昔のゲームにたまにあったよね「かいはつしつ」
現世にいくつか存在する、あるいは存在していたシステム領域への正規ルート。
そのほとんどはすでに失われて久しいけれど、それでも現存する方法はたしかに残っていて。それを使って領域を訪れた人間に向けて用意されたのが、何を隠そう今いるこの天上めいたきざはしと黄金の雲間の空間だった。
「まあ、今のところ誰一人として到達した存在はいないんですけどね。地球に限らず現世宇宙内における、ありとあらゆる知性体においてただの一体も、正規ルートを辿れたものはいません」
「それは……当然それほどの難易度であるべきなのはわかるんですが、山形さん。そんなにも厳しい条件なんですか?」
「相応には。必要な事前準備から実際に行う手順に至るまで、すべてが異常行動の塊みたいなものだったりしますからね」
「実質的にバグを意図的に引き起こすような挙動になりますからねー。しかも手順が膨大ですし、それらをピンポイントで辿れる確率なんてまさしく那由多ばかりか無量大数に一つあるかないかって感じなんですよー」
階段を昇りながら神奈川さんの質問に答えていく。システム領域へのアクセス方法、その正規ルートと言ったところで事実上、やってることはバグを起こすようなものだというリーベの表現は間違ってはいない。
なんていうかなあ、意図的なバックドアというか。あえて残したデバッグルームからシステム内部へ進入するってプロセスになるんだよね。
そもそもは元々、現世領域を作成するにあたって使用していた経路こそが正規ルートの本質だったりするのだ。
それを再利用する形で、あえてワールドプロセッサへの謁見手段として残した形になる。
だもんで、そのデバッグルームを探すとなるともうそんなの、通常考え得るまともな動作が要求されるわけもない。溶岩で丸一日水泳した翌日南極の海底でリラックス! とか、そんな風邪を引いた日に見る悪夢みたいな意味不明なことを実際にやらないといけないんだね。
いや、これはあくまでたとえであって本当の正規ルート発見方法そのものでないけども。
「これでも大ダンジョン時代が到来して以降、追加された発見方法は相当難易度を落としてたりするんですよ? 特定スキルと特定アイテムを獲得した上で特定の場所で特定の行動を取る──一応奇行にはならない程度のプロセスを辿れば、誰でもシステム領域に到達できるようになってます」
「まァ問題は、その特定スキルがランダム獲得な上に特定アイテムもどこにあるんだか分からねェってことだがなァ。システム領域さえ追跡できなくなってんだから、もう消滅してんじゃねえかなってほどさ」
「そ、そうなんですか。あ、あのー、それってもはや実現不可能ってやつなのでは?」
「かもしれんな。だがそもそもがなくても構わないイースターエッグのような要素なのだ、なくなったとて構いはすまい。ワールドプロセッサとしてはある種の救済措置のつもりだったかもしれんが、なければないで問題のない代物ではあるからな」
肩をすくめるヴァール。精霊知能内においてもこの救済措置というか正規ルートについては諸々意見の分かれるところで、別にいらないじゃん? 派もいれば面白いしいいじゃん! 派もいる感じだね。
そのへんの是非はともかく、少なくとも大ダンジョン時代以降は明確に理屈だった工程で正規ルート──すなわちデバッグルームへと進入できる方法が一つだけ追加されている。
ただ、その条件となるキーアイテムである"マテリアルゲートキー"がね。なんか知らんけどどっか行っちゃってるんだよねー。
システム領域でも辿れないあたり、マジで消滅したかすでに誰かの手に渡っていて、その上で隠すなり捨て置くなりされている可能性が高いんだ。
もうその時点で事実上、このルートも潰えているも同然なんだね。
ちなみにキースキルのほうはさっきも述べたが愛知さんの持つ《アストラルセンス》だ。
あれは"召喚条件達成可能数を一つ増やす"というのが表向きの効果だけど、デバッグルームへの鍵としての隠し機能も持ってたりする。
まあ、マテリアルゲートキーと併せてでないと発現しない効果だから今は愛知さん本人も知る必要のないことだけど。それこそいつかどこかで、奇跡以上の偶然が起きてソレが手元に揃うことになれば次のステップに進めることだろうさ。
────そろそろ階段を昇り切る。見えてきたのは黒い空間に緑のデジタル数字が羅列し続ける電脳領域。システム領域のガワを完全に取っ払った、本来の姿。
そしてこの世の真なる造物主の居城である。そこに佇む、美しい女性がただ一人いるだけの空間。
「お待ちしておりました。おかえりなさいませ、コマンドプロンプト」
「…………っ!!」
「ああ、ただいま。悪いが少し、魂の気配を強めに抑えてあげてくれ。お前の存在そのものが、今の神奈川さんには少し負担だろうからな」
その女性が口を開く。鈴が鳴るよりなお涼やかで、風が吹くよりなお軽やかなその声。
しかしてその魂は並大抵のものでなく、圧など放っていないにも関わらず神奈川さんは完全に気圧され、後退るのが見えた。無理もない、ただの人間だった彼には、何もかもが初めてのことだろうからね。
それゆえに軽く頼み込めば、目の前の美女はやはり薄っすらと微笑んで魂の出力を低減させた。やればできるものを最初からやらなかったのは、神奈川さんに自分がどういったモノであるかを自発的に理解させるためだな、こいつめ。
やはり抜け目ないと言うか、腹黒と言うか……その女、ワールドプロセッサを見て俺は、若干の呆れさえ覚えつつもしかし、彼女に笑いかけた。
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