誰もが救世主になるのなら、あなたも救世主になれるはず
そんな感じで観光を、結局五日間ずーっとやっていた。
メジャーどころからマイナーどころ、下町、路地裏、なんなら隣県まで行ってリンちゃんのご要望どおりのテーマパークにまで、とにかく遊びまくった気がする。
一応、三日目にはダンジョンをいくつか探査してみたりもした。リンちゃんやベナウィさんも交えての連携、最初はやはりお互いに慣れないところはあったけれど、次第に調和が取れたと思う。
俺の称号効果、決戦スキル保持者対象のテレパシーとか範囲内の転移とかも、情報共有できたからね。
そんなこんなであっという間に最終日。日曜の朝、俺と香苗さん、そしてリーベ──目立つから翼は隠して、ただのかわいいかわいい女の子の姿だ──はホテルの前で、リンちゃんやベナウィさん、ソフィアさん、烏丸さんに見送られ、故郷に凱旋しようとしていた。
リンちゃんがしきりに、俺のことを気にしてくる。
「お土産、持った? 忘れ物、ない?」
「お母さんかな? 大丈夫、最終チェックは済ませてるよ」
「何かしら忘れていたとしても連絡手段はありますからね。心置きなく置き忘れられますね」
「忘れてるの前提に話しするの止めてもらえます?」
「ははは、失敬。ミスターは中々これで、うっかりさんですからねえ」
あんたにだけは言われたくないんですけど! と、紳士然としたうっかりベナウィさんに内心で抗議する。
この人、面と向かって言ったところで、申しわけないを連呼するだけなんだよなぁ。
そしてリンちゃんにまで心配される俺は、そこまで忘れ物をしそうに見えるんだろうか? ちょっとショックだ。
「何かありましたら、いつでもご連絡くださいね、山形様。あ、ヴァールに代わりますね────ふう。後釜、なんならお前が取りに来い。空も飛べるし転移も自在だろう? 働けゆるキャラ」
「働いてますけどー!? なーんなんですかこの方はー! 人のことすっかりゆるキャラ扱いしてますけどー、かわいいかわいいリーベちゃんはこれからアイドル社会を滝登りしていくんですー!!」
「山形公平……一月後の決戦の時にまた、会おう。もはやどこまで役に立てるか分からないが、それでもだ。あなたを、せめて見届けたい」
「聞きなさいよ人の話ー!!」
ギャースカピーと囀るリーベを華麗にスルーして、ソフィアさん──から切り替わったヴァールが、俺に微笑みかけてくる。うーむ、スイッチの速さが神がかっている。
そして相変わらず、俺に対してはどこか慇懃っていうか、持ち上げてくる感じだ。なんでだろう? 決戦が終わったら俺にもわかる、みたいなこと言ってたけど、めっちゃ気になるよね。
最後に烏丸さんが、打って変わって事務的な話をしてくれた。
「それでは最終確認です。半月後の7月6日金曜の昼過ぎ、私どもWSOのスタッフがお三方をお迎えに上がります。そして翌7日、WSO日本支部にてソフィア・チェーホワ統括理事並びにヴァール様、マリアベール・フランソワ特別理事、シェン・フェイリンさん、ベナウィ・コーデリアさんの5名と合流していただきます」
「その日は打ち合わせに留める。ゆっくり身体を休めてから、決戦はさらに翌日の7月8日だ」
「山形様の学校にはWSOから申請しておきますので、内申や出欠に影響はありませんのでご了承くださいませ」
「あっ、はい。お気遣いどうもです」
俺の学業にも気を払ってくれるWSOさんカッケェ。いや真面目な話、すごく助かる。期末テスト直後に時間設定してきたのは、ちょっとどうかと思うけど。
しかし、邪悪なる思念との決戦まであと一月かぁ。そのことが今、説明を受けて強く実感できた。
決戦スキル保持者と受肉した精霊知能、そしてアドミニストレータが集い、この世界を侵略している邪悪なる思念……異なる世界のワールドプロセッサを打ち倒すのだ。そして大ダンジョン時代を終わらせる。
いよいよ明確になってきた目標に、俺はなんとなし、一つの区切りが近いのを感じていた。ことがどうなるにせよ、この世界の行末が、もうすぐ決まるのだ。
そう思うと、うん。なんだか、うん。
「…………緊張してきた」
「公平くん……」
「怖いとかってのも、あるんですけどね? それ以上になんていうのかな。俺で良いのかなーって」
思わず出る弱音。でも、偽らざる本音でもある。
俺で良いのか? アドミニストレータとして、俺は本当にふさわしいのか?
俺である必要が、本当にあったのか? システムさん。
「俺じゃない誰かの方が、なんて、思っちゃいますよね正直」
「……公平さんだからこそ、ですよ」
弱音を吐いた俺に、ポツリとリーベが呟いた。
その瞳には慈愛。俺を、怖気から守るように微笑んでいる。
「たとえば他の誰か、別の方がアドミニストレータだったとして……この状況に至れているとは、リーベには思えません」
「リーベ……」
「モッチー、いえ望月宥を襲った悲劇に涙し。関口の勇気を認め、敬し。アイを、邪悪なる思念の一部でさえも受け入れ。ソフィアとヴァールに寄り添い、己の身をも捨ててやつを止めにかかった」
「…………」
「あなただからこそです。他の誰でもない、山形公平というあなただから、今の状況にたどり着けたんです。アドミニストレータはあなたです。他の誰にも勤まりません」
優しい言葉が、心に染み渡っていく。リーベの心が、俺を癒やしてくれる。
そうだ……自分の心で俺は、ここまで来た。望月さんも、アイも、ソフィアさんもヴァールも、俺は俺の心のままに手を差し伸べようと頑張った。
そこだけは他の誰でもない、俺だけの心だ。たとえ俺が探査者じゃなくても、その場にいたら必ず同じことを思い、どうにかしようと足掻いていたと思う。
俺だからこそたどり着けたのが、今なんだ。
たまたま授かった力でも、意味や価値はあった。俺がアドミニストレータで良かった。そう、改めて気付く。
「ありがとう、リーベ」
「こちらこそ、ありがとうございます。アドミニストレータになってくれて、あなたでいてくれて」
迷いが晴れた。俺は、リーベに感謝を告げる。
嬉しそうに彼女は、笑ってくれた。
次話から本編最終章です
この話を投稿した時点で
ローファンタジー週間7位、月間5位、四半期1位、年間5位
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