ステータスでも超能力でも、戻せないのが若さとメンタル
日本国内のS級を、3人も抱えている謎のクランことシーマキャラバン。
そのリーダーたる周防さんの方針なのか、これまであまりクランとしての躍進を目指した動きを見せてこなかったらしいのがさらに神秘めいたその集団が、なぜだかおかし三人娘の確保には乗り出したってのがなんとも不思議というか、奇妙な話だよね。
見ればガムちゃんも難しい顔をして腕組みをしている。いきなり里見さんから声をかけられた時点でビックリなのを、いろいろよく分からないクランへの勧誘話だったんだものな。
情報が少なすぎて判断のしようがないってのもあるんだろう。そこを踏まえてか香苗さんが、御自身の知る限りのことを伝えていく。
「私の知るところでは発足は2年ほど前。A級に昇級したばかりの周防くんパーティが、何がきっかけか知り合っていたらしい里見先生、最上さん、それから濱野さんのパーティと合同して結成されたということくらいですね。17歳にしてA級トップランカークラスの実力者だというのに、周防くんは極端にメディア露出が少ないのも特徴です」
「アンジェさんやランレイさんと同格ってことですもんね、実力的には。怖ぁ……」
「一応、クランの広報としてはS級の濱野麻沙美さんが請け負っていて、周防くんについては曰く、"写真を撮られたら魂が抜けると信じているタイプなためカメラ撮影とかは控えている"だとか言っていますね。どこまで本当かは分かりませんが」
「えぇ……?」
文明開化頃の人かな? 俺も陰キャとしてカメラ映りとかはあまり得意じゃないけれど、さすがに魂抜かれるは考えたこともなくて本気なのかどうかも疑われちゃうよ。
古風と言うべきかなんというか……香苗さんも見るからに半信半疑で、メディア露出を避けるための体のいい理由を捏ねただけだと思っているのがありありと見て取れるよ。
ていうか広報担当がS級ってのも贅沢な話ではあるなあ。濱野麻沙美さん……聞いたことないけど、香苗さんはご存じだったりするのかな。
一応尋ねてみると、軽くうなずいて彼女は答えてくれた。
「先だっての私の認定式の際にも来て、軽く挨拶と言葉を交わしましたね。40歳ほどの女性探査者で、《風魔導》と剣術を駆使するスタイルの方です。もっとも実力的なピークを過ぎたということで、最近では後進の育成に回り気味とのことですね」
「あー……一般的に探査者のピークは30代半ばから40代半ばってのはよく言われてますよね。もちろん個人差はあると思いますけど」
「そうですね。そのあたりから肉体の衰えやキャリアの頭打ちを実感してきて、内勤に移ったり後進の育成を始めたりする探査者はそれなりの数います。無論、生涯現役を掲げて活動するマリーさんのような方もいらっしゃいますが」
「83歳まで頑張り続けるってのも相当ですよね……さすがマリーさんって感じですよ」
濱野さんの戦闘スタイルなどもそこそこに、探査者のピークについてガムちゃんが反応した。ルーキーとして第一歩を踏み出したばかりの彼女からすると、どのくらいの年齢までやっていけるかってのはやはり気になるんだろう。
まあ、このへんは個人差が大きい部分ではあるんだけどね。概ね30代から40代で脂が乗りに乗ったいわゆるピーク期で、そこで実力的には頭打ちな人が現状、多いみたいだ。
これはステータスに覚醒した年齢も関わってくるから厳密なものではない。俺みたいに10代でオペレータになる者もいれば、GWの探査者ツアーの時に知り合った新田さんみたいに、40歳手前でステータスを得る方もいるからね。
今しがたのピーク期の話に照らすと、じゃあ新田さんはステータスを得た瞬間に頭打ちじゃないの? という話に思えるけどそうでもないのだ。
結局このピークがどうのってのは現行の探査者界隈での風潮の話であって、システム内部での実際の設定とは異なるからね。
「たとえば40歳手前で探査者になった人が知り合いにいますけど、その人は今も若手探査者としてメキメキ実力を伸ばしているみたいです。そこからも分かりますけど本来、ステータスに頭打ちなんてものはないんですよね。たぶんですけど」
「! ……ふむふむ。興味深い"考察"ですね公平くん。差し支えない範囲でもっとお聞かせいただけますか?」
「クランの話とは関係ないので軽くですよ? ……俺が思うに、ステータスそのものは関係なくて肉体的、精神的な面での要因じゃないかと思うわけです、実力のピークってのは」
軽い個人的意見というか感想って体で触れたところ、即座に目をキュピーン! と光らせて香苗さんがメモとペンを用意し始めた。怖ぁ……分かっちゃいたけど反応が早すぎる!
わざわざ考察と強調したのはこの話が事実上、私というコマンドプロンプトからのシステム面でのネタバラシだと理解したからだろう。目敏いし耳聡い。
とはいえ今回の話の主題はおかし三人娘のスカウトについてのもので、あまりこのへんに尺を使うつもりもない。それに聴衆も変に多いため、吹聴するような話でもないからな。
なので軽く、本当に軽くだけだが喋ろうか。
「まあ、ざっくり言うと能力の有無関係なしに加齢とともに肉体は衰えますし、いくら若い頃ブイブイ言わせてても加齢とともに精神も落ち着きますし。心身ともにいい感じだなーってなるタイミングをピークと呼んで、それを皮切りにだんだん熱意が下がっていって引退を決意する、と。そのピーク時期が現状だと30歳とか40歳とか、あるいは50歳くらいになってるってことだと思いますよーって、だけの個人的意見です、ハイ」
「なるほど……たしかに心理的状況にあってそうした、ミドルエイジクライシスにも近い心境から引退を決意する探査者もいるとは統計上、知られてはいますが」
「いつまでも若いまんまじゃいられないし、年を取っていくにつれてモンスター相手にし続ける生活に区切りを打ちたいって気持ちに、なることはあるんでしょうねえ。私みたいなデビューしたてにはなかなか分かんないですけど」
今言ったとおりで、システム側はステータスに成長限界なんてものはわざわざ設定していない。個々人の魂それぞれにスキルの保有限界とかはあるものの、レベルについては鍛えればどこまでも上がっていく仕様だ。
だからオペレータにピークがあるとすればそれは、加齢によって避けられない変化がある肉体と精神のほうにあるのだろう。
要は結局オペレータも人間である限り、変わっていく自分と向き合っていくってだけの話なんだけどね。
そうやって人生に一区切りを打つ間際をピークと呼び、そして方向転換を試みる、と。少なくとも探査者界隈にあっては、そういうことなんだろうさ。
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