(モンスターからすると)ドッペルゲンガー
さておき続くよダンジョン探査、お次の相手はまさかの曲者。
ドッペルゲンガー。俺も数回しか拝んだことのない特殊なモンスターで、すべての級のダンジョンにいる可能性があるという特性を持っている相手だ。
しかもその能力が"同ダンジョン内に存在するなんらかのモンスターに擬態する"というもので……あろうことかその強さや能力さえも劣化ながら再現してくる。
つまり級が上がるごとに、厄介なモンスターなり特殊なオブジェクトなりがあるほどにドッペルゲンガーはその厄介さを増していくという性質があるのだ。
似たような種に、周囲の地形情報を読み取り内部構造が変化した、通称ユニークダンジョンにのみ存在するシェイプシフターってのがいる。
こっちはこっちで読み取った地形情報のなかにある、なんらかの特殊オブジェクトに擬態して待ち伏せを行なってくるんだよね。しかもユニークダンジョンならば級の高低など関係ないため、ドッペルゲンガー同様に出会ったら即、厄介者扱いを受けがちな嫌われ者って立ち位置なのだ。
「ありゃー。面倒ねアレ、このダンジョンってばリッチがいるんだ。真似してゾンビ呼び出してるわよ」
「数こそ本家には劣りますが、面倒なのには違いありませんね」
「で、でも強さとかはたぶん、本家本元より二段階くらい落ちるはずだから……呼び出してるモノも、結局はスライム同然くらいの、つ、強さでしかないんじゃないかなあ」
広々とした土塊の部屋の手前、通路から内部を見る。
元よりダンジョン内にいるんだろうリッチの姿と性質を真似たドッペルゲンガーが、本家リッチの半分程度ながらゾンビやらグールやらを呼び寄せて蠢いていた。
ちなみにこのドッペルゲンガー、姿自体はまったく真似た先のモンスターと瓜二つなんだけどただ一点、本来の姿なのだろう暗黒物質みたいな黒い輪っかが頭上に浮かんでいる。
これをもって本物なのか偽物なのかは判別可能なわけだね。なんで輪っかなのかは分からないけど、さながら天使みたいで結構シャレた姿に思えるってんで探査者界隈ではちょっとばかり評判だったりするよ。厨二心が疼くってさ。正直分かる。
「ふむ……元々ここはランレイさんが一人で相手したいとのことでしたが、どうでしょうか私も加勢しますよ」
「えっ!? か、かかか、香苗さんが!?」
「あなた一人でも問題なく倒し切れるのは当然ですが、さりとて時間をかけすぎても仕方ないでしょう。なんならアンジェリーナも一緒で良いかもしれません。さすがに公平くんまでお越しいただくと、それはそれで秒殺になってしまうのでランレイさんとしては物足りなくなるかもしれませんが」
そしてここでよもやの提案。元よりアンジェさんの次ってことでランレイさんがこの部屋のモンスターを相手取るって順番だったんだけど、まあまあ敵が多いもんで見かねた香苗さんがタッグバトルを申し出たのだ。
まあ、普通はそうなるってか本当ならパーティバトルだからね、この状況。
アンジェさんとランレイさんがウォーミングアップがてら単独でバトりたいっていうので、じゃあ初戦はそれぞれソロでやろっかってなってるだけで、この状況なら総出で抑え込むのがセオリーと言うか常識的な判断だ。
なんなら御自身だけの加勢に留めた香苗さんは、むしろランレイさんの実力と性格をよく理解しているとすら言えるかもしれない。
実際、総出となると俺も当然出張るわけで。俺が出張ると当然、範囲浄化スキル《目に見えないけど、たしかにそこにあるもの》を使って秒で全滅にまで持ち込んじゃうわけで。
そこのところはアンジェさんやランレイさんも、短い付き合いながら分かっちゃってるみたいだ。あー……みたいな顔をして俺を見てくる。
なんだよう。
「た、たしかに。公平さん、基本的にどんな相手がどんな数でも1分もかけないし……」
「改めて言われるとイカれたスピードねえ。速攻戦の時の私らでも3分はかけちゃうってのに」
「言うまでもありませんが、それはまったく悪いことではありません。本来モンスターなどは速やかに掃討すべきが原則であり、半ば腕試しやウォーミングアップなどのために一対一で戦闘するというのは、はっきり言えば強者の余裕から来るものでしかありませんので。巷の一般的な探査者が見れば、それなりにやっかまれるスタンスですよ」
「ま、実際強者だしね、私もランレイも。だからって何でも許されるわけじゃもちろんないけど、今はバカンスだからある程度は趣味優先で行くわよ。ねえランレイ?」
香苗さんの言葉に苦笑しつつも、ランレイさんと二人でうなずくアンジェさん。バトルにのめり込む探査者として、プライベートでの探査だからこそ楽しみたい気持ちがあるんだな。
もちろん、それの意味するところは普段の仕事においてはやはり、仕事優先できっちり最短最速で任務を遂行されているってことだ。だから俺や香苗さんとしてもそこは理解して、ある程度お二人の好きなようにバトってもらっているよ。
バトルが楽しいって感覚はちょっとわかりかねるところはあるけど、それこそ人それぞれだしね。
とはいえこの状況が一対多にあって、手間がかかるってのは二人も理解している。だからランレイさんも特に否やはなく、香苗さんの提案を受け入れたのだった。
「こ、今回のこの数はたしかに私一人だと厄介だし……す、すみません! 手伝ってもらえるとありがたいです、香苗さん!」
「もちろん。ドッペルゲンガーはお譲りしますが、他の取り巻きはお任せくださいランレイさん。あなたと組むのも初めてですから、こちらも勉強させてもらいますよ」
「は、はい! む、胸をお借りします!」
元々からして香苗さんに、探査者として憧れているランレイさんだからかすごく嬉しそうだ。香苗さんもそこまでまっすぐな好意を向けられると悪い気はしないようで、微笑ましげに優しく彼女を見ている。
あるいはこれは、新旧A級トップランカーのタッグバトルと言えるだろう。俺にとっても勉強になること間違いなしなバトルが、これから始まろうとしていた。
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