アポカリプス・ナウ
話も終わったところで、俺たちは一旦、解散することにした。とりあえず晩御飯を食べたら、各々帰って休もうという話になったのだ。
思わぬハプニングは多々、あったものの。結果を見てみればリンちゃんは無事に決戦スキルを獲得したし、残る決戦スキルの保持者も香苗さんであることが分かった。
あまつさえ俺のレベルも300を超えたことでリーベも顕現。いい加減話せよと思ってきた大体のことが明るみになったのだから、これは中々の成果だと思う。
ソフィアさんとヴァールから、経験値を受け取る形で引き継ぎもできたしね。
そうそう、称号も変わったんだ。リーベ曰く、システムさんからの最後の応援、かもしれないとのことだ。
名前 山形公平 レベル382
称号 禁・天地開闢結界
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
称号 禁・天地開闢結界
解説 時は来たれり。今こそ万魔滅すべし
効果 邪悪なる思念との戦闘時、結んだ絆の数だけ戦闘能力アップ
《称号『禁・天地開闢結界』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……どうか。この世界を頼みます。新たな時代の、アドミニストレータ》
システムさんの、穏やかなようでいてどこか悲壮感も漂う声音。あともう少しで自分たちの足掻きの結果が出るんだから、その胸中は計り知れないよなあ。
あと、地味にレベルが上がっている。端末相手に勝ち目のない戦いを仕掛けたことも、まんざら意味がないわけじゃなかったってことなんだろうかね。
ああ、そう言えばヴァールだ。他のみんなが一旦、部屋を出る中、彼女に少し時間が欲しいと呼びかける。
「ヴァール。それで、俺になにか話したいことがあるんじゃないのか?」
「ん? ……ああ」
端末との戦いくらいから、俺への態度が微妙に変わったこと。何かしら、言いたげというか申しわけなさげな雰囲気を感じること。
そのへんを改めて今、聞いてみたんだけど……彼女は少し考えた後、いいやと否定してきた。
「良いんだ、今は。考えが変わった」
「え。いや、こっちも気になってるんですけど……」
「邪悪なる思念が滅びて、この大ダンジョン時代が終わったあとの方が、お互いに都合が良いと判断した。それに、おそらくその頃には、あなたはきっと……」
そこで途切れる、言いこもる。
勘弁してくれ、やっとこさ色んな謎が明らかになったのに、まだ何か抱えてるのかよ。きっと、なんだよ。言ってくれ〜。
「きっと?」
「……ワタシの予測が合っているならば。すべてが終わった時にこそ、あなたに正しく謝罪ができるから、だな」
「謝罪?」
「そう、謝罪だ。すまないが今はここまでにしてくれ──ソフィアに代わる」
「え。あ、ちょっ」
肝心なところだけぼかして、ヴァールめソフィアさんとバトンタッチしやがった!
どこか硬い表情が一変して、柔らかく、儚げですらある微笑みを湛えたものに変わる。
WSO統括理事にして俺の先代、ソフィアさんが戻ってきたのだ。
「あら、山形様? 試練は終わったのですか? ……え。今何時かしら、ここ、ホテル?」
「お疲れ様です、ソフィアさん。今は18時過ぎ、ここは俺と香苗さんの泊まっているホテルです。試練を乗り越えたあと、えー、まあなんやかやあってここにみんなで逃げてきました」
「そう……なんですか?」
簡単にこれまでの経緯を説明すると、彼女はふむと考え込んだ。
同じ顔なはずだけどやっぱり別人なんだな、ヴァールとはまるで、受ける印象が違う。向こうはどちらかと言うとクールというか、厳格な感じだがこちらは暖かみがあり母性的だ。
そんな、母を思わせる笑みで。彼女は俺に言ってきた。
「ありがとうございます、山形様」
「俺というよりはリンちゃんですよ、主に。ヴァールの決戦スキルを、彼女は正しく継承したんです」
「ええ、もちろんフェイリンさんにも感謝します。御堂様にもベナウィさん、リーベ様にも。ですが私は、まずあなたにこそ感謝を捧げたいのです」
「えぇ……? なんで、俺に」
正直今回、主役はリンちゃんだったと思う。星界拳の悲願を達成し、多くの人の願いと心を背負ってヴァールを破り、その技と心まで継承した彼女こそ、まず真っ先に感謝されるにふさわしいと、俺は思う。
だって言うのにソフィアさんとしては、どうも俺の方に感謝している。
……よくよく聞くと、なるほどと得心いく理由がそこにはあった。
「私の死に様を知り、涙したヴァールを……護ろうとしてくださったから。心を踏み躙られたあの子を想って、勝ち目のない戦いに身を投げてくださったから」
「それは……」
「だから、まずはあなたにお礼を申したいのです。150年経っても愛しい、誰より大切な私のヴァールを陵辱から庇ってくださった、あなたに。ありがとうございました」
「……ありがとう、ございます」
どこまでもヴァールを思い案じ、慈しむその心。ソフィアさんはやっぱり、彼女のことが大好きなんだな。そして彼女も、ソフィアさんを想っている。
だからこそ、150年前にソフィアさんが非業の死を遂げたことに、ショックを受けて傷付いたんだろう。愛する人が自分を庇ってそんな目に遭うなんて、俺は、俺には想像もできない苦痛だ。
「ヴァールもきっと、言葉にしてないかもしれませんがあなたに深く、感謝していますよ。あの子は意地っ張りで照れ屋で、しかも奥手ですから誤解されがちなんです。うふふ」
「それなら、良かったです。それなりに命を張った甲斐も、ありましたね」
なんとなくそんな、想い合う二人が眩しかったのと。
何よりストレートな感謝をぶつけられて俺は、照れを覚えつつもそれを受け入れた。
とにかくみんなが無事で良かった。そう思える、今だった。
これでこのエピソードも終わりです
数話幕間を挟み、本編最終章始めます
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間8位、週間7位、月間3位、四半期1位、年間6位
総合四半期10位
それぞれ頂戴しております
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