のんびりダラダラ探査者トーク
なんのかんので肉を食い、野菜を食い、米を食い。ジュースを飲んでと、暴飲暴食の限りを尽くした二時間半。
時間も来たので、俺たち一年13組も締めを迎えようとしていた。この頃になるともう、みんな食いたい放題飲みたい放題で、食欲についてはあらかた落ち着いている。
ただ、話のネタには尽きないようで、まだまだ全然トークを繰り広げているグループばかりだ。話題も様々で、夏休みのこととか、学校のこと、ゲーム、漫画とかスポーツなど趣味全般のことにも及んだりしている。
かくいう俺も、どうしたことかまさかの関口くんと、梨沙さんやさやかちゃん先生を交えての探査者トークになど興じていた。
「マジかよ……マリアベールさん、そんなに強いのか」
「S級の、すごく偉いおばあちゃんだよね? テレビで見たことあるよ、WSOのなんとかだって」
「特別理事ね。いや、あの人はマジですごいよ。さすが探査者の頂点、S級なだけはあるよね」
関口くんにも梨沙さんにも通じる、俺の知り合いの探査者といえば、香苗さんを除けばやはり、マリーさんになるだろう。S級探査者の中でも最長老だし、WSO特別理事としてテレビにもそこそこ出る場面あるし。
さやかちゃん先生は……そもそも探査者に疎いそうだが、それでもマリーさんの名前くらいは知っているみたいだった。興味津々に尋ねてくる。
「マリアベールさんと仲良いの? 山形くん」
「まあ、お互い愛称で呼び合う程度には。マリーさん、公平ちゃん、みたいな」
「御堂さんの動画でも色々言ってたね。ドラゴン退治の時、公平くんと一緒に戦ったって」
「あの人、マジでなんでも喋ってるな……」
梨沙さんから聞く香苗さんの配信が、本当に俺に関することを何でも話してそうな勢いでびっくりする。そりゃまあ、俺のことを取り上げた配信チャンネルなんだから分かるんだけどさあ。
ちなみに俺は、香苗さんにしろ望月さんにしろあのへんの布教動画はほとんど見ていない。自分を讃えている動画なんて見ていても面白くなさそうだし、そもそも怖いし。
ましてや少なからずのファン──という名の信徒がいるらしいのだ。登録者数も100万近いし、そんな人たちがコメント欄などで熱狂的になっている姿は見ようとも思えない。
結局、この期に及んで俺は、例の団体についての情報を教祖と幹部……幹部? の二人からの自慢話を直接会って聞くことで知る、というわけのわからないことをしていた。
「テレビで見てても、優しくて温和そうなおばあちゃんだったけど……戦うんだね。もうてっきり、引退してたとばかり」
「実際、つい先日引退を表明されたものね。最長老がついに一線を退くのかーって、ワイドショーとかでも話題だったけど」
「実際、もう80歳過ぎてますからねえ」
「大体50手前くらいで一線を退くものを、そこから30年以上も続けてたんだな……真似できそうにないな」
「たしかに」
言われて改めて考えるとめちゃくちゃだ、マリーさん。
いくらレベルが高くとも、いくらスキルがあろうとも、加齢に伴う肉体の劣化だけはどうにもならない。そのへんの因果だけは、俺だって迂闊な弄り方なんてできない、したくない。
そんな、ある種の絶対的な理の中で。マリアベール・フランソワはそれでも70年、戦い続けたのだ。腰が曲がっても、先達や同期がリタイアしていっても。後進が育ち、前線に出る必要など、どこにもなくなったとしても。
彼女は83歳になるまで戦ったのだ。戦い抜いたのだ。
山形公平として、コマンドプロンプトとして、心からの敬意を抱く。
システム側が人間たちに押し付ける形となったオペレータ制度だが、彼ら彼女らは、私たちの想定を遥かに超える実力と気高さを備えてくれた。邪悪なる思念と大ダンジョン時代の攻略に、極めて多大な貢献をしてくれたのだ。
その第一人者が、まさしくマリアベールさんと言えるだろう。
「本当に、すごい人だよ……あんな風に歳を取りたいって思うな」
「良い出会いをしたんですね〜、山形くんはぁ」
さやかちゃん先生が赤らんだ頬のまま、優しく微笑む。
言うまでもないが彼女の頬の赤らみは、酒が原因のものだ。このニ時間、色んな種類の酒を飲んでたもんな。
このあとこの人、先生方の打ち上げの二次会に参加するらしいってんだからすごい。すでに飲みすぎなのに、どこまでいくんだろう……
梨沙さんも関口くんですら、酔いどれさやかちゃん先生から若干目を逸らしているので右に倣う。
上機嫌な彼女は、さらにへべれけな口調で言った。
「良いですよね〜探査者ぁ。私もぉ、探査者の彼が良いなぁ〜」
「……そ、そうですか」
「大体、出会いがなさすぎるんですよこの仕事ぉ。朝から晩までやることばっかりで、お局様には嫌みばーっかりぃ!」
「す、ストーップ! ハイストップ、終わり終わり!」
「先生、水飲もう? ね?」
「そろそろ時間だ、店を出ようかみんな!」
間違っても子どもに聞かせるべきでない類の話が飛び出そうだったので、三人で慌てて彼女を止める。梨沙さん、水飲ませてナイス! 関口くん、締めを促してグッジョブ!
「ふえぇ〜?」
「まったく……《あんまり飲んでないから酔ってない》、と」
「────? あ、あれ? なんか、眠気が醒めて?」
顔真っ赤なさやかちゃん先生に、俺からもプレゼント。少しばかり因果を改変して、酒をあまり飲んでないことにした。
まさかこんなことで因果律に手を加えよう日が来るとも思わなかったが、まあ、明日から夏休みだし仕方ないよね!
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