朝から飲む酒の味は格別にうまい
その後もいくつか百貨店内をうろついた後、俺たちは都内の散策に戻った。今度は地元の商店街っていうか、市場を巡っている。
リンちゃんはその間も折に触れては気に入ったものを買っていた。相変わらずの金に糸目をつけないムーヴだったけど、ちょっと安心したのは、安くても良いなと思ったら普通に選んでいたところだろうか。
つまるところ自分のセンスを最優先にした結果、お高い買い物になりがちというわけなんだね。里では着飾ろうにも民族衣装ばかりだから、目移りしてしまうらしい。
「里長とか、先達の星界拳士にも会う度、釘を刺されてる……だから、普段は節制。鍛錬もあるし」
「なるほど? 使うべき時以外は貯めておくと」
「ん。こういう、すごい立派な町に来た時、貯めてた分を使う。最高」
なんと言うべきか……懐の紐はそれなりに意識しているみたいで何より。里長とリンちゃんの先輩方に感謝。
そんなわけらしいから、リンちゃんの金銭感覚については問題なさそう、かな。さすがに保護者でもなし、逐一見張るわけにもいかんしね。
市場は朝からでも盛況で、新鮮な魚介類を中心に様々なものを売っている。
土産物屋もあるし、なんかせんべい屋とか、香辛料とか売ってる店もある。お、ソフトクリームだ。買っちゃお。
「色々ありますねえ」
「素晴らしい活気ですねえ。いや、驚きましたよ。というか朝から露店でビールを売っているのがまた、乙というやつですねえ」
「…………いや、ベナウィさん?」
「なんですか?」
歩きながら、いつの間にか手にしていたビール入りのプラスチックカップを呷る、ベナウィさんに思わずツッコむ。なんですか? じゃねえよ。
まさかの朝っぱらからの呑兵衛である。リンちゃんも香苗さんも今気付いたみたいで、唖然とした様子で彼をガン見している。
そんな俺たちの様子になんでもないように、ベナウィさんは笑って言った。
「いやあ休日の朝、行き交う人々の中で飲むアルコールは素晴らしい味わいですね。どうです一献、ミスター山形」
「未成年ですけど!? いや、えぇ?」
「そもそも朝から飲むのはどうかという話なのですが」
「ベナウィさん、お酒好き?」
「ええ、お恥ずかしながらですが」
若干頬を染めて言うのは、恥じらいからかアルコール由来か。一見冷静でもどこかテンション高めにビールを飲む彼。ああ、500mlくらいの容量はありそうなカップがあっという間に空だよ〜。
たしかに、この市場では朝からビールやらつまみやら売ってるみたいで、なんなら朝から飲んでる人だって見かけなくはない。
とはいえ大体お一人様かカップルさんだ。家族連れっていうか、子どもを連れている人で酒飲んでそうな人はほとんどいなかった。
結構な人混み、万一の時に子どもから目は離せないものな。酒で正常な判断能力を失うわけにもいかないのだろう。
翻ってベナウィさんを見る。
香苗さんがいるとはいえ、リンちゃんに俺だってまだまだ子どもだ。人生経験は圧倒的に足りてないから、どこ行くにしたって大人がいてくれると安心感は違うし、何するにしても判断能力が違うだろう。
そういう意味で、ベナウィさんって最年長だから、香苗さんさえ含めての監督役とも言えるんだよ。この四人の中では、だけど。
その監督役があんた、いのいちに酒かっ食らうってあんた。しかもこの人、遅刻してきてるからね。俺に酒を勧めてきたことも含めてかなーりやべぇわ。
ジト目で見ると、何を勘違いしたのか陽気に肩なんて組んで笑い始めた。
酔っぱらい始めてるよ、この人!
「ハッハッハッハ! いやあ私は嬉しいですよミスター!」
「いやあの、何がでしょう?」
「あなたの噂はマリアベール様からも聞いていましたからね! どんな方かと思えば、とても素晴らしい方だ! 協力する甲斐というものがある!」
「は、はあ。そりゃどうも……」
なんか一人、盛り上がってるし。あっ、またフラフラと露店に行ってる! なんか、日本酒買ってる!?
しかも今度はおつまみにさつま揚げの串まで仕入れてきてるし。この人ガチじゃん、ガチの酒飲みじゃん。
「いやぁー楽しいですねぇ! 写真撮りましょう、ほらほら」
「え? い、いきなりですか」
「S級探査者のグループSNSに送り付けるんですよ、噂の救世主なう! なんて。マリアベール様もいますから、酒も一緒に映してあげると悔しがりますでしょうねえ」
「こ、怖ぁ……」
S級の人たちの間で噂になってんのかよ俺。ていうかベナウィさん、なぜかマリーさんに喧嘩売る気満々だし。
そもそも俺と酒を同じ画面に映すの止めてほしい。燃える。絶対未成年飲酒がどうので炎上する。主に香苗さんの例のチャンネルが。
酔っぱらいに絡まれ始めた俺を、誰も助けてくれない。まあ外国人の方で、しかも大男だしなあ。
哀れに震える小動物山形を見かねて、ついに香苗さんが彼を止めてくれた。
「止めてくださいベナウィさん。マリーさんとソフィア統括理事に電話しますよ」
「ウッ……こほん。ジョークですよジョーク、ははは」
「白々しい……」
マリーさんとソフィアさんの名前を出したら、途端に大人しくなった。
ていうかSNSでおちょくるのに、直通でやり取りするのは嫌なんだな、この人……
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