ああそろそろ夏が来る
首都から帰ってきて、もうそろそろ十日くらいは経つかな。6月の最終日だ。梅雨もぼちぼち終わりを見そうな感じだけれど、やっぱりジメジメしている頃合い。
なんなら気温ばかり高まっていって、一番不快指数が高い時期かもしれない。それは教室内に漂う、どこか憂鬱な空気が示していた。
「あぁ〜、早く夏休みにならないかなぁ〜!」
昼休み、例によってグループでお弁当を突く最中、クラスメイトの松田くんがそんなことをこぼした。朝のHR前と各授業前の中休みに毎回言っている。
最初はそうだね~とか同意していた俺とか他の友だちだけど、さすがにこう毎回言われると辟易してくる。外は雨で、湿度ゆえかどこか空気が重いのも影響してるな、これは。
「夏休みの前に期末テストでしょ? ってかもう来週じゃん」
「うげ、嫌なこと言うなって!」
「つって松田はまだ平均は取れるから良いじゃん。私とかヤバいもん、補習確定、みたいな?」
遠野さんが頭を抱えて身悶えした。隣で、現実に差し迫った問題から逃げていた松田くんも同じく身悶えする。ユーたち付き合っちゃいなよ。
実際、来週頭から期末テストだ。7月の頭から一週間続けて行われ、終わるのはちょうど7月8日になる。
そうだね、例の最終決戦に向けて事態が動き出す日だね。
テストはしっかり受けてから決戦に行けと言わんばかりのスケジュール調整に涙が出そうだ。俺、テスト直後に世界の命運かけて戦うんですけど。
ちょっと異世界との戦いがあるのでテストの方は遠慮しときますね……なんて通るわけもなく。俺もご多分に漏れず、必死こいてテスト勉強しないとならないわけだった。
「公平くんは、テストどうなの? 大丈夫そう?」
「あ、うん、まあ……家庭教師もいるしね、ははは」
と、俺の隣の席に座る梨沙さんが聞いてきた。まさしくテストについてだ。
彼女はギャルだけど、頭良いギャルだからテストなんて何の問題もなさそうだ。余裕を感じる羨ましい。俺なんてこないだから、美人家庭教師たちと自宅でお勉強という、響きだけは天国な地獄を堪能していたと言うのに。
「カテキョ? もしかして……御堂さんとか望月さん?」
「まあ、その二人もいるね」
「ふーん……」
ジト目の梨沙さん。特にやましいことしてないのになんで? 怖ぁ……
ちなみに家庭教師はあと一人いる。受肉した姿でしれっと我が家に突撃した挙げ句、何をどうやったか家族みんなにうまいこと取り入って居候と化した精霊知能、リーベだ。
あいつめ、面白がってお勉強会に参加しやがって……おかげで恐ろしく大変だったんだよ。
何をするにしても一々うるさいもんだから、香苗さんや望月さんですらペースに巻き込まれるし、そうなるとせっかくの真面目な勉強タイムがコントのお時間に早変わりだ。
終いには面白がった妹ちゃんとか、望月さんがいるからってなんでかやってきた逢坂さんまで巻き込んでワーワー大騒ぎ。
結局、見かねた母ちゃんが全員を叱って──香苗さんすら説教でないにしろ、小言は言われていた──、ようやっと勉強するかとなったのがつい、二日前の話だ。
そんな感じの成り行きを、ややこしくなりそうなのでリーベのことは香苗さんに同行してきた探査者ってことにして説明する。
途端、ちょっと面白くなさそうだった梨沙さんの顔付きが、呆れを含んだ心配げなものに変わった。
「えー……? 何それ、チョー迷惑じゃん。カテキョしに来て勉強の邪魔ってひどくない?」
「俺もそう思う。だから他の二人はともかくリーベのアホは、しばらく家を出禁になったよ」
本当は俺の部屋限定だけどね。あいつ、今は妹ちゃんの部屋に住み込んでたりするから。
波長が合うのか、やたら仲良いんだよなあ、優子ちゃんとリーベ。精神年齢が近しいんだろうか? 脳内にリーベがいたら死ぬほどうるさそうだな、この考え。
「仲、良いんだ?」
「え?」
「その、リーベって人と。なんか顔、優しいよ?」
梨沙さんが指摘してくるが、別に今、なにか優しい気持ちであいつのことを考えていたつもりはないなあ。
とはいえ仲が良いか悪いかで言えば、間違いなく悪くはないだろうとは思う。数ヶ月、頭の中でやり取りしまくってたんだ。互いの良いところ悪いところ、もうすっかり分かり合ってる感じはあるし。
「まあ……色々あって半分、相棒というか。やかましいし面倒くさいけど、なんだかんだいないと困るなって感じかなぁ」
「そっかー……会ってみたいな、そのリーベって人と」
「そう? 良いやつだし、向こうもきっと、梨沙さんのことを気に入ると思うよ。言ってくれればセッティングするよ?」
「ん、考えとくね。ありがと」
どこか密やかに笑った梨沙さん。本当、格好は派手なのに仕草は清楚だな〜。
ここから最終章です
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