太平洋ダンジョン割と無法地帯説
第七次モンスターハザードを経て、AMWに頼りすぎていたことに気づいたロナルドさん。
そこから師匠のアラン・エルミードさんの下で修行を積み直すことで、彼は今の極めて精度の高い《氷魔法》の制御を実現可能なものにしたのだと言う。
「一度染み付いたクセってやつは、どうにもなかなか取れてくれない……苦労したよ、マキシムとミレニアムありきの戦術から脱却するのは。アランさんだけじゃなくてそれこそマリーさんのところも訪ねたりしたなー。あの二人、フランスとイギリスってことで割と近くに住んでたし」
「き、近所とは一体……海を隔ててるのにすごいですね。それで《氷魔法》を今のような、すさまじい威力にまで?」
「なんとか基礎は作れたかなあ。そこからは修行がてら世界を見て回ったよ、当時にはもう結婚していた妻のエマと一緒にね」
「新婚旅行がてらの世界行脚。S級探査者ロナルド・エミールの愛妻家エピソードとして名高いですね。その旅行の果てに今の住処、太平洋客船都市にまで到達したことまで含めて」
「い、いやあ〜……照れるぜ」
香苗さんの補足というかトリビアに、頭を掻いて照れ笑いを浮かべるロナルドさん。
この人、どうも探査者界隈のみならず一般層にも有名な側面があるのだ……ものすごくパートナーさんに対して愛情が強い、いわゆる愛妻家としてのエピソードで人気を博しているんだとか。
俺もこの間、軽くネットで調べたんだけどね。エマ・エミールさんというロナルドさんより6歳年上の方で、元々はウラノスコーポの社員さんだったかとか。
それが第七次の折にAMWを彼に貸し与える際に接触。モンスターハザードを乗り越えていくなかで次第に親交を深め、愛し合うようになっていったんだとか。
なんていうか、第七次周りのロナルドさんが何もかも英雄的すぎて見ていて眩しいよ。俺なんて物理的に光るカルト宗教の神輿的なアレだから余計に。
非道な実験によりすべてを奪われ復讐の戦いを挑むなかで、仲間と愛する人を得て絆の力で正義の信念を胸に人々を守り抜いた──まさしくヒーローそのものな探査者なんだ。
件のハザードが北米大陸全域で勃発していたこともあり、特にアメリカやカナダでは彼をモチーフにしたコミックまで描かれているほどのリアルヒーロー。
ロナルド・エミールさん。間違いなく歴史に名を刻む大英雄たる彼は、けれど若々しい姿で素朴にエマさんへの思いの丈を今、語っていた。
「エマにも苦労かけたよ、俺の新しいスタイル確立のための旅路にもついてきてくれてさ。探査者だから金回りこそ心配はなかったけど、それでも未知の土地を大切な人と一緒に見て回るのは、楽しさと裏腹の不安や怖さも当然つきまとった」
「ところによっては決して、安全と言えない場所もあるからな。しかしロナルドくん。エマさんは当時のことを本当に、宝石かのように美しい思い出として語っているじゃないか。俺は、それこそがすべてだと思うぞ」
「……ですね。俺にとってもそうです、彼女を護りながらともに歩んだあの旅路は、俺を大きく成長させてくれた大切な旅だった。探査者としてだけじゃなく、人として。失った記憶や家族に対してのアレコレも、エマと分かち合えたからね」
淡く微笑むロナルドさん。サウダーデさんもエマさんと交流があるらしく、二人が辿られたという旅路を賞賛し祝福している。
愛する人と世界旅行かあ……俺もなあ、ロマンチックなそういうのに憧れはあるんだよなあ。なんていうか、どんなところでも一緒なら楽しめる、愛せるようなそんな旅路への漠然とした憧憬はあるかもしれない。
まあ、現状の俺ちゃんはそもそも相手がいなけりゃそういう、惚れた腫れたもまだまだ子供ゆえに分かりかねてるんだけどね。
そういうところも含めてゆっくりと生きていければ良いやとも思うし。何しろまだまだ高校一年、ずいぶん妙ちきりんな成り行きになったけど、俺の青春だってこれからのはずなんだから。
「──俺の恥ずかしい愛妻トークはともかく! そんなこんなで太平洋に辿り着いた頃には、ひとまず一人前くらいの使い手にはなれていたんだ。でも、そこから先も大変だったんだぜ」
「そう、なんですか?」
「何しろサウダーデさんやらフローラさんやら、魔境を探査し続ける怪物的な実力者達が日夜、切磋琢磨し合う太平洋ダンジョンに殴り込んだんだ。呑気に新婚生活に溺れてたりしたら、あっという間に蹴落とされちまいそうなくらいの環境だったからね。ついていくのに必死だったよ」
「よく言うな、彗星のごとくやって来ては即座にクランを興して太平洋ダンジョン探査に切り込んできた麒麟児が。大体、他はともかく俺もヴィルタネンさんも切磋琢磨こそすれど他者を蹴落としたりするものか。目指すはやはりダンジョン踏破であると言うのに、こともあろうに同業を排するような輩とは異なるさ」
「怖ぁ……」
太平洋ダンジョントーク、サウダーデさんと小気味良く語らう姿は歴戦の戦友同士の空気を感じられるものの、若干中身が怖いんだよね。
クラン同士の競争があるとは前に聞いた記憶があるけど、割とガチ目に同業同士での潰し合いとかしているクランもあるのか? ……オペレーター同士でそれは、なかなかに本末転倒な話だけど。
まあ、それも太平洋客船都市独自の文化なのかもしれないね。
やはりそのうちに行ってみたい気はするよ、太平洋。
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