がりください、公平様。はい、あーん」

「あーん!?」

 

 コップにコーラを注いでくれる香苗さんはともかく、おもむろに寿司を箸で掴み、俺に差し向けてくる望月さん。

 いやあーんて、あーんて! 嘘でしょこんな、えぇー!?

 あからさまに動揺する俺。望月さんは構わずあーん、と言ってくる。いやちょ、ご褒美だけど怖ぁ!?

 

「公平のやつ……うらやま痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

「うちの子、いつの間にあんな女誑しに……父親とは大違いねえ」

「えっ、あんな美人さんが本当に兄ちゃんを? 嘘ぉ……」

 

 家族が毎度のコントをしている。ええい見るな、羨むな、それに対して妬むな、そして疑うな!

 ぐぬぬ……でもあーんはしたよ。美味しかったです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あーんをしたお寿司が「アン肝」だった可能性も、あるかもしれない。 [一言] 山形家以外の大人勢は「青春してるなぁ」とほっこりしていそう。
[一言] 寿司を美女があーんしてくれるなら手づかみの方が……w
[一言] 妹ちゃんの嘘ぉ…が公平君の怖ぁ…に似ててやっぱり兄妹なんやなってほっこりした。
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