Y(山形が)N(何でも答える)C(コーナー)
一通りの説明と、コマンドプロンプトとしての俺のカミングアウト会はこれにて一段落、付いたわけだが。
はーやっと、これで肩の荷下りたァーなんて考える間すらなく、俺への質問が嵐のように降り掛かっていた!
「それでは今の公平くんはコマンドプロンプトとしての力を備えた、まさに神にも等しい究極の存在なのですか!?」
「究極じゃないですけど。まあ一応、因果律を操作する権能はあります。身体が人間の肉体ですから、あまりだいそれたことはできませんが」
「因果律を操作するっ!? いいい一体それはたとえば、どのようなことが可能になるんですか!? き、救世主の奇跡の御業、ぜひこの場でお見せいただければと! あ、待ってください動画に撮ります!」
香苗さんがすっかり興奮して、顔を真っ赤にしつつもスマホを俺に構えている。言うまでもなく配信するつもりなんだろう。
勘弁して……さすがに因果律操作なんて不特定多数に知らせていいものじゃない。ここまで来るともう、スキルとか能力の括りですらなく、権能の域に達しているからね。
「公平ちゃん、コマンドプロンプトとやらと融合して具体的に、どこか明確に変わったと認識できるところはあるかい? 正直、私からはそこまで変わったようにも見えてないんだよ」
「そうですね……外面は仰るように山形公平として、あまり変わったように振る舞っていませんけど、中身は結構って感じですかね。なんと言いますか物の見方や考え方、立ち位置の自己認識が、あなた方人間側でなくシステム側になったな、という自覚はあります」
「あなた方……なるほどね。ある種、人間の精神性を超越したってわけか」
マリーさんは、融合前後の俺の内面についてしきりに気にしているみたいだった。俺がコマンドプロンプトとしての立ち位置に変化したことを知ると、興味深そうに見てくる。
否定的な色はそこにはなく、内心ホッとする。思えばこの人には色んなタイミングでアドバイスしてもらって、お世話になってきた敬愛する方だ。そんなマリーさんに、コマンドプロンプトとしての今の俺を否定されたら……仕方ないとは思いつつも、やはり悲しく思うだろうな。
「公平さん、どのくらい強くなった? 手合わせしてみたい」
「えっ怖ぁ……いやその、戦闘能力自体は前と一緒だよ? 一部スキルの出力を上げすぎると発生してた、反動ダメージを帳消しにできるようにはなったけど」
「つまりフルパワーで戦える……! わくわく、どきどき!」
「期待しないで? 鋭い目で俺の急所見ないで?」
リンちゃん……探査者同士の決闘は犯罪でしてよ?
武術家のサガか、強い相手と見るや挑みたくなるらしい。それは良いんだけど、俺の股間とか鳩尾とか人中とかに狙いを定めないでください。怖いです。
これまでに何度か見てきた、星界拳の破壊を体現したような威力を思い返して震える。次、次だ!
「コマンドプロンプトとしてのあなたは、肉体はともかく精神年齢は500歳ということなのですか?」
「まあ、記憶の連続性的にはそう言えるかもしれません。ただ、やはり人間としての山形公平は15歳なので、未成年なことには違いありませんが」
「そうですか、残念です……法が許せば是非あなたと、お酒を飲みたかったのですが」
あなたはそう言うと思ってましたよ、ベナウィさん。
この酒飲みさん、しきりに俺と飲みたがってるものな。悪いんだけどあと5年、待っといていただけると助かる。
代わりに、と言ったらなんだけどうちの父ちゃんが反応している。この人も割合、酒好きだしな。陽気で人付き合いも良いほうだし、あるいはベナウィさんとも意気投合するかもしれない。
ああ早速父ちゃんからベナウィさんに話しかけた。お酒飲まれるんですか? ええあなたも? もちろん! みたいな。
なんだその英語の教科書のぎこちない会話例文みたいなやり取りは。まあ仲良くなりそうだし、きっかけなんて何でもいいんだけれども。
「大ダンジョン時代の終焉……話は分かりましたが、具体的に何がどう変わるのですか?」
「そうですね、直近で言えば、モンスターが探査者を殺すようなところまでは、中々いかなくなるでしょう」
「なんと!?」
「元々、モンスターを操っていたのは邪悪なる思念ですから。それが取り除かれて、ダンジョンに生息する野生の獣と大差なくなりました。とはいえ当然、縄張りであるダンジョンに入り込んできた探査者を敵視するくらいはあるでしょうが」
「執拗な殺意を以て向かってくることが、今後なくなるということですな……」
サン・スーンさんの質問に応える。大ダンジョン時代が終わりましたよー、とは言っても、そっくりそのままダンジョンからモンスターから消えてなくなるのかというとそうでもない。
モンスターの正体が異世界の魂であることは、やはり黙っておく。明確にシステム側の事情が絡んでくるからね、人間たちには中々、聞かせられない。
「公平様は……公平様は、500年もの間、どんなお気持ちで生きていらしたのですか……? たった一人ですべてを背負って、最後には死すらも覚悟なさって……!」
「まずは泣き止んでもらっていいですかねぇ……別に、俺一人が全部背負ってたはずもないですし。むしろずっと傍観者でいて、最後の最期にだけすべてを出し抜いて独り善がりに責任を果たそうと考えた、ただの卑怯者ですよ。俺というコマンドプロンプトは」
「そんな……! そんなこと、ないですよぅ……っ!」
泣きじゃくる望月さんに弱り果てる。勘弁してくれ、こうなると俺には何もできなくなる。
ああみんなして生温い目をしている。やめてくれやめてくれ、女泣かせを見る目はやめてくれ!
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