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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
本編

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227/1859

魔天

 断獄を通り過ぎ、ひたすら駆け抜ける。

 はるか後方から地響きが聞こえて、床が振動するのが分かる。自壊して滅び去るまでの、断獄の暴走が始まったのだ──リンちゃんの、たった一人での時間稼ぎも。

 

「災海にしろ断獄にしろ、もう暴れたくないだろうに……邪悪なる思念はまだ、彼らを好きに利用しているんだな。使い潰れるその時まで」

「まったくもって、愚かなことです……完全なものなど、どこにもありはしないのに」

 

 俺の言葉に、リーベは苦しげに応えた。彼女はすでに二度、異なる世界のワールドプロセッサに自壊を願い、受け入れられている。言うは易しだが、実際に行うとなると、他人に自裁を求めることの精神的苦痛は計り知れない。

 よくもこいつに、こんな顔をさせたな。邪悪なる思念め。

 日常生活の中、ひたすら騒がしく楽しんでいたリーベの笑顔を思う。あの笑顔を曇らせたことが、一人の人間として到底、許せそうにない。

 

 マリーさんがポツリ、溢した。

 

「……完全ってのは、ともかくね。永遠を欲しがる気持ちだけはちょいと、分かる気がするよ」

「マリーさん……?」

「なんせほら、この年だ。若い頃と比べりゃあちこちガタついてるし、何よりもうお迎えだって近い。私の同期だって何人もいたのに、今じゃほとんど空の上。だからそこだけは、分からなくもないのさね、ファファファ」

 

 それは、意外なようで当たり前の願望だった。

 永遠に生きたい、とまではいかないにせよ、もっと生きたい、あるいは若返りたい。そういう思いはきっと、誰にでもある普遍的な欲望だろう。

 俺だって誰だって、もしかしたらマリーさんくらいの年になった時、自覚的にしろ無自覚的にしろ、永遠を望むのかもしれない。

 

 駆けながら力なく笑うマリーさんは、けれど、と続けた。

 

「今は違う。人生の目的も果たしたし、こんな大役を務めることもできた。ああ、それに御堂ちゃんはじめ若い子たちの、台頭だって拝めたからね。嫌でも気付くさ」

「何を、ですか?」

「時代は変わるってことを、さね。そして、その変わる時代を託してきたのが私らの先人たちで、今また私も、後進に向け託す時がきたんだ、ってね。まあ、私ゃ往生際が悪いもんだから、こんなババァになるまで認められなんだが」

 

 笑みが、苦いものに変わる。御年83歳になるまで70年間、引退せずに頑張ってきた大御所が浮かべるにしては、あまりに苦しげな笑顔だ。

 しかしてそれも一瞬、今度は明るい笑顔に切り替えて、

 

「だけど間に合った。取り返しがつかない老害に成り果てる前に、ギリギリだが気付くことができた。これも公平ちゃんたちのおかげさ、ありがとう」

「そんなことないですよ。マリーさんは、誰からも尊敬されるすごい人です」

「ファファファ、煽てないでおくれ。ああついでだ、どうか聞いておくれよ──これから行う三界機構との戦い。それが私の最後の探査者業だ。この作戦を完遂でき次第、私ゃ探査者を引退する」

「!?」

「えっ……?」

 

 驚愕の、けれど納得せざるを得ない宣言。俺もリーベも顔を見合わせる。

 たしかに、マリーさんも失礼ながら御高齢だ。大体の探査者ならずっと前に隠居を選んでいるだろう。だからこの宣言も、納得できるのだ。

 

「ああ、そう思うとなんだか、やる気が漲ってきたねえ……我が人生最後の戦い、最後のお勤め。過去の先人たちもこんな気持ちだったんだろうか。噛み付くばかりで可愛げのない私だったが、今になってやっと、彼らに追い付けそうな気がするよ」

「マリーさん……」

「…………見えてきました。三界機構、最後の一機。魔天です」

 

 清々しい笑みさえ浮かべるマリーさんをよそに、道の先には化物が見えてきていた。鳥のような翼の生えた、トカゲというか。まさしくドラゴンの見た目をしている。

 だがアイとは異なり、威圧感が凄まじい。ただそこにいるだけですべてを圧し折りかねない圧力は、生まれたてだったアイとは比較にならないほどだ。

 

 あれが最後の三界機構、魔天。

 邪悪なる思念への最後の関門、救うべき最後のワールドプロセッサ。

 そして……S級探査者マリアベール・フランソワの、現役最後の敵。

 

「相手にとって不足なし」

 

 マリーさんが駆けながら構えた。仕込み杖、すでに逆手に握っていつでも、抜き放てるようにしている。

 

「世界を救う闘い、縛られた世界を解放する戦い──結構だ、実にやりがいがある! 70年に渡る探査者人生の幕引きに、こんな相応しい話もありゃしねぇ!!」

 

 どこまでも真剣に、けれど楽しそうに、謳うように。

 最後の鉄火場へ向かうマリーさんは、若々しくも嬉しそうに笑い。

 

「いくぜ、都合三度目のドラゴンキラー──マリアベール・フランソワ様の花道、押し通らせてもらおうかぁーっ!!」

 

 ついにこちらを視認して動き始めた魔天に向けて、勢いよく居合抜きを放った!

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― 新着の感想 ―
[一言] この時のマリーさんの頭の中ではあっちでのあの人やあの人達偉大な先人達が笑って見ていてくれたのだと感じました。
[一言] 荒っぽい口調の方のマリーさん好きー
[一言] まあ普通に考えてここですべて燃やし尽くして引退でしょう。 これより切応えあるのはもうでないでしょうし。
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