関口くんの微妙な感情
俺と梨沙さんの前にやって来た、関口くん率いるリア充グループ。なんというか、華やかさが俺とは全然違う。キラキラしすぎだろこの人たち。青春かよ。
同い年なのになんでこんなに差が出るんだろう。地味キャラ山形くんにはそこが不思議だ。
「山形クンってさあ〜、探査者なんだっけ?」
「え、あ、う、うんはい、まあ一応」
「マジで? すげーじゃん。久志とどっちが上なの?」
「えっ……せ、関口くんと? え、いや、あの」
怖いよぉ……隣に関口くんがいるのにそんなこと平然と聞いてくるの、本当に怖いよぉ。グループの一人、いかにもチャラいウェーイ系男子が世間話のノリで言ってくるけど、俺としては致命傷レベルの地獄の質問だった。
隣の御本人をチラと見る。顔だけ爽やかな笑顔だ、目はもちろん笑ってない。お前分かってんだろうな、的な視線を感じる。
プルプル震えて僕、悪い山形じゃないよと言いたい気持ちを引き攣り笑顔で捻じ伏せて、俺はどうにか答えた。
「そ、そりゃ〜もちろん関口くんだよ〜。年季が違うもの〜」
「あー、そっか山形クン探査者になりたてとかだったもんなぁ。ワリワリ、答えにくいよな、ゴメンな〜」
「い、いえいえ〜あはは〜」
ヤダぁ、冷や汗ぇ……ていうかこの男子、マジで興味本位というか好奇心で聞いてきたんだな。気まずい質問をしたと自覚したのか、めちゃくちゃ申しわけなさそうにしている。
悪い人じゃないよね。その分、俺への被害は甚大だけど。
見たまえ関口くんの顔付きを。爽やかな笑顔がどこか牙を剥いた、攻撃的なものに見える。なんで? 俺ちゃんと、君のがスゴイっつったじゃんやだぁ〜!
「いや……山形の方がすごいよ。たった三ヶ月で、俺よりずっと高みに登ってるし」
「えっ」
「だから謙遜するなよ山形! もっと自信持てよ、お前はすごいんだ! な!? 救世主なんだろ?」
「ひえぇ…………」
まさかの関口くん御本人からのフォロー。何のつもりかと思ったのも束の間、彼の瞳の奥に宿る苛つきを見て取ってしまい、俺は立ちどころに彼の心情に気付き、喉を鳴らした。
彼としてはたぶん、俺と比べられること自体がアウトなんだ。実力としては正直、客観的に見て俺の方が上だから、俺がそうだよと答えても、いやそうでもないよと答えても、事実としてあるその差そのものが気に喰わないんだろう。
面倒くさいよ! 何この人、拗らせすぎだろ!
「怖ぁ……」
「大丈夫? 公平くん……ちょっとさぁ〜。どっちもすごい、で良いじゃん、なんで比べんの? 二人とも立派にお仕事してる、で終わりじゃん」
ビビり散らかしている俺を見かねてか、梨沙さんが助け舟を出してくれた。ていうかちょっと、いや結構本気の声音で窘めている。ありがたいけどこっちもこっちでちょっと怖い。
ウェーイなクラスメイトのチャラ男くんは頭をかいて苦笑いしている。さすがに梨沙さんの言い分が正しいと思ったんだろう、軽いノリながらも再度、謝罪してきた。
「それなぁ〜! いやゴメンマジワリー、反省の印に俺の肉あげるわ二人とも、ほんとゴメンなー!」
「まったくもう……! あ、公平くん。お肉はい、どーぞ」
「ああ、俺は別に気にしていないし、山形に俺の分まで肉、あげてくれ」
「ど……どもっす」
イケメン男子らしく白い歯を煌めかせての、関口くんの爽やかムーヴ。自動的に俺の皿に、チャラ男くんの肉が移されていく。なんなら梨沙さんも相変わらずの甲斐甲斐しさだ、肉祭り。
いや……あの……関口くんの目がずっと怖い。笑顔って元々、攻撃的なものなんだって何かで見た覚えがあるけど、本当じゃんって今思う。怖ぁ……
「ど、ドリンクお代わりしてこよ〜」
耐えかねて俺は席を離脱した。束の間の解放感に息を吐きつつ、ドリンクバーへと向かう。
あそこは地獄だ、あんなところにいられるか! と、安堵しながらもコーラをコップに注ぐ。ちょっとほとぼりを冷ましがてら、他のクラスメイトのグループとお喋りしようかなーとか考えていると。
「おい、山形」
「げえっ、関口くん!」
まさかまさかの関口くんの、追撃の手がここまで及んできた。いや君ちょっと怖いよ! なんだよ別に仲良くないだろ俺たち!
「げえってなんだよ……いや、なんか誤解してんじゃないかって、さすがにな」
「えっ……誤解?」
「別に俺は、自分がお前より上だなんて思い上がっちゃいない」
ポツリと、思いもよらないことを言う。これまでの関口くんのイメージから正直、かけ離れた発言に目を丸くする。
彼は、そんな俺にふん、と鼻を鳴らして続けた。
「ドラゴンもあのガキも倒したお前に、今さら俺の方がなんて言えるほど恥知らずじゃない。助けられもしたからな……認めるしかない。すごいよ、お前は」
「関口くん……」
「だからな、もっと自信持てよ。お前が変にビビってるとなんか、腹立つんだよ。俺より上なのに、お前はすごいのにって。くそ、なんでお前にこんなこと言わなきゃならないんだ」
「いや、それはしらんけど……」
俺の呟きに、関口くんはまた苛ついたように鼻を鳴らす。
意外だ……そんな風に思っていたなんて。正直、前よりはマシだろうけどまだ、嫌われてるかと思っていた。
なんか、嬉しいな普通に。
「何ニヤついてんだ、お前」
「いやいや、別に別に。にょほほほ」
「チッ……!」
冗談めかして笑ってみる、前より全然柔らかい舌打ちが返ってきた気がして。
リア充たちもそんなに悪いもんじゃないよなと、思う俺だった。
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