リーベの傷痕
組合本部に報告をして、ダンジョンコアを渡して。
香苗さんの車で家まで送ってもらって。
そんでもって自室に戻ったのがついさっきのことだ。ここから少し寛いで、頃合いを見たら今度はクラスの打ち上げに行くことになるな。
「公平さーん、遊びましょー!」
と、リーベがまたしてもノック無しで部屋に入ってきた。だからノックくらいはしろと。まあ言ったところでこいつ、てーへーぺーろーってやって終わりなんだけどね。
優子ちゃんの携帯ゲーム機を持ってやってきたこいつの、ここ最近のブームは落ちゲーだ。どうも決戦前に母ちゃんにコテンパンにのされ、挙げ句優子ちゃんにまでディスられて以降、すっかり対抗心を燃やして練習に練習を重ねているみたいだ。
オンライン対戦にもドハマりで、本人曰くメキメキ頭角を現してるとか。
なんなら香苗さんとも連絡しあって、ストリーマーのなんたるかを聞いているみたいだし、そのうち配信者にもなりそうな気がする。
そうでなくとも例の団体のマスコットになる、みたいな話は進行中みたいだし、どこに行くつもりなんだろうかこいつは、と思わなくもない。
まあ、良いけどね……500年間の頑張りを思えば、このくらいのバカンスはあって当然だ。
「良いぞ。今日は夕飯が外でだから、時間が来たら打ち切るけど」
「十分ですよーっ! リーベちゃんの上達ぶり、見せて差し上げましょー!」
俺も自前の携帯ゲーム機を持ち、こいつに合わせてプレイする。ベッドに二人、並んで腰掛けての対戦だ。
肩が触れ合うほどの距離に、ふと、決戦の時を思い出す。あの時リーベ、邪悪なる思念に肩を撃ち抜かれていたな。応急処置こそ済ませていたし、決戦直後に現世に戻ってから本格的な治療も受けていたけど、具合はどうなんだろうか?
バトルが始まった。落ちてくるパズルピースを動かし、画面から目を離さずに話しかける。
「なあ、リーベ。肩の怪我は大丈夫か? 治療はしてたけど」
「へ? え、ええ大丈夫ですよー? まあ、痕はあえて残してますけど」
「は?」
おおっと思わぬ発言。うら若き乙女が、わざとあの、邪悪ビームでぶち抜かれた傷痕をそのままにするってのか。
なんでだ? 少なくとも《医療光粉》なら、あのくらいの傷なら跡形もなく消せるだろうに。
「もしかして、質の悪い毒とか仕込んであったりするのか? だったら任せろ。因果律をチョチョイと操作すればそんなもん、秒で取り除くから」
「ただの解毒に壮大なことしようとしますねー……違いますよー、ご心配なく。リーベのこの傷痕は、勲章ですから」
「えぇ……? 勲章って」
何やら歴戦の戦士みたいなことを言い出した精霊知能に俺、ドン引き。君ねえ、名誉の負傷じゃないんだから。
若干の動揺がプレイに出てしまい、操作ミスをいくつか繰り返す。その隙を見逃さず、リーベは一気に攻勢に出た。
「連鎖連鎖連鎖ーっ! ふふーんだ、油断大敵ですよー!」
「うわうわうわやべやべやべっ!?」
畳み掛けるような連鎖。いきなり仕掛けてきたな……めっちゃ焦る。
だがまだ甘い、俺の指が高速で走りボタンを押す。細かい連鎖を繰り返して行い、どうにかダメージを相殺していく。どうにかなりそうだが……リーベめ、本当に上達してるじゃないか。
「すごいな。優子ちゃんよりはとっくに上手いんじゃないのか」
「公平さんこそ、なんであのタイミングであのダメージを相殺しきっちゃうんですかー!? 因果操作でもしちゃいましたー!?」
「いくらなんでもこんなことで、そんなことするわけあるか!」
人聞きの悪い、それこそワールドプロセッサに本気で怒られるやつじゃん。それに楽しいゲームでそんなズル、したくもないし。
単純に俺の腕がいいんです〜と煽りながら今度はこっちが連鎖。あっという間に向こうにダメージを与えてやった。ふふふ、あたふたするリーベの悲鳴が心地良い。
横目で抵抗する彼女に、話を戻して問いかけた。
「それで? 何がどう、勲章なんだ?」
「今聞きますぅ!? 鬼ですか公平さんー!?」
「コマンドプロンプトですけど。あいや違うわ、山形ですけど!」
ギャースカ騒ぐリーベに、俺の質問はさらなる混乱を招いたようだった。
いっそあっけないまでに、ダメージは臨界点を突破。相殺することも叶わずに、リーベの負けが確定してしまった。
「あ、あああ〜!?」
「ホイ勝ちぃ。そんで? 勲章ってなんぞ」
「いや淡白すぎません!?」
うがーっと抗議してくるけど、しらんがな。
まだまだ実力が足らんかったということだろう。というか、俺相手に負けてたら母ちゃんにはとてもとても。
すっかり憤ったリーベの頭を撫でて宥める。しばらくプンスカしていた彼女だったが、落ち着くに連れてやがて、話し始めた。
傷痕を残す意味。勲章と言ってのけた、その真なる意図を。
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