ロナルド・エミールの"それから先の話"
その後も順調に快速でダンジョン探査を繰り返す。このペースなら余裕で夕方までには踏破しきるだろう。
今度の敵はバイオレットワームという紫色の巨大な芋虫、俺の苦手なタイプのモンスターだ! しかも部屋内に10匹もいてウジャウジャしているぞ! 怖ぁ……
「仕事だからやるしかないけど、プライベートだったら一目散に逃げてる山形くんビーム!!」
「それ技の名前かな!? 大丈夫? ただのお気持ち表明じゃない!? 《氷魔法》!」
込み上げる苦手意識を込めて山形くんビームを放てば、ともに戦うロナルドさんが隣で叫んだ。いかにも"ガビーン! "って感じの素晴らしいリアクションだ。
この人、ベナウィさんと同年代なんだけどいろいろ反応というか言動が若々しいんだよね。モンスターの因子によって加齢が遅くなっているらしくて、見た目からして20代前半くらいなんだけど……それもあってか、気持ちの面でもお若い感性を持っていらっしゃるみたいなのだ。
そんな彼は彼で今回は中遠距離からの攻撃を担い、《氷魔法》を発動している。
モンスター体への変身による肉弾戦と、スキルによる射撃戦。まったく異なる二つの戦法をスイッチ、あるいは混ぜ合わせての戦闘スタイルは、言ってしまえば俺のそれと近い形のオールレンジなものと言えるだろう。
「山形くんにばかり任せてられないからな、俺もやるぜ! ──カルー・アイスエイジ! 部屋ごと凍れ、モンスター!」
「っ! 範囲の広い、凍結効果か!」
「先ほどはモンスターにのみ干渉していましたが、今回は部屋全体にも波及していますね。毎回、凄まじい干渉力です……!」
発動するスキル、そして技。すると瞬く間に部屋全体が霜がかった氷に覆われていき、当然ながらバイオレットワームごと飲み込んで凍てつかせていく。
名前からして当たり前ながら、氷にまつわる効果だ。即座に敵を凍らせて動けなくし、しかもダメージをも与えている……巨大な虫達が、あっという間に俺のビームとロナルドさんの氷で光の粒子へと変じていってしまったよ。
あっけないほどの静かな戦闘終了。しかし少し後ろに控える香苗さんも、スキルの発動から効果の発現までが極めて早いことに驚きを隠せないでいる。
ダンジョン探査を進めるなかですでにいくつも技を見せてもらってきたんだけど。そのいずれもにおいてこの通りのスピード感で、ほぼ初見の俺や香苗さんやリンちゃんは息を呑んできたんだよね。
通常、魔法シリーズにしろ魔導シリーズにしろ発動から実際に現世に現象を引き起こすまでにはどうしてもラグがある。
どちらもプロセス上、発動と同時に使用者の心象を反映させた特有の事象を発現させ、それを制御して技の行使へと移行するのが一般だからね。
香苗さんやシャルロットさんの《光魔導》にしろランレイさんの《闇魔導》にしろ、あるいは香苗さんのパーティメンバーである鈴木さんの《水魔法》にしろ、その一連の流れは確実にある。いわゆる大前提ってやつだ。
それはロナルドさんの《氷魔法》も同様なんだけど……彼の場合、事象発現のスピードが桁違いに早ければ技の行使もラグがまるでない。
それらをほぼ同タイミングで行っているんだよ。
まるで早撃ちガンマンのクイックドロウだ。
ホルダーから銃を抜き出して撃鉄を起こし、引き金を引くまでの動作を極限まで同一化させたような、効率化の極みのような使用法をしている。
香苗さんの出力制御術とはまた別口にとてつもない技術を、あっさりと使っているがゆえの今、氷漬けの風景だった。
「──マキシムとミレニアムを使っていた頃。俺は正直なところ、あいつらを十全には使いこなせていなかったと思う。スキルブーストジェネレータで増幅していた《氷魔法》の、威力によるゴリ押しが基本だったんだ。まだ17歳とか18歳とかで、しかも復讐だけ考えてたからね。とにかく破壊力をとか、敵を倒すことだけに専念していたよ」
「ロナルドさん……」
「そんなだから第七次を終えて、AMWをウラノスに返してからが大変だった。便利なアイテムに頼りすぎてさ、それを受け取る前の自分のスタイル、元の《氷魔法》の使い方をすっかり忘れてたんだぜ? 英雄だなんだ持て囃されてたのがどうにもいたたまれなかったよ、増長してたんだな俺はーってさ」
過去を振り返って苦笑いし、軽く照れさえしながらも俺達に説明しはじめた。
今回は通路で待機してもらっていたサウダーデさんやリンちゃんも俺達の元に集合しつつ、ロナルドさんが《氷魔法》を解除した。
元の土塊に戻るダンジョンの一室。それを見ながら、彼はなおも語る。
それは、第七次モンスターハザードを経た英雄の……それから先の、試行錯誤の話だった。
「もうその頃には俺も心がけだけは一丁前に探査者だったもんでさ。猛烈に恥ずかしくなった。武器やら変身能力やらにかまけてスキルをおざなりにしてた自分を思い知ったんだ。だから師匠、アラン・エルミードさんに鍛え直してもらって俺は、一から《氷魔法》を練り直した」
「アラン・エルミード……! 第五次の英雄にして世界最高の探査者、ハザードカウンター! シェン一族の文献にも載ってた、二代目ラウエン様もともに肩を並べたって!」
「そうなんだ? なんか俺、意外に縁があるなあシェンさんとこのお家と……」
不意に出た名前、アラン・エルミードさん。
S級探査者のなかでもトップ層に位置し、第五次モンスターハザードにおける活躍からも"ハザードカウンター"の異名を持つという、史上最高の探査者との呼び声も高いらしい大探査者だ。
ロナルドさんの師匠さんなんだな。
なんならリンちゃんのご先祖さんともつながりがあるようだよ。
シェン・ラウエンさん……第二次の時にはエリスさんとともに戦ったって話だし、ものすごい戦歴の持ち主だなあ。
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三巻
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