魂を踏みにじるモノ
「これは──絶対に負けてはならない戦いである!」
リーベの声とともに、スキル《誰もが安らげる世界のために》が発動していく。出力は《風さえ吹かない荒野を行くよ》のバフを含めて、10000倍だ──出し惜しみはない、短期決戦で行く!
同時に身体が金色に輝いていく。過去最高の光量だ。この場ではなんの意味もない光だが、なんとなく、勇気が湧いてくる気もした。
──走る激痛。何もしなくてもただそこにいるだけで、身体が崩壊していくようなダメージを、リーベの癒やしのスキルで無理矢理、戦闘力として成立させる。
「《極限医療光紛》! 公平さん、いつでもどうぞ!!」
「よし! いくぞ、邪悪なる思念っ!」
俺への負担が軽減されていく。激痛と心地よさが交互に来る、相変わらず気持ちの悪い感覚。
だがこれなら行ける。その確信ゆえに、俺は一気に殴りかかった。
「ぅおりゃああああっ!!」
「!? ──ぐっ!」
瞬時に邪悪なる思念の眼前に近づき、その顔面にまずは一撃。
さすがに邪悪なる思念、三界機構より頑丈なのか首から上が爆散しない。だが後方に吹き飛ばされるのを、俺は追撃した。
吹き飛ぶやつに追い縋り、肘鉄をその鳩尾に叩き込む!
「でりゃあああぁっ!!」
「が、はっ──!?」
「まだまだまだまだぁぁっ!」
血反吐を出す邪悪なる思念の、銀にきらめく長髪を思い切り掴んで振り回す。二回、三回と地面に叩き付け、俺はさらに連撃を加える。
「おおおおおおおっ!!」
衝撃波を何発も、極めて近距離から放ち続ける。青白いビームが拳と同時に直接叩き込まれていく。
都合、100発は殴り付けただろうか──
短期決戦とばかりに攻撃を続ける俺の拳が、不意に受け止められた。
「っ!?」
「…………大した威力だ、アドミニストレータ。本気でやらないと、本当に殺されるね、これは」
顔面どころか全身が砕け、血まみれになっているはずなのに、まるで何ごともなかったかのような穏やかさで邪悪なる思念は呟いた。
拳を引こうとする、できない! 凄まじい力で、拘束されている!?
これは、この感じは。
慄然として俺は、怖気とともに叫んだ。
「お前、この力は!?」
「三界機構など、所詮僕にはおもちゃでしかない──!!」
瞬間、俺の腹部に蹴りが刺さった。やつの、邪悪なる思念の無造作なカウンターだ。
すさまじい衝撃。身体の中を駆け巡る激痛が、俺の口から大量の血を吐き出させた。
「が、はっ──!?」
「さっきやられたお返しだ、よ!」
「ぐぅっ!?」
血を浴びつつ、やつは笑顔で拳を放った。俺の顔面ど真ん中を撃ち抜く。
一瞬、意識が飛んだ。視界も滅茶苦茶になったあたり、顔面が弾け飛んだのは間違いなかった。再生しつつ、俺は痛みと混乱でぐちゃぐちゃな身体を動かし、やつに掴まれた拳を振り払う。
「くっ、ぬ、ぅうあああっ!!」
「ぐぁ!?」
そのまま顔面を両手で挟み込み、ねじ切る! 頸椎を損壊させる感触に手応えを感じながら俺は、更にやつを背負い投げして地面に叩きつけた。
「っ、くぅううっ、いってえ!?」
「公平さん、大丈夫ですかっ!?」
慌てて距離を取る俺にリーベが声をかけてくる。大丈夫は大丈夫だけど死ぬほど顔面が痛い! 腹も痛い!
思わずペタペタと顔を撫でる。目、鼻、口、ちゃんと揃ってる、ヨシ。パッとしない山形フェイスだけど、それなりに気に入ってるんだ。強制整形なんてのはゴメンだ。
にしても……あの力。邪悪なる思念の、あのパワー。
間違いない。さっき、同種のものを味わった。
「三界機構……! お前は、彼らの力を使えるのか!」
「……当たり前だろう? 僕だってワールドプロセッサだ。まして自分の世界もあいつらの世界も喰らい尽くしているんだ」
平然と立ち上がり、楽しそうに笑う邪悪なる思念。その台詞は、俺の推測を肯定するものだ。
そう、こいつからは三界機構の力を感じる。それも彼らより遥かに強く、そして凶悪だ。
今さっきの俺の攻撃だって、三界機構ならたぶん、中枢以外はほとんど破壊できていたはずだ。
なのにこいつは普通に耐えて、あまつさえ反撃までしてきた。その威力も10000倍パワーの俺でさえ、前後不覚に陥らせるほどのもの。
三界機構をおもちゃ呼ばわりしたことからも、考えられるのは一つ。
彼らは、本来の力をほとんどこいつに奪われていた……!
「喰らったは良いものの。元が同格だからか、あのワールドプロセッサどもは中々、抵抗してきてね。面倒だったからさ、力だけ奪ってあとの残り滓どもは、支配してペットにしてやったのさ」
「なんてことを……!」
「君らとあいつらの戦い、結構面白かったよ。でもそこまでだね。あいつらの力の大部分を獲得している僕に、君が勝てる道理はない」
余裕たっぷりに、邪悪なる思念は嗤う。
10000倍の戦闘力を以てしてもなお、厳しい戦いの幕開けだった。
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