山形家ゴー、ファイト!
雑談に興じていたら思いの外楽しくて、危うく時間感覚をも忘れてしまいそうなんだけど、それでもどうにか10時を迎えたのには気づいて俺達は店を出ることにした。
もちろん注文したものはすべて綺麗さっぱりいただいている。いやーマロンケーキが予想外の大当たりで俺ちゃん満足だよ、結局ちょっとだけ残したリューさんのケーキも食べちゃったくらいだし。ごちそうさまでした。
なんていうかもうこの時点で割と満足感高めというか、外出する際になんとなし期待している"最低限の良いこと"ラインを突破してくれた感じがある。
陰キャの俺としてはせっかく外に出るんなら、せめて良いことがこのくらいはあってほしいなーって基準があるんだけど……そのハードルをさっそく越えてくれた形だ。
「こうなるとこの後、どんなことがあってもその日一日ハッピーハッピーなのが半ば確定したなあ。よーし、いよいよ楽しくなってきた!」
「よく分かんないけどアンタ、どうせものすごくインドア派なこと考えてそうねえ……探査者になって、しかもめちゃくちゃな天才とかハーレム救世主とか言われてても素はやっぱりぐうたら公平なんだ」
「紛うことなき風評被害ですけど! あのね春香、人間なんだかんだでそんなに人が変わることなんてなかなかないからな? ソースはそれこそ俺ちゃん」
「実感籠もってるね、兄ちゃん」
ちょっと楽しくなってきちゃって、テンション高めな俺に春香が苦笑する。曰く探査者になってもなる前と、こういうところは変わらないんだねってさ。
そりゃそうだろ。ちょっとスーパーパワーを手に入れたくらいでそんな豹変するやつは、創作とかだとありがちだけどリアルだとなかなかいないんじゃないかな。
なにしろそれまでに対外的に繕ってきた自分って姿は、どうしたって自分自身の心にもつきまとうからね。
"力を手に入れて豹変した自分を、社会や周囲の人達はどう見るだろう"。そんな意識が働かない人ってなかなか少ないんじゃないかと思う。その上でそれらを無視して本当に豹変する人は余計にだ。
それに何より、力を得るまでに培ってきた自分ってやつはやっぱり大きいんだよ。これは俺の実体験からの実感だ。
山形公平としての15年間で構築してきた人格、性格、感覚、感性。それらは今やコマンドプロンプトのソレと混じり合ったわけだけど、それでも7割は以前のままを保てているしね。
500年生きても人格形成の機会が少なかったコマンドプロンプトを、15年だけでも多くの人と接するなかで作られていった山形公平が上回ったんだ。
俺は、今の私はそのことをとても嬉しく、誇らしく思うよ。
そのへん、どこかしみじみしているとある程度知る優子ちゃんもまた、しみじみとつぶやく。
そんな様子に首を傾げる春香はともかく、後ろのほうではリューさんもまた浮かれてはしゃいでいるのが見えた。
美味しいものを食べて盛り上がってる俺以上に、受験勉強から一時離れている彼のテンションは最高潮なのだ。
「よーっしゃよっしゃよっしゃ行くぜ行くぜ俺はやるぜ、遊び倒すぜ! 勉強しねえと怒り出すおっかねえ鬼とも今日ばかりは無縁だ、山形家ゴー、ファーイト!」
「えぇ……?」
「テンションめちゃくちゃ高いですねー。そんなに普段、勉強漬けなんですかー?」
「あ、うん。それはもう本当に。夏休みまでゲームしてた分を取り返せってガチギレされて本当にもう、勉強沼に朝から晩まで漬け込まれてるよ。隆太郎のピクルスできちゃったよ」
「おっかねえぜェ……」
リーベやシャーリヒッタさえ若干引き気味の勢い。聞けばどうやら、盆までにまあまあゲームに熱中してたこともあり真理子さんが相当お怒りの様子らしい。怖ぁ……
たしかに、高3の夏なんてもう受験シーズン的には一番の山場だもの、そこを華麗にゲームに没頭! なんてのは親からしてみれば怒り心頭ってなものかもしれない。
結果として今、後れを取り返すべくリューさんのピクルスができあがろうとしているわけだね。
まあ、その甲斐もあって志望校の竜虎大学には手が届いてるんだから。今だけの辛抱と思って頑張ってもらいたいところだよ。
とはいえ、今日はそんなことも忘れてひたすら遊ぶんだけどね!
ついに10時を迎えたぞ。開店するショッピングモールの入り口前、そこそこ屯していた人達に混じって俺達も中へと入る。
喫茶店と同じ2階からの進入だ。どうもファッションエリアらしくブランド店が立ち並んでいるけど、さすがにこのへんはお子ちゃま軍団には関係ないね。
「まずもって目指すはゲーセンだ! 近くにはゲーム屋とかプラモ屋とかもあるしな、見て回って実際買ったり遊んだりするぞー!」
「ゲーセンはともかくプラモとゲームソフトはさすがに買うとまずいからね兄貴。私そのへん母さんから言われてるから、兄貴がそういうことしそうなら止めなさいって。なんなら同行してる公平に一発光ってもらいなさいって」
「俺ぇ!? なんでぇ!?」
「なんか落ち着くんでしょ、アンタの光。それでバカやる兄貴のバカを止めてくれーってさ」
「えぇ……?」
怖ぁ……身内にまでシャイニングリラクゼーションを期待されてる。たしかにリューさんの興奮具合は大変なもので、あんまり受験をほっぽらかすムーヴに至りそうならそれも適宜必要かもだけど、うーむ。
まあ、盆にゲームで怒られてるのにこの上さらに勉強そっちのけなのは良くないからね。見て回るだけならともかく、マジで手を伸ばしそうならここは協力しますかねえ。
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一巻
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二巻
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三巻
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