ブリリアント・世界
「俺が戦う理由……なんて、大層なものじゃないんですよね、実際」
俺が、こう切り出したことについて、二人は無言だ。とりあえず最後まで聞いてくれるつもりなんだろう。
ちょっとばかり考えてみて、なんか良さげな、格好いい理由もいくつか捻り出してはみたけれど。どうにも、嘘のような気がしてならない。
だからもう、そのまま本音を言ってみることにする。それで失望とかされたって別に構いやしない。俺のやることに変わりはないしな。
「望月さんの時と同じなんですよ。困ってる人が目の前にいるから、できることをする。それだけだったりします」
「それだけ、って……」
「助けたいじゃないですか。泣いてる人がいたら、手を差し伸べたくなるものでしょう。結局、それの延長なんですよ」
俺に限った話じゃない、みんな、誰だって大体の人はそうすると思う。目の前で人が辛そうにしてたら、声くらいかけるだろう。
言ってしまえば同じなんだ。スタンピードの時も、リッチの時もドラゴンの時も……端末と三界機構相手の時も。いつだって目の前で辛い目に遭わされている命がいるから、俺はふざけんなよーって向かっていったんだ。
そう、たとえ勝ち目がない戦いだとしてもだ。
「悪いことをしてないのに、ひどい目を見ている誰かがいる。勝手な理由で奪い取ろうとしている誰かがいる。もし、それを止められる力を持っているなら……俺じゃなくても誰でも止める。そう信じている」
「公平さん……」
「そして俺は今回たまたま、力を授かった。ひどい目を見ている世界を救ってくれと、頼まれた。だったら身の丈に合わなくたって、やりたくなるでしょう。偶然でもなんでも、力を手にした者としてやりたいんです」
使命感や責任感以上に、俺がそうしたいんだ。助けを求める声に、なるべくなら応えていきたい。
本当……この3ヶ月でずいぶん、俺も変わったよなあって思う。まるでヒーロー気取りだって自覚はあるけど、なんだろうな、悪いことじゃない気もしている。
酔っ払ってても偽善でも欺瞞でも構わない。疲れきった人の代わりに哀しみや苦しみを背負い、理不尽と戦うことができるなら、そんな感情も悪くない。
そう思える。
「だから、俺は俺にできる当たり前をしたいってだけ、それが理由なんです。大層な話ができなくてすみませんが……」
「いえ。いいえ……! 公平様、あなた様は最高です……っ!」
「えぇ……?」
なんか咽び泣き始めた望月さん。怖ぁ……情緒どうしたん?
隣の逢坂さんがドン引きしつつもその背中を擦ってあやしている。見れば、彼女もどこか頬が赤いな。
介抱を受けつつ、望月さんは泣きながら言った。
「そんな……そんな優しい心、尊すぎます……! 力があるから、なんてそんなことだけで……自らを犠牲にしてまで……っ」
「犠牲にしてませんけど。あの、人身御供みたいに言うのやめてもらえます?」
「……実際、そのとおりでは?」
犠牲とか人聞きの悪いことを仰るから否定したところ、まさかの逢坂さんからの追撃。
おいおい、この子まで山形公平は犠牲になったのだ……とか言い出すの? どうしちゃったの二人とも。
「助けたいから、そしてその力を授かったから。すごく立派な動機だと思いますけど……そこにあなたのメリットなんて、一つもないじゃないですか。まるで生贄みたいに、世界を救うなんてお題目で戦いに向かわせられて」
「いや、あの……」
「あんまりですよ。私は正直、あなたにこの人ほど心酔してないですけど、それでもこんなのないって思います。ひどすぎますよ。なんで、なんで公平さんがそんなこと」
「あの、聞いて? メリットならあるよ?」
先走って興奮しだす逢坂さんを止める。なんていうか、情が深いんだなこの二人。似たもの師弟と言うべきか。
俺の言った動機に何やら同情して、憤ってくれている。その心こそありがたいけど、メリットがないってのはちょっと、違うよね。
そこだけは訂正しておこう。俺は続けた。
「メリットはある。俺の大切なものを、全部守れる」
「!」
「家族も、友達も、仲間も。好きな人も、嫌いな人も。今まで見てきた綺麗なものとか汚いものとか、これから見るかもしれないそういうものとか。知らないうちになくなるかもしれなかったものを、まとめて守ることができる。こんな良いメリット、中々ないでしょ普通に考えて」
世の中のすべてが良い悪いで二分できるわけじゃないって、一応俺でも知ってるつもりだ。だから、全部まとめて大切にしたい。
泥中の蓮って言葉があるけど、俺は泥だってそう捨てたもんじゃないと信じている。それこそ蓮が咲くように、暗がりの路地裏でも歩いていたらいつか、何か綺麗なものに出会える気がする。
邪悪なる思念は、そんな泥も蓮も、路地裏の光も闇も全部自分だけのものにしようとしている。それは、気に入らないしね。
「俺は俺の大切な全部を守れる。これがメリットだよ。理解してくれると嬉しいかなぁ」
「…………別に私は、狂信者になるつもりはありませんけど。あなたのような人をきっと、救世主と呼ぶのかもしれませんね」
どこか吹っ切れたように、逢坂さんは笑ってくれた。
蓮の花のような、秘めやかに美しい笑顔だった。
この話を投稿した時点で
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