そして始まる食べ放題
クラスの打ち上げは人数の都合で、店の一角のテーブルを四つも使って行われるみたいだった。
それぞれ仲の良いグループが固まって席に着く。俺も、梨沙さんの隣に座る形で、松田くんたちと一緒に座っていた。
「結構いい感じの店だね、ここ。初めて来た」
「今日は一番高い食べ放題コースだし、メニューのなんでも行けるってよ。ほら」
松田くんから注文用のタブレット端末を受け取り、ちょっと見てみる。牛、豚、鳥のそれぞれの部位が塩、タレ、その他味付けと各種揃っている。サイドメニューにご飯からサラダから野菜からアイスまで目白押しだ。もちろんドリンクバー付き。
しかし4500円とは、学生の打ち上げにしては結構なお値段だな。大人でもなかなか、家の父ちゃん母ちゃんなら間違いなく躊躇するだろう価格じゃん。ていうかカンパで出した分より、1000円くらい明らかお高いんですけど?
疑問に思う俺に、木下さんが答えてくれた。
「さやかちゃん先生が一部負担してくれるの。せっかくですしってさ」
「マジで? なんか悪いね、そういうの」
「最初は関口くんが出すとか、気前の良いこと言ってくれてたんだけどね? さすがに生徒にそんなことさせられないって、買って出てくれたの」
「マジかぁ」
関口くんも豪気だが、さやかちゃん先生もナイスって感じね。人気者ってのはこういうところが違うんだな。
俺なんて別に、タンだけって言われてもタンだけ食い続けられる自信がある。肉ならなんでも良い境地よ。
だけどたくさんの種類を食えるに越したこともないので、言い出してくれた関口くんにも、最終的にゴチになるさやかちゃん先生にも感謝感謝だ。
「公平くーん、おしぼり。お皿と、お箸も」
「あ、ありがと」
「なんでも頼めるんだね、何頼もっか」
俺が見ているタブレットを、梨沙さんも覗き込む。ちなみに各席にタブレットは二つあって、一つは俺と梨沙さん、それに隣の片岡くんが見て、もう片方は松田くんと木下さん、遠野さんが見る形になっていた。
しかし、うーむ。選り取り見取りだなあ。
「ようこそお越しくださいました。早速ですが食べ放題についてご説明させていただきます」
店員さんがやってきて、俺たちみんなに説明を始める。
制限時間は2時間半、ラストオーダーは30分前。金網は交換制で、アルコール関係はグラス交換制──これはさやかちゃん先生相手の話だな、俺たち学生には関係ない。
以上だ。この説明を以てタブレットからの注文が可能になり、俺たちは一斉にあれやこれやと騒ぎ始めた。
「タンでしょ、やっぱ!」
「カルビカルビ!」
「ちょっと男子ー、野菜も食べなよー」
「とりあえず白米かなーあとキムチ」
「お前、肉が焼けるのを米食って待つ気か……?」
「はい、その前に飲み物飲み物! 先に乾杯でしょう!」
学生らしい賑やかさで早速、肉やら何やら頼もうとする一同に、うちのクラスの委員長ちゃんがストップをかけた。まあそりゃそうだ、乾杯大事ね。
我先にとドリンクバーに群がる我らがクラスメイト。うーん、さすがに腹は減ってるけど、ああまで必死にはなれんかなぁ。ちょっと空いてきたら、その時に行こうか。
タイミングを見計らっているらしく座りっぱなしの面々に、俺は声をかけた。
「みんなの分持ってくるけど、何が良い?」
「え? 山形くん」
「良いのかよ、パシっちゃって」
「良いの良いの。せっかくだしね、ははは」
気にするみんなを納得させて、注文を聞く。はいはい烏龍茶にコーラ、メロンソーダ、カルピス? 緑茶? ビール……っておいおい、誰だよアルコール。って一人しかいないわな。
「さやかちゃん先生……アルコールはタブレットから注文だよ。ていうかいのいちに飲むのね」
「え、えへへえ……先生こういうの初めてで、えへへ」
えへへ、初めてなの〜、と仰るにしては初っ端ビールってのがこう……ゆるふわ系からは想像できないレベルに厳つい。ベナウィさんじゃあるまいに。
飲み過ぎた時用に水でも用意しておくか。えーと、あとは?
「梨沙さんは?」
「私? 私はいーよ、一緒に行くし」
「え?」
「公平くんだけにさせるわけないじゃん、そんなこと」
そう言って立ち上がり、俺に寄り添う梨沙さん。良い子すぎるだろ眩しくて融けそう。
クラスメイトたちの視線が生暖かい。さやかちゃん先生なんて酒もまだ入ってないだろうに、顔を赤くしてはわわはわわと鳴いている。
一人よりかは当然ありがたい。俺はうなずいて、彼女に礼を言った。
「ありがとう、助かるよ。それじゃ行こうか」
「うん。みんな、適当に肉頼んどいてね。あっ、サラダもね!」
「あいよ、ごゆっくり」
「行ってら~」
肉やらなんやらの注文は松田くんたちに任せる。俺と梨沙さんは、ドリンクバーへと向かって歩き出した。
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