数年遅れの厨二病
因果律管理機構・コマンドプロンプト。そこに発生した疑似人格プログラムこそ、この俺、山形公平の土台となったハジマリの私。
放り投げた爆弾発言に、一同、数秒ほどたっぷり時間が止まったように凍り付いた。どこか、唖然としている者もいる。マリーさんやリンちゃんたち、リーベから事前に話を聞いていたメンバーもこれにはビックリしているみたいだった。
筆頭だろう彼女、香苗さんが震える声で呟いた。
「こ、公平くん……が、その、コ、コマンドプロンプトという存在なのですか……?」
「そうなります。記憶を取り戻したのは、最終決戦の最後の最期でしたけどね。そこまで含めて、すべて俺の……いや、私の計画どおりの流れだった」
「!?」
「兄ちゃん……!?」
あえて、コマンドプロンプトとしての私を表出させる。冷徹にも似た、無表情。
山形公平は決してしないだろう、システムとしての姿勢に徹したこの姿は、みなに否応なく、私の素性を納得させるだけの気迫はあってくれたようだった。
苦笑して、続ける。
「後で説明しますが、自意識としては、私は人間・山形公平です。コマンドプロンプトとしての自我も混ざったので、3割ほど変わってるかもですけど……正直、最近の俺の変化には家族のみんなや香苗さんや望月さんは、気づいていたんじゃないかな」
「それは……」
「まあ……」
「遅れてきた中二病だなって馬鹿にしてた」
「頼むから外でやらないでほしいなって願ってた」
「ひどい」
微妙な、複雑そうな顔をする香苗さんと望月さんはまだいい。父ちゃん母ちゃん、あんたらは正気じゃない。
何が中二病だ。いや、神魔終焉結界あたりは自分でも正直、ヤバいかなーとは思ってたけど。外でやらないでほしいってなんだよ、そんなしょーもないこと願うんじゃない。
思わず素の反応が漏れた俺に、一同の緊張が解れたのか笑いが溢れる。山形家のコメディパワーすげえな、迫真のカミングアウトが一瞬でコントに変わってしまった。
正直助かるところはある。やっぱりシリアスは苦手だ。
大分緩和した空気の中、俺も微笑みながら切り出す。
「えー……ま、私のことについては後でまた。今は、何が起こったのかをざっくり説明します」
「むう、気になる……でも、続き」
「後で公平くんにはたっぷり、じっくりねっとりお話を聞きましょう」
「まあ、ともかく。500年前に邪悪なる思念が攻めてきて、システム側、とやらに人格が生まれたところまで話されましたな」
「ええ、ありがとうございます。さて、そこから350年はひたすら、システム側の頂点たるワールドプロセッサによる、防衛戦が行われました」
リンちゃんと香苗さんが好奇心も露だ。ていうか香苗さん、目が爛々としていて怖ぁ……
一方で話を促してくださった、サン・スーンさんが地味に敬語になっている。俺が見かけどおりの存在ではないと確信し、下手に出るべきと踏んだのか?
なんというか変わり身の速さが政治家らしいが、正直俺に媚びられてもな。
まあ、気づかないフリでもしておこう。今は350年、行ってきたワールドプロセッサたちの奮闘についてだ。
「邪悪なる思念はこの世界を襲った時点ですでに、別の世界を三つほど喰らっていました。そしてこの世界も、500年前のファーストアタックの時点で半分が喰われています」
「いきなり半分ですか……!」
「ですがまあ、怪我の功名って感じでしてね、そこは。喰らってきた三つの異世界の概念が一部、侵食の際にこちらに流れ込みまして。ワールドプロセッサはそれを逆に、邪悪なる思念が生み出したモンスターと戦うための存在、アドミニストレータに転用しました」
「たしかそれが、スキルとダンジョンのことだったね、公平ちゃん」
「ええ、そうですねマリーさん」
「……異世界由来の概念なのですか!?」
いよいよ仰天したみたいに神谷さんが叫んだ。隣でサン・スーンさんも目を見開いている。
大概の探査者ならこうなるんだろうな。俺も、初めて聞いたときはたまげたし。コマンドプロンプトとして覚醒した今だからこそ、あからさまにこの世界のあり方と質の異なるルールゆえにおかしさを認識できるわけだね。
「ついでに言えばレベルの概念も、です。こちらは150年前、この世界がさらに侵食された際に手に入れましたが」
「150年前……と言えば先程、仰っていた」
「ええ、そうですね。アドミニストレータであった私が敗れた時です」
穏やかながら、遠い目をするソフィアさん。在りし日、邪悪なる思念に殺された時のことを想っているのか?
そのへんはあえて多くは語るまい。コマンドプロンプトは、彼女が決定的に敗北する瞬間を見ていたけど……ソフィア・チェーホワは最後まで気高い方だったことを深く心に刻んでいる。それだけはたしかだ。
深呼吸。ここからが、恐らくWSOにとっては本題だろう。
「350年間、戦ってきたワールドプロセッサたちですが。150年前、邪悪なる思念相手に決定的に敗北しました。本来ならばその時点で、この世界はやつに喰われていたのです」
「ですが、そうはならなかった。ワールドプロセッサが咄嗟に発動したセーフモード……いわば緊急避難用モードが発動し、邪悪なる思念を一時的に遮断することに成功しました」
「セーフモード?」
「その場しのぎの延命処置です。その結果、滅亡までの時間が引き伸ばされた──空白の時代ができました。それこそが大ダンジョン時代。ダンジョンとモンスターがこの世界の表面にまで現れ始めた、終末に近しい時代でした」
俺、リーベ、ソフィアさん。今いるメンバーの中でもシステム側である俺たち3人の立て続けての解説に、サン・スーンさんも神谷さんも望月さんも険しい顔をして唸るばかりだ。
150年前に世界滅びてましたーなんて、聞かされればそりゃねえ。
あ、ちなみにうちの家族はついてこれてないみたいだった。後でリーベに噛み砕いて説明してもらおう。あいつ説明下手だけどね!
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