20代なかば女教師(クラスの姫)
ちょうど良いタイミングで俺たちは動き出したみたいだ、ドリンクバーに群がっていたみんなが、次々席へと戻っていって、割合スムーズに辿り着くことができた。
にしてもみんな、俺たちみたいに誰かにまとめて持ってきてもらったほうが、変に混雑しなくて良いと思うんだけどなあ。
「みんな、パシられるかもってなるくらいなら自分の分は自分で用意したいんだよ。それに、モクテルにしたいって人もいるだろうし」
「モクテル……?」
「嘘でしょ……?」
唖然とされてしまった。つらい。
聞いてみると、どうやらモクテルとはノンアルコールカクテルのことで、今、若い世代を中心に人気らしい。
梨沙さんがため息混じりに言う。
「公平くんもさあ、ちょっとは流行に敏感になったほうが良いって〜。さすがに探査者さんでも知ってる人は知ってるってモクテルはさぁ〜」
「いやあ、ははは……面目ない」
「……もう! 仕方ないんだから」
呆れつつ、やけに嬉しそうというか満面の笑みなのはなんででしょう?
別段ウケ狙いで言ったわけでもない、俺はマジのガチでモクテルとやらを知りませんでした! なんだけど、どしたの?
「別に、なんでも! ほら、早くみんなの分用意して戻ろうぜ〜? 私ら待ちでしょ、乾杯も」
「ああ、そりゃいけない」
促されて気持ち、急ぎ目に用意する。はい烏龍茶、はいコーラ、はいメロンソーダにはい、エナドリ。
人数分の飲み物オーダーを、梨沙さんと二人で手分けして用意する。まあ言うほどの人数じゃないから一人でも十分に賄えるんだが、やはり手伝ってくれる人がいると効率というものが違うな。
あっという間に用意を終えて、トレイに載せて運ぶ。ここは俺の出番だな、探査者として鍛え抜かれたこの身体とバランス感覚含めた運動神経、使うべき時は今。
「公平くん、すごーい! さっすが探査者、力持ちじゃん!」
「いやあ、それほどでもー。へへへ、へっへっへ!」
こういう時にくらい良い目見て浮かれても良いよな、良いよな!?
梨沙さんに尊敬的な眼差しで見られて、俺ちゃんとにかく照れまくり。香苗さんや望月さんもそうなんだが、100%純粋な賞賛をされるとこっちとしては照れざるを得ない。やだ、俺チョロすぎ?
ともかくもそんな、ちょっとしたヒーロー的気分に浸りつつもみんなの元に戻る。既にいくらか肉も来ていて、食べまではしないが焼き始めているみたいだった。
つまり、乾杯待ち。俺と梨沙さんで注文のドリンクを配り、やっとみんなに行き渡ったところで席に着く。はあ、落ち着いた。
「ありがとなーご両人!」
「そんじゃあ頼むぜ、さやかちゃん先生ー!」
「はぁーい!」
席に着くや否や、さやかちゃん先生に乾杯の音頭が促される。まあ、先生がいるなら先生だよな、こういうのをやるのは。
立ち上がり、さやかちゃん先生がジョッキを持つ。バッチリビールだ。この人、マジで飲む気満々だな……
少なくない数のクラスメイトたちから寄せられる、生暖かい目に気付いていないまま、彼女は挨拶を始めた。
「みなさ~ん、一学期も健康に終われましたね、お疲れさまでした〜」
「っした〜!」
「みなさんとこんな感じの打ち上げができて、先生とっても嬉しいですぅ〜。ありがとうございま〜す」
「っざ〜す!」
まるでアイドルとそのファンみたいな掛け合いだ。まあさやかちゃん先生、正直すげぇかわいいしな。
特に男子たちが声を揃えているのがなんとも味わいのある光景と言えよう。ああでも、女子がちょっと白けている。怖ぁ……
俺もちょっとテンション上がり気味なので、声掛けに参加してやろうかと思ったけど、後で振り返った時すさまじく後悔しそうな気がしたのでやめておく。
隣というか、周囲の女子たちがポツポツ呟くのが聞こえた。
「男子の浮かれ方チョーウケる。公平くんは、しないの?」
「えっ。し、しませんよ? ぼくにはとてもまねできません」
「なんで敬語? ふーん……」
ウケるとか言いながらまったく真顔の梨沙さんはじめ女性陣。男女間でこんなに意識の差があるとは思わなかった! なんて言っても、まあ、女子からしてみれば面白い光景じゃないわな。
恐るべきはさやかちゃん先生の魔性の美人教師ぶりよ。きっと体育の中山先生もこれにやられたんだな。
「それでは〜、さっそく乾杯しちゃいましょ〜う。かんぱぁ〜い!」
「うぇ〜い! かんぱ〜いっ!」
「乾杯〜あは、うぇーい」
「うえー、っぱーい」
「かんぱーい。ハハッうける」
「か、かんぱーい……」
テンション最高潮! なさやかちゃん先生と男子たちの声が響く。
その陰でひっそり、女子たちの表向きにこやかだけどどこか寒々しい乾杯を聞く、ぼく山形プロンプトくんは、蛇に睨まれた蛙みたいな挙動不審気味の乾杯を挙げた。
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