クラスで浮いてるヤーツ
怖ぁ……な我らが担任さやかちゃん先生の周囲はさておき。打ち上げの開始時刻も迫ってきたものだから、クラスメイトのみんなも続々と集まってくる。
クラスの打ち上げったって、さすがに全員参加ってわけでもない。総数38名のうち、さやかちゃん先生を入れて20名で予約してるって話だから、だいたい半数くらいかな?
それでもかなりの数だね。
「うちのクラス、結構派閥バラけてるからねえ」
「ん? そうなの?」
「えっ知らねえの?」
木下さんが呟くのを、ふと疑問に思って聞いてみた。するとかなりギョッとされてしまった、つらい。
俺が東クォーツ高校の一年13組に在籍して、早三ヶ月半ってところだが、正直クラス内の派閥がどうとかには疎かったりする。
何しろちょうど、俺が探査者になった時期と丸かぶりで、他人の人間関係にそこまでアンテナを張れる状態じゃなかった……というと言い訳になるな。
ぶっちゃけるとそこまで興味がなかっただけだ。仲の良い悪いは誰にだって当然、あるものだしな。変に拗れて、誰かを踏みにじったりすることにさえならなければ、俺としてはそういうのも、人間の営みだから良いと思う。
コマンドプロンプトと融合する前から変わらない、これは山形公平個人の考えでもあった。
とはいえ、仲の良いクラスメイトの面々からはそういうの、ちょっとドライすぎると取られているみたいだ。呆れた視線を向けられている。
「山形さぁ……さすがに同じクラスのことはさあ」
「探査業もあるからねぇ……ま、知っといて損はないよ? 一年一緒のクラスなんだし、みんなのことはさ」
「いやぁ、ははは……そうだね」
うーむ、返す言葉もない。思えば中学の頃から、割と個人主義的というか……孤立するつもりはもちろんないけど、それはそれとして一人になるならそれでも良いや、みたいな傾向はあったかもしれない。
別に間違ってるつもりはないけど、せっかくクラスメイトのみんながこうして気にかけてくれるんだから、もうちょっとこっちも歩み寄っていきたいよなあ。
申しわけなく苦笑いする俺に、同じく苦笑いするみんな。
梨沙さんが気遣わしげに、俺の背中を擦ってきた。
「大丈夫? 別に無理してまで、派閥とかグループとかなんて、気にしなくてしなくて良いからね?」
「えっ?」
「……公平くんがこの三ヶ月、結構、大変そうだったの私ら知ってるし。命懸けの仕事してる人に、子どもの人付き合いにまで絡んでけ〜なんて、言っちゃだめだってくらい、分かるよ」
どこか沈痛な面持ちでそんなことを言ってくる。何をそんなに思い詰めているんだ、この子?
松田くんたちを見る。どこか、視線が生暖かい。さやかちゃん先生まで頬を染めてひゃーって言いながらこっち見てる。おい教師。
梨沙さんもその視線に気付いたのか、顔を真っ赤にして俺から数歩離れた。あからさまな照れ隠しに、声を張り上げる。
「と、とにかくさ! 無理しないでね、絶対ね!」
「あ、ああうん、ありがとう……まあ、もうちょっとクラス内のことも知ろうとは思うよ。探査業も一段落付いたし」
「そ、そう? なら良かった……へへ」
はにかむ梨沙さんがかわいい。いやあ、良い子だなあ。
思えばこの子とカラオケ行ったあたりから、俺の学生生活が活気に溢れてきたのだ。感謝してもしきれないな、これは。
「お疲れさま、みんな!」
「うん? ……あ、関口くんも来たか」
爽やかな声とともにやって来たのは、クラスの人気者であるところの関口くんとその仲間たち。相変わらず俺に対する態度と全く違う、すごくイケメン陽キャ感のあるムーヴだ。
彼、こういうところは如才ないよなあ。表向きの顔と裏の顔が全然違う演技力ってところは、立派に彼の持ち味だと思う。
途端に関口くんに集まっていく、その場にいるクラスのみんな。やっぱ人気者だな〜。
同時に時間になったので、焼肉屋にみんな入っていく。いよいよ始まるな、パーティーが!
関口くんが音頭を取ってみんなを引き連れる。相変わらずのカリスマというか、こういう社交性は敵う気がしないね。松田くんたちやさやかちゃん先生も挙って店内に入っていく。
残ったのが俺と梨沙さんだ。なんとはなし、声をかける。
「行かないの?」
「公平くんこそ」
「いやあ、俺も行くけど……あそこまで我先にって感じでもないし」
「私だってそうだよ。ていうか関口……春先よりは大分、マシだし公平くんともちょっとは仲良くなったみたいだけどさ。やっぱりちょっとね。あいつの、探査者以外の人間に対しての視線、ムカつくし」
「あ、あ〜……」
あれね。梨沙さん、いつぞやもそのことでキレてたな、たしか。
関口くんは元々、探査者であることを誇るあまり、スキルを持たない人たちを見下す傾向があった。選民思想ってやつだな。もっと言えば、自分より下の探査者にも辛辣だった節があるくらいだ。何度俺の名前が間違えられたことか。
そういうところを梨沙さんは、持ち前の眼力で見抜いて嫌悪していたわけだ。そしてそれは、未だに残っているということだな。
これについては関口くんが完全に悪い。スキルの有無や級の上下、強さ弱さなどで命の優劣が決まって堪るものか。そんなのは絶対に間違っている。
カッカしないようにと、梨沙さんの肩に手を置く。
「まあまあ落ち着いて。せっかくの夏休みへの第一歩を、嫌ーな気分で過ごしちゃだめだよ?」
「ん……じゃあ公平くん、焼肉は隣りにいてね? きっと良い気分になれるし」
「俺で良ければ喜んで」
ははは、誘われちゃったよ。
お互いに笑みを浮かべつつ、俺たちも焼肉店に入っていった。
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします




