お分かりいただけただろうか……実は山形くんだけ参加してないのである
ヌツェン達ともしばらく語らいながら、ブルーシートに乗っかって緑豊かな自然公園のテクスチャを目と耳と肌感覚で楽しむ。
今見えているこの風景も結局は現世のどこかの場所を、データ領域からコピペしてるわけだからね。本物っちゃ本物なわけだ。
だもんですぅーっと深呼吸すれば、爽やかな空気を吸い込んで何やらリラックスできちゃうよ。
たまにはこういう落ち着いたひとときも良いよね。精霊知能達もせっかくだしってことでキャッチボールしてるし。グローブ嵌めてるヴァールとか相当レアなもの見てる気がするね。
「んんんんキャッチ・ボール! その極意とはすなわち相手とのコミュニケーション! つまーり! 闇雲に豪速球投げれば良いなどというわけではないのです! というわけではい、神奈川くん」
「!? おっ、とっと……! キャッチボールなんて久しぶりだなあ、ガキの頃、まだマトモだった親父とやったきりかな」
『そうなんだ……昔は、いい人達だったんだね千尋の御家族。最後はその、あまりそうじゃなかったみたいだけれど』
「まあ、好き放題やった挙句に全部こっちに押し付けて死に逃げしたからなあ。借金拵えてからは殴る蹴るの暴力も茶飯事だったし、良かった頃の思い出なんてのも今ようやく思い出せたよ」
「怖ぁ……」
「相変わらず反応に困る過去だな……」
ティートレのボール、ちゃんと放物線を描いて問題なく取れるように投げられたそれをしっかりキャッチしてやり取りする神奈川さんとステラ。ヴァールも交えての三人、ステラも入れれば実質四人だ。
しかしその内容はこう、あっけらかんとダーク極まりない……御本人は気にした素振りもないけれど、家族とのまともな思い出もろくにないと淡々と語るってのは、あまりにも壮絶ではないだろうか。ヴァールも明らかに困った様子でいるし。
どういう経緯なんだか大変な借金を作った挙句、それをすべて息子の神奈川さんに押し付ける形で亡くなられたというご両親。
どういう事情があったかは知らないけれど、結果としてそのせいで彼は反社会的勢力の怖い人達に追い回され、追い詰められて死ぬ寸前まで行った。社会から孤立させられて逃げ道をも失い、半死半生で山奥に逃げるしかできなくなったんだ。
その果てに聖剣を護っていたステラと出会えたのは、まさしく偶然ながら奇跡と言うべきものだろう。そこから彼の人生はあまりにも劇的な変化を見せたのだから。
聖剣を任され、ステラのステータスを借り受ける形で能力者となった。そうしてヴァールの庇護下に入る形でWSOのエージェントとなり借金地獄から抜け出したんだ。そうして今、サークルとの戦いを経て精霊知能にさえ至った身体と心でここにいてキャッチボールに興じている。
まさに七転八倒。それでも諦めることなく生きようともがき続けたからこそ得られた九死一生だ。
どんなに暗い闇の奥底でも、決して絶望に負けることなく運命に抗い続けた神奈川千尋さんこそは本当に強い人だよ。
一人の人間として、心底から尊敬できるね。
「向こうはなんだか、すごい身の上話をしてますねえ……はいはーいヌツェンさん、パース!」
「っとっと! ミュトスさん、もう少し柔らかめにしていただけると助かります……三界機構の力をも備えるあなたやシャーリヒッタ姉様のボールともなると、こちらも覚悟して受けなければなりませんので」
「そんな力込めてませんけど!? ははあ、さてはヌツェンさんてば気にしいさんですね? 私やシャーリヒッタさんの実力ばかり気にして、めちゃくちゃ身構えているものと見ました!」
「たぶん当たりだなァ。ヌツェン、もうちょい肩の力抜けってェ……キャッチボールなのに戦闘モードになるわけねェじゃねェかミュトスもオレもよォ」
「う。す、すみません。どうしても前情報として三界機構の力を宿すミュトスさんと、粛清執行役のシャーリヒッタさんというのが頭を過ぎりまして」
こっちはこっちでヌツェンが、ミュトスとシャーリヒッタ相手にガチガチに緊張していて苦笑いされている。先輩とか後輩とか以前に、そもそもの出力が桁外れすぎる二人を意識しちゃってるみたいだ。
生真面目さんからすれば無理からぬことなのかもしれない……ミュトスは三界機構を宿し、シャーリヒッタは粛清執行役として精霊知能でも最強の力を誇るまさにツートップだ。
そんな彼女らを前に、自分もせめて気合を入れなければ! となっちゃうのかもね。
とはいえいくら何でも緊張しすぎだし、そもそもこれはキャッチボールである。
フルパワーでボールの投げ合いなんてするわけもないため、やっぱりヌツェンの独り相撲というか気にしすぎなのは間違いなかった。
「へいへいへーい、クロノジーテちゃんへいへーい! ナイスキャッチですよー!」
「へもへもー。リーベさんはともかくアフツストさん相手にキャッチボールとかすごい新鮮〜。マシネたんに自慢できるかも?」
「自慢できるようなことでもなかろうが……しかし、ふむ。スポーツというのもなかなか趣深いものだな、受肉しているわけでもないためやはりごっこ遊びの域は出んが、味わいがある」
一方でリーベ、アフツストがクロノジーテとキャッチボールを楽しむのを観る。
こう言うとあれだけど、ダンディ紳士なスーツ姿のおじいさんが若い娘さん方とボールをやり取りするのはなんていうか、孫と祖父って感じもするなあ。
アフツストがこういう風に遊ぶってのも珍しいみたいだし、クロノジーテなんかはちょっと興味深げですらある。
精霊知能統括担当はそりゃ激務だけど、たまにはこうして余暇を頼んでみてもいいんじゃないかなーって俺も思うかなあ。
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