やっぱり自認が厚かましい元・水の女神様
やはり家族の遠慮のなさも良いもんだ。優子ちゃんの歯に衣着せぬ物言いにちょっぴり反論したくもあり、でもまあ兄妹ったらこんなもんだよねと思ったりもして。
そうしているとさらにその隣では、ヴァールとミュトスとエリスさんがお互いにグラスにワインを注ぎ合って宴の始まりに備えていた。
っていうかこの人らはもう出来上がってるからね、昼間からマリーさん達と呑んでたわけだし。
ミュトスの呑みすぎもだけどヴァールが愚痴っぽくなってるんだろうなーとちょっと心配なんだけど……聞き耳を立てるに、特に問題なく会話をしているみたいだよ。
「こんな宴の席でまで愚痴っぽくなるのは良くないからな。ワタシはそろそろ聞く側に徹するのでエリスとミュトス、お前達も何かしら積もる話があるなら話してくれ。普段からよく回る頭と口だ、頼むぞムードメーカー達」
「ハッハッハー、めっちゃ雑な振り! でもまあさすがにクリスマスイブに昼も夜も愚痴ばかり話してるのも、ヴァールさんとしては良くないですしね」
「あいあいサーロインステーキ! ってなもんでそういうことなら不肖ミュトスが一席打とうじゃーあーりませんか、昼間からもいろいろマリアベールさんやらサウダーデさんやら葵さんやらアンジェさんやらにテキトーなこと口走ってましたが、夜も更けてお酒もいよいよ良い感じにキマってきた私の話はここからが本領ですとも! ──じゃあまずこれは私がまだ自分が可憐で美しい酒呑み美人深窓の令嬢お姉さんとして世界中の少年達の初恋を奪っていた頃の話なんですが」
「誰が嘘八百を並べろと言った」
「えぇ……?」
ヴァールも永らく酒を飲んできたんだ、自分の酒癖については当然把握しているらしい。それゆえに頃合いと見れば話す側から聞く側に徹することで周囲に配慮するみたいだね。
それは良いんだけど、代わりにじゃあ私が! とペラペラペーラと話し始めたミュトスがまあ厚かましいことを言い出している。だから深窓の令嬢と酒呑み美人お姉さんは紐付けしづらいんだって、あとしれっと世界中の少年達に被害を拡大するのやめてもろて。
ま、まあそんな彼女にツッコミを入れたりドン引きしたりするところまで含めて、あちらの三人もなんだかんだとテンション高めで楽しそうで何よりだよ。
一回りテーブルに座った面々を見回して、いよいよ父ちゃんがコホンとひとつ咳払いをした。集まる面々の視線。
「よし、じゃあそろそろ食べるとするんだけど……公平、お前が音頭を取ってくれ」
「えっ俺!? なんでぇ!?」
「なんでも何も、今年のこの面子はみんなお前がいてこその集まりじゃないか。俺も母ちゃんも優子も、さすがにお前を差し置いて前に出る気はないんだぞ」
「あんたが頑張ってきた結果、こんなに多くの人が集まってくれたんだよ? だったらあんたがここは締めなさいな。きっと、それが一番よ」
「えぇ……?」
なんてこった、陰キャに宴会の音頭を取れと仰るのかお父様お母様!? 優子ちゃんまで当然みたいな顔してうなずいてるし。
たしかにそりゃ、この面々は大体俺の知り合いだから実質このパーティーが俺起点みたいに見えるのはあるけども……な、何を言えばいいと言うんだ、こんな大勢の前で!
しかして我が家の最高権力者である両親に言われては応じないわけにもいかない。なんならリーベとシャーリヒッタもニコニコ笑いでこっち見てるし。アイもきゅうきゅう鳴きながら前脚を振っているし。かわいい。
仕方ない、軽く話してさっさと宴を始めようか。緊張に震える足を瞑想にて気分ごとスーッとさせてから俺は立ち上がった。
「えー……っと。あーと、その、お疲れ様です皆さん、改めましてメリークリスマス」
『メリークリスマス!!』
「あー、まあ今日はたくさん食べて飲んで、一年に一度のイベントを楽しく過ごしましょう。それじゃあその、かんぱーい!」
『かんぱーい!!』
声を揃えて楽しげに、みんなが応えてくれる。なんとなく自分が人気者になったような錯覚を覚えちゃいそうになるけど、まあ錯覚ですからね。自惚れ厳禁だ。
ともかく、グラスを手に取り乾杯する。みんなもお酒なりジュースなりの入ったグラスを掲げ、そうして乾杯してくれた。
宴の始まりだ!
とりも直さず近くの父ちゃん母ちゃん、優子ちゃん、香苗さんや宥さんや神奈川さんとグラスを軽くぶつけ合う。
なんなら遠めの席にいるリーベやらヴァールやらミュトス、シャーリヒッタ、エリスさんなんてわざわざ立ち上がってこっちに来て乾杯してくれるほどだよ。
「ハッハッハー! 公平さんメリークリスマスー!」
「メリクリ、メリクリ! 楽しい聖夜ですよー!」
「父様! 父様と乾杯だぜェー!」
「いやーこの乾杯ってのが私は一等好きでして! 何しろ前の世界にいた時には冒険者の酒場とかで人間さん達に交じって飲み倒してた愉快なミュトスさんなんですが、特に乾杯はひたすら擦り倒してましたからねえー!」
「よくそれで自認が深窓の令嬢などということになったな……ああ、山形公平。メリークリスマスだ」
「め、メリークリスマスみんな」
約一名、トンチキな昔話を披露しているミュトスちゃんもいるけどそこさえ含めてみんな楽しそうだよ。
そして応じてグラスをぶつける俺も、なんやかややはりテンション高く楽しくなってきたのを自覚する。
きっとこれまでの人生で一番のクリスマスパーティーになってくれるだろう。
そんな期待を込みで、俺はそしていよいよ料理に手をつけ始めていった。
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