弄られおばあちゃん
キテレツカルト団体の珍妙マスコット計画については盛大に見なかったことにして、俺たちは夕食を取ることになった。
ソフィアさんの計らいで、みんな俺の部屋でご飯だ。御膳が並べられ、仲居さんがあれこれと給仕をしてくださっている。
ご飯の内容もまた、すごいもんだった。
刺身にステーキ、お野菜もお浸しとか煮付けとか。茶碗蒸しもあるし、一人用の蟹鍋が鎮座している。豪華すぎるだろ!
このメニューってのもソフィアさんが特注したみたいで、普段は頼めない構成なんだそうだ。
さすがはWSOのトップ……と戦慄していると、隣でリンちゃんがもう、大きな瞳を夜空の星のように輝かせている。
「ふわわ……! お魚、お肉、お野菜! カニ! カニ!」
「ファファファ、嬢ちゃんは食いしん坊らしいねえ。そりゃあこんなたくさん出てきたら、はしゃぐさね」
「うん! どれ、どれから食べよう……!!」
すっかり興奮して、頬がゆるゆるの少女。どれから手を付けようかもう、迷いに迷っている。
そんなリンちゃんをマリーさんは、微笑ましいものを見たとこれまた満面の笑みだ。正直わかる、俺もニヤけそうだし。
さて、それでは俺もいただきますか。箸を手に取る。
育ち盛りな山形くんとしては当然お肉! といきたいが、野菜を先に食うとなんか、体に良いらしいのでそうする。煮付け美味しい。
「ふむ? ベジタブルは不思議な味わいですね。濃くもあり、しかし上品でもあり」
「まさに程よい塩梅、でしょうか。お浸しも……うん。関西の味付けとはまた異なりますが、非常に良いですね」
ベナウィさんと香苗さんも、先に野菜から手を付けたようだ。よく味の染みた、けれど濃すぎない感じの煮付けとか、色とりどりの野菜を用いたお浸しとかお新香を食べては、その味わいに満足げなご様子。
ていうかこの二人、さり気なく飲んでるよ。開始早々にビール瓶が一本ずつ、空になっている。
そしてマリーさんの視線がちょいちょい、うまそうにビールで喉を鳴らす彼と彼女に行ってるのに気づいちゃったよ。ひえぇ……
「ガツガツガツガツ! んふー、ステーキ美味しいです、お米に合いますぅー!」
「はむ、はふはふ、はふっ! ソース、美味しい! お肉、柔らかい!」
「ん、柔らかくて年寄りにもいい感じさね。肉汁が、また……ワインに合いそうだねえ」
「マリーちゃん、飲んだらだめよ? 肝臓壊したんだから」
「……わかっとりますよぅ。ったく、つくづく若い頃の無茶ってのは後々、祟るもんだ」
豪快に肉を頬張り、しかしやはり、酒への未練を見せるマリーさん。そんな彼女を、ソフィアさんが、苦笑いとともに宥めていた。
さしものマリーさんもソフィアさんには頭が上がらないみたいで、まるで拗ねたみたいな声音で応える。なんていうか、飄々としつつも愛嬌があるよな、この人。
隣じゃ、我関せずと言わんばかりにリーベが肉を食いまくり、大盛りご飯をバクバク食べていた。せめてしっかり噛んでゆっくりと食え。マジに太るぞ。ぶくぶくリーベちゃんになっちゃうぞ。
あ、リンちゃんはもっとお食べ。たくさん食べて、大きく元気にすくすく、育つんだよ。
と、ソフィアさんがじーっと、自分の膳のステーキを見ていた。おっとりした風のお顔が、どこか強張っているように見える。
おもむろに彼女は、呟いた。
「お肉は、あまり好みません。どうせなら好きな者がいただくのが、より良い食の形でしょう────ん、む?」
「へ?」
「…………ああ、なるほど。急に代わるから何ごとかと思えば、肉か。いただこう」
「ヴァール!?」
いきなり変わる顔付き。ソフィアさんが人格を、ヴァールのものに切り替えたのだ。
まるで、っていうかまあ完全に別人に成り果てた彼女に、俺たち探査者はともかく仲居さんは目を見開いて驚いてる。言うなれば二重人格者が目の前で、人格をスイッチするところを見たのだ。当たり前の話ではある。
とはいえ、なんで今? 好かないって、ソフィアさんは言ってたけど……だからってそんなことで、わざわざヴァールに代わるんだろうか?
びっくりしている俺に向け、ヴァールは苦笑いして語り始める。
「ソフィアは昔から、そう、それこそこうなる前から肉を食べないでいた。都度、周囲の人間に押し付けてやってきたわけだが……こうなってからはもっぱら、ワタシの仕事になっているな」
「代わりに、ステーキ食べるんだ?」
「ああ。ワタシの方は別に、肉も魚も野菜もなんでもうまいと思う質だからな。うん、うまい。この味は中々、酒に合いそうだな。そう思わないか、マリアベール?」
「からかわんでくだされよう、ヴァールさんまで」
言いながら肉を頬張り美味しそうに咀嚼する、ヴァールの姿。なんとまあ、もはや慣れっことは。マリーさんにいたずらっぽくからかいを仕掛ける姿と言い、なんか人間味を感じられて、良いよなぁ。
ソフィアさんの思わぬ偏食もそうだけど、先代たちの意外な姿に、驚くばかりの俺だった。
この話を投稿した時点で
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総合四半期8位
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