未来見てから改変余裕でした
極めて短時間での撃破。やったことも、流れの上だけで見るなら近づいてナイフで叩き切っただけと特筆すべきところはない。
しかしエリスさんの一連のバトルのなかには、俺達全員が絶句するほどのとてつもない技術がいくつもしれっと盛り込まれていた。
あらゆる動作に即時カウンターを叩き込めるような歩法。エネルギーブレード。それに魂の力を使っての特性封印。
挙句の果てには回避まで異次元の超技術と来た。さすがにここまで予想を超えたものを見せつけられると、俺も反応に困るところはあるんだよね。
「ハッハッハー、おーしまい! いやいや、シンプルで大したこともせずに申しわけない。エアリアルハイパークッションザムライなんて面倒なのは、ちゃっちゃと終わらせるに限るってのがセオリーだからねー」
「お、お疲れ様ですエリスさん。ですがその、シンプルで大したこともせずというのはさすがにどうかと」
「歩き方からもうとんでもなかったですよ……それに攻撃も回避も、ちょっと言葉が出なかったくらいに神業っていうか」
「う、うむ。二代目里長ラウエン様とも肩を並べたという、これが初代聖女の実力なのか…………す、すっごかったぁ……」
散歩から帰ってきたくらいのノリで、朗らかに笑ってくるエリスさん。それを迎える香苗さんやアンジェさん、ランレイさんは労いつつもどこか、引き気味と言うか緊張さえしている。
無理もない。たとえA級トップランカーであれS級であれ、今しがたの技術を全部やってみせろと言われてやれる人間は断言するけどいない。
どれ一つとっても熟練度が半端じゃない上に、特殊能力まで絡んだ攻防テクニックだったんだ、できるわけがない。
唯一、弟子の葵さんだけはいつも通りのテンションで師匠に近寄っている。そこまで見てきた技術ではなさそうな口振りだけど、それでもエリスさんはエリスさんだってことだろう。
「はっはっはー! お疲れ様でした師匠! なんかこう、ものすごい参考にならない超技術を様々見せつけてきましたね!」
「ハッハッハーどーもどーも。いやまあエネルギーブレードと最後の回避だけは他の人には難しいだろうけど、歩き方とか動き方、それにモンスターの特性封印はこう、慣れればノリでイケるよ? エリスさんも理屈はよく分かってないし。なんでもそうだけどこーゆーのは勢いだよ勢い! ハッハッハー」
「ノリ……ですか。アンジェリーナ、そういうものなのでしょうかね」
「勢い、ねえ……私らが年も取らず、あと100年くらい鍛えればそう言えるかもって感じかしらねえ」
どこまでも明るく笑う師弟を遠巻きに見つつ、香苗さんとアンジェさんがやはり引き気味にやりとりしている。いつもなんだかんだ自信家でもあるこの二人にしては、若干弱気だけどこればかりはね。
実際、そのとおりだろう。類稀なる才能を持つ戦士が、不老のまま全盛期のまま、数十年数百年以上と鍛錬しなければこんなふうにはなれないと思う。
つまり、それをこうして仕上げてみせたエリスさんが不老だからこその境地なんだ。望まずして得た体質を、それでも有効活用し続けた先にある姿ともいえる。
元々の素質も桁外れだった上に、経年することなく鍛え続けると人はこうもなれるのか。尊敬の念も強く、俺もエリスさんへと話しかけた。
「お疲れ様でした、エリスさん。あの、いくつかお聞きしたいことはあるんですけど……やはりこれだけは真っ先に聞いておきたいことがありまして」
「ありがとー公平さん! いやあコマンドプロンプトたるあなたに見てもらうのが正直一番緊張したけどねーハッハッハー。何でも質問してねー」
「最後のエアリアルハイパークッションザムライの攻撃。アレ"視え"てましたよね未来。直感とか予感でなく、明確なヴィジョンとして知覚してたように思うんですが」
「お、さっすが! いかにもエリスさんてば、ごくごく限定的ながらちょびーっとだけ見えちゃうんだよね、未来」
「…………!? 未来予知!? え、本当ですか師匠!?」
やはりか。朗らかに自らの持つ異能の核心を認めた彼女に、葵さんはじめ周囲の人達も目を剥き驚きを顕にした。
未来予知……超能力側のスーパーパワーだね。魂の力を引き出しての因果演算を、視覚的に行う極めてレアな能力だ。
本来の未来予知の場合、やってることが事実上の因果演算ということもあり見た未来は確実に実現するという、若干癖のある能力なんだけども。
今しがたの動き、エネルギーの流れを見る限りエリスさんのそれは未来予知からは少し逸れた、本人曰くの"ごくごく限定的"なものみたいだな。
おそらく言語化が難しいだろう彼女に代わり、そのへんを軽くでも説明する。
「今見た感じ、エリスさんは自身が取る行動に対して5秒ほど先のヴィジョンを認識できるみたいですね。因果演算ではあるものの、やっていることは予測に近い。だからヴィジョンを見た後、その行動を実際に取るかどうかを選択することもできるはずです」
「うわ、ドンピシャ……いかにもだね。ちなみにさっきのは"左腕を斬り飛ばした後、さらに追撃を仕掛ける場合"の5秒後を見たよ。特に変える必要のない未来だったからそのまま続行して、私は攻撃を避けた」
「変える必要がある未来だった場合、追撃を避けて一旦退く選択も取れるわけですね。いや……強いなあ!?」
思わず本気の声をあげる。エリスさんも認めたところのその力はゲームっぽく言うならばそう、擬似的な《セーブ&ロード》。時間改変だ。
ある行動を起点にしてデータをセーブし、そこから5秒先の未来を演算により意識内で実際に確認する。そしてその結果を踏まえて、現実の時間軸という"セーブした地点"にロードし選択肢を選びなおすことができるんだね。
もちろん、時間逆行っていってもマジでそういうことをしているわけじゃない。
未来を見てから現在を変えるという行為は、言い返せば現在を見てから過去を変えるという行為と言えるがゆえの比喩表現だ。現実に起きる事象ではなく、すべてはエリスさんの脳内でのみ起きていることなんだ。
しかしエリスさんの主観からすると、そういう表現が当てはまるのは間違いないだろうさ。
──この人は、ある意味での時間改変能力の保持者と言えるわけだな。
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