あとしまつ
────最終決戦から大体、一週間ほどが過ぎた。
今日は待望の夏休み前日、つまりは終業式の日だ!
明日から夏休み! なんと一月以上も休みが続くのだ、やったぜ!
どうもこんにちは。山形公平/コマンドプロンプト、略して山形プロンプトです。この状態で光り輝くとシャイニング山形プロンプトと呼ばれることになるんだろうか? 山形いらねぇ〜。
邪悪なる思念との最終決戦も終わり、無事に平穏な日々が戻ってきた。コマンドプロンプトとしての自分を取り戻した俺だけど、別段、日常生活においてはだからなんだよって話でしかなく。
俺は今日も今日とて、ベッドの中で朝日を受けつつ、いい感じの微睡みを感じていたりした。
「公平さーん、朝ですよー! おはようございますー!」
リーベの声だ。ドア越しに、あ、部屋に入ってきた。ノックくらいしてほしい。デリカシーのない精霊知能だなあ。
決戦も終わってからも、こいつは引き続いて俺の家で居候をしている。色々と抱えていた諸案件が全部解決したもんだから、もう解放された感が半端ない。毎日壮絶にはしゃいで楽しく生きている。
「あっさでっすよー! んふー、かわいいかわいい幼馴染のリーベちゃんが起こしに来ちゃいましたー! 嬉しいでしょー?」
「……お前いつから幼馴染みになったの? おはよう」
「私も公平さんも、実際に意識が発生した、つまり生まれたタイミングは同じく500年前でしょー? 生まれも育ちも同じ幼馴染みってことじゃないですかー! かーっ、リーベちゃん属性過積載ー!」
「負けそう」
「!?」
ガビーン、と慄くリーベ。どうでも良いけどお前、その理屈が罷り通ったら、ワールドプロセッサとも幼馴染みってことになるぞ。良いのか? お前あいつのこと内心、腹黒って思ってるだろ。俺もそう思う。
ともあれ起き上がる。時刻は普段、起きているのと全く同じだ。今日は終業式だからか、心なしか身体が軽い気がする。はい、山形プロンプトくん心はもう夏休みです。
先に降りてますねーと部屋を出たリーベを追うように、学生服に着替えて下に降りる。
父ちゃん、母ちゃん、優子ちゃんがいつものようにいて、新聞読んだりコーヒー飲んだり、パン齧ったりしていた。うーん、毎日の朝って感じ。
「おはよーっす」
「おはよう」
「朝ごはんできてるわよ、おはよう」
「兄ちゃん! おはよー!」
父ちゃん母ちゃんはいつもどおりなんだけど、優子ちゃんはなんかおもむろに立ち上がって俺に抱きついてくる。うひゃー兄貴冥利!
……って、あんまり茶化せる話でもない。この子、最終決戦から帰ってきてずっとこうなのだ。やたらとスキンシップが増えた。
どうも相当に不安だったのが解れたってのと、たぶん、俺が今までの山形公平じゃなくなったのをうっすら察しているんだろう。
前に、逢坂さんも優子ちゃんが不安定だってのは溢していたしな。心理的不安が拭い去られれば安定するだろうから、今だけのこととは思う。
だが申しわけなさはある。コマンドプロンプトの魂が、兄貴として転生してしまったことでこの子には、いや両親にもだけど、ひどく負担をかけたな。
「最近、優子ったらブラコンねー」
「道は踏み外すなよー」
「外すか!」
訂正、やっぱこの両親には申しわけなさとかないわ。
とはいえ、いずれ近いうちにすべての経緯を、話さなきゃいけないよなぁ……彼らは俺、山形公平に《攻略! 大ダンジョン時代》を発動するだけの心を与えてくれた。
この人たちの存在なくして、今のこの、新時代はなかったのだから。
ちなみにだけど、決戦が終わったあと。関係者のみなさんにはまだ、俺にまつわることの発端から顛末までを説明していない。
とりあえずは落ち着いて、まとまった休みが取れた段階で行いたかったのと、ぶっちゃけ色々あって全員、かなり疲弊していたからな。
休息も兼ねて少しばかりのインターバルをとり、俺が夏休みに入った段階で全員集めて説明会を行う段取りとした。
つまりは明日だ。
「明日、色々説明するしさ。そしたら優子も落ち着くと思うよ。ちょっと、いやかなーり、荒唐無稽だけど」
「お前が探査者な時点で荒唐無稽だよ」
「あんた、首都で悪い女に引っかかってないでしょうね? なんか雰囲気が前と違うし、変な扉開いたとかは止してよ?」
「信頼のなさウケる〜」
などとやり取りしながら妹ちゃんをなだめ、朝食。ベーコンエッグにウインナー、レタス、トマト、そして白ごはん。美味い!
年頃の男子高校生的な健啖ぶりでしっかり平らげる。夏休みはちょっと、グルメツアーとかしたいよなあ。リンちゃんやベナウィさんとも約束してるし。探査者を引退するマリーさんの送別も含め、一回話してみようかな、と。
そこまで考えて、俺は内心で語りかけた。
なあ。俺って魂的には500歳なんだけど、やっぱり肉体は未成年者だし、酒はまだ飲めないんだろうかなあ。
かつて、受肉前のリーベに向けてやっていたのと同じ要領の思考。それに、返される言葉があった。
『それはそうだろ……前世まで含めるのはインチキってもんだよ、アドミニストレータ。いや、コマンドプロンプトと言おうか?』
山形公平だっつーの。いい加減、諦めて受け入れろや!
『知らないね。僕を欺いていた君のことなんか、たとえ意識だけは助けてくれたことに感謝はしても、知らないよ』
拗ねたような言いまわし。やっぱりこいつ、子どもだなあ。
そう、今話している相手は邪悪なる思念。
《攻略! 大ダンジョン時代》発動に際してすべてをリソースとして消費したあと、残った魂だけを俺がサルベージして脳内に住まわせている、要するにお化けだ。
ここから5話、エピローグを投稿して本編終わりです
今回投稿分の7時以降、12時、18時、20時、そして21時に投稿してエピローグとさせていただきます
よろしくおねがいします
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします




