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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
本編

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191/1856

誰もが救世主になるのなら、あなたも救世主になれるはず

 そんな感じで観光を、結局五日間ずーっとやっていた。

 メジャーどころからマイナーどころ、下町、路地裏、なんなら隣県まで行ってリンちゃんのご要望どおりのテーマパークにまで、とにかく遊びまくった気がする。

 

 一応、三日目にはダンジョンをいくつか探査してみたりもした。リンちゃんやベナウィさんも交えての連携、最初はやはりお互いに慣れないところはあったけれど、次第に調和が取れたと思う。

 俺の称号効果、決戦スキル保持者対象のテレパシーとか範囲内の転移とかも、情報共有できたからね。

 

 そんなこんなであっという間に最終日。日曜の朝、俺と香苗さん、そしてリーベ──目立つから翼は隠して、ただのかわいいかわいい女の子の姿だ──はホテルの前で、リンちゃんやベナウィさん、ソフィアさん、烏丸さんに見送られ、故郷に凱旋しようとしていた。

 リンちゃんがしきりに、俺のことを気にしてくる。

 

「お土産、持った? 忘れ物、ない?」

「お母さんかな? 大丈夫、最終チェックは済ませてるよ」

「何かしら忘れていたとしても連絡手段はありますからね。心置きなく置き忘れられますね」

「忘れてるの前提に話しするの止めてもらえます?」

「ははは、失敬。ミスターは中々これで、うっかりさんですからねえ」

 

 あんたにだけは言われたくないんですけど! と、紳士然としたうっかりベナウィさんに内心で抗議する。

 この人、面と向かって言ったところで、申しわけないを連呼するだけなんだよなぁ。

 そしてリンちゃんにまで心配される俺は、そこまで忘れ物をしそうに見えるんだろうか? ちょっとショックだ。

 

「何かありましたら、いつでもご連絡くださいね、山形様。あ、ヴァールに代わりますね────ふう。後釜、なんならお前が取りに来い。空も飛べるし転移も自在だろう? 働けゆるキャラ」

「働いてますけどー!? なーんなんですかこの方はー! 人のことすっかりゆるキャラ扱いしてますけどー、かわいいかわいいリーベちゃんはこれからアイドル社会を滝登りしていくんですー!!」

「山形公平……一月後の決戦の時にまた、会おう。もはやどこまで役に立てるか分からないが、それでもだ。あなたを、せめて見届けたい」

「聞きなさいよ人の話ー!!」

 

 ギャースカピーと囀るリーベを華麗にスルーして、ソフィアさん──から切り替わったヴァールが、俺に微笑みかけてくる。うーむ、スイッチの速さが神がかっている。

 そして相変わらず、俺に対してはどこか慇懃っていうか、持ち上げてくる感じだ。なんでだろう? 決戦が終わったら俺にもわかる、みたいなこと言ってたけど、めっちゃ気になるよね。

 

 最後に烏丸さんが、打って変わって事務的な話をしてくれた。

 

「それでは最終確認です。半月後の7月6日金曜の昼過ぎ、私どもWSOのスタッフがお三方をお迎えに上がります。そして翌7日、WSO日本支部にてソフィア・チェーホワ統括理事並びにヴァール様、マリアベール・フランソワ特別理事、シェン・フェイリンさん、ベナウィ・コーデリアさんの5名と合流していただきます」

「その日は打ち合わせに留める。ゆっくり身体を休めてから、決戦はさらに翌日の7月8日だ」

「山形様の学校にはWSOから申請しておきますので、内申や出欠に影響はありませんのでご了承くださいませ」

「あっ、はい。お気遣いどうもです」

 

 俺の学業にも気を払ってくれるWSOさんカッケェ。いや真面目な話、すごく助かる。期末テスト直後に時間設定してきたのは、ちょっとどうかと思うけど。

 しかし、邪悪なる思念との決戦まであと一月かぁ。そのことが今、説明を受けて強く実感できた。

 

 決戦スキル保持者と受肉した精霊知能、そしてアドミニストレータが集い、この世界を侵略している邪悪なる思念……異なる世界のワールドプロセッサを打ち倒すのだ。そして大ダンジョン時代を終わらせる。

 いよいよ明確になってきた目標に、俺はなんとなし、一つの区切りが近いのを感じていた。ことがどうなるにせよ、この世界の行末が、もうすぐ決まるのだ。

 そう思うと、うん。なんだか、うん。

 

「…………緊張してきた」

「公平くん……」

「怖いとかってのも、あるんですけどね? それ以上になんていうのかな。俺で良いのかなーって」

 

 思わず出る弱音。でも、偽らざる本音でもある。

 俺で良いのか? アドミニストレータとして、俺は本当にふさわしいのか?

 俺である必要が、本当にあったのか? システムさん。

 

「俺じゃない誰かの方が、なんて、思っちゃいますよね正直」

「……公平さんだからこそ、ですよ」

 

 弱音を吐いた俺に、ポツリとリーベが呟いた。

 その瞳には慈愛。俺を、怖気から守るように微笑んでいる。

 

「たとえば他の誰か、別の方がアドミニストレータだったとして……この状況に至れているとは、リーベには思えません」

「リーベ……」

「モッチー、いえ望月宥を襲った悲劇に涙し。関口の勇気を認め、敬し。アイを、邪悪なる思念の一部でさえも受け入れ。ソフィアとヴァールに寄り添い、己の身をも捨ててやつを止めにかかった」

「…………」

「あなただからこそです。他の誰でもない、山形公平というあなただから、今の状況にたどり着けたんです。アドミニストレータはあなたです。他の誰にも勤まりません」

 

 優しい言葉が、心に染み渡っていく。リーベの心が、俺を癒やしてくれる。

 そうだ……自分の心で俺は、ここまで来た。望月さんも、アイも、ソフィアさんもヴァールも、俺は俺の心のままに手を差し伸べようと頑張った。

 そこだけは他の誰でもない、俺だけの心だ。たとえ俺が探査者じゃなくても、その場にいたら必ず同じことを思い、どうにかしようと足掻いていたと思う。

 

 俺だからこそたどり着けたのが、今なんだ。

 たまたま授かった力でも、意味や価値はあった。俺がアドミニストレータで良かった。そう、改めて気付く。

 

「ありがとう、リーベ」

「こちらこそ、ありがとうございます。アドミニストレータになってくれて、あなたでいてくれて」

 

 迷いが晴れた。俺は、リーベに感謝を告げる。

 嬉しそうに彼女は、笑ってくれた。

次話から本編最終章です


この話を投稿した時点で

ローファンタジー週間7位、月間5位、四半期1位、年間5位

総合四半期10位

それぞれ頂戴しております

本当にありがとうございます

引き続きブックマーク登録と評価の方、よろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 200話ちょっとで完結しそうな勢い あと1000話はなんなんだ……
[一言] ヴァールの態度から推察。 山形君がシステムさんでも予想しなかったアドミニ存在な理由って。 アドミニより上位の存在が関わっているからだろうなぁと思った(_’ だからスキル作るとか、アドミニで…
[一言] いい奴だよなあほんと
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