果てしない未来へ!
そんなこんなで授業っていうか、終業式が行われて。
あまりに長い校長先生のお言葉に、はよ終わってもろて、とうんざりして。
終わったら終わったで、担任の原田さやか先生──みんなからはさやかちゃんって言われてる──の、ほわほわした抑揚の夏休み中の注意喚起なんか受けて。
そして10時30分を回るか? って頃。
ついに今日の学校は終わりを迎え、俺たちは夏休みを迎えたのだった!
「んーっ! ああ、いい天気だなあ」
帰り道、校舎を出て空を見上げる。青い空、白い雲。シンプルかつありきたりな表現だけど、そんな光景が広がっている。
夏だ。夏休みなんだ。俺の心の無敵モードが発動している。期末テストも赤点は回避した。補習? なんですかそれ?
この一学期、山ほど色々あったけど。こんな清々しい気持ちで終わりを迎えられたんだから、何もかもそれで良し! って感じだね。
校門を出て歩く。駐車場で香苗さんが待っているから、合流して、組合へ行こう。
そうだなあ……せっかくだしダンジョン探査前に軽くご飯でも食べようか。もちろんあの人も一緒に。最終決戦の祝勝会は明日だし、お疲れさまを言い合うのはその時に取っとくけど。
そう考える俺に、脳内で声が響いた。
『僕を倒した祝勝会を、僕も見る羽目になるのか……癪だなあ。ねえ君、サボっちゃいなよ。どうせ一人くらい抜けたってバレやしないって』
「バレるに決まってんだろ、俺も主賓の一人なんだぞ」
何言ってんだこいつ。まあ、自分が負けたのを祝うパーティに自分が呼ばれたら嫌かもしれないけど、そうされるだけのことをしてるからなあ。
そもそもね、主賓は俺っていうか、俺たちなの。もちろんあの作戦に参加した全員が主賓だけど、なんか各人、色々知り合い友人を呼んでるらしいので、結局メインって言い方になるのは俺とか香苗さんとかリーベとか、マリーさんとかリンちゃん、ベナウィさんにソフィアさんにヴァールなの。
抜けられるわけないだろうに。
『ちぇっ』
面白くなさそうに舌打ちして、邪悪なる思念は黙り込んだ。
やれやれ。
構わずに歩き続ける。さっさと行こうか。
駐車場が見える距離になってきた。香苗さんのど派手な真っ赤のスポーツカーは、と……あった。香苗さんもいる。なんかスマホ弄ってんな。
近寄ろうかとした、矢先だ。
『あなたはスキルを獲得しました』
と。
そんな、声が響いた。
邪悪なる思念のものじゃない。いつも聞いているこの声は。
「……ワールドプロセッサ? どういうつもりだ、全部終わったろうに」
訝しむ。決戦は終わったし邪悪なる思念は倒したし、大ダンジョン時代だって終焉を迎えた。システムは復旧していってるし、セーフモードだって解除されている。
なら、もう俺のステータスに変なもん入れる必要ないんじゃないのか? そもそも最終決戦あたりはもう、全くノータッチだったじゃないか。
なんだなんだとステータスを見る。
名前 山形公平 レベル617
称号 誰でもないあなた
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
スキル
名称 よみがえる風と大地の上で
解説 これからのあなたは生きていくのです
効果 他人のステータスを、一切の隠蔽を無視して確認できる
称号 誰でもないあなた
解説 アドミニストレータでもあり、コマンドプロンプトでもあり、山形公平でもある。それこそが、あなた
効果 なし
《称号『誰でもないあなた』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……ありがとうございました。あなたの500年の献身と、15年の日々と、三ヶ月の奮闘に心からの感謝を》
新規スキルに、新規称号。
必要があるとかないとかでなく、これはメッセージだなと察知する。
ワールドプロセッサから俺に向けての、ことを成した褒美と感謝状ってところか。
気配を感じて、俺は後ろを振り向く。
美しい金髪を靡かせる、女神のような女がそこにいて。
微笑み、やがて俺に深々と頭を下げていた。
「……私の方こそ、感謝する」
コマンドプロンプトとして、告げる。
色々あったし、これからも色々あるだろうけど。決して悪いようにはならない気がする。
そう思えるのも、ここに辿り着けたのも、お前の存在あってこそだ。
「お互い、大変だったな……これからはゆっくりと過ごそう。時間は大いにあるさ。新たな時代の、風は吹き始めたのだから」
だから、お疲れさま。
心からの俺は彼女を、ワールドプロセッサを労った。
────ありがとう。
そんな呟きとともに、姿が消えていく。真夏の陽炎のような、一瞬の交錯。
すべて、終わったんだな、と。
今、改めて感じ入る。
「…………」
万感の想いを噛み締める。
そして、やがて前を向く。
香苗さんも俺に気付いて、手を振ってくれている。
俺もそれに応え、手を振って。
新しい時代を生きる、一歩を踏み出した!
これにて本編終了です。ご愛読ありがとうございました!
そして。
「攻略!大ダンジョン時代」書籍化とコミカライズ決定しました。
詳しくはこの次に投稿するあとがきをご覧ください。
よろしくおねがいします




