謎めいたモンスター因子
ロナルドさんに宿る、後天的に組み込まれたモンスターの因子にまつわる謎。
俺、いや私の存在そのもののを恐れたりリンちゃんの蒼炎に怯えたりと、意志や魂は当然ないものの特定の事象に対して反応を示すらしいそれがなんなのか、正直なところ気になるものだ。
ことは異世界にも関わる話ゆえ、失礼かつノンデリカシーであることを承知の上で彼に尋ねることにする。
本当に申しわけないけどね……いくら今は前向きに受け入れていると言っても、面と向かって望まずして出にした力についてアレコレ聞かれるのは決して愉快ではないだろう。
「あの、ロナルドさん。無礼で不躾なのを承知でお聞きしたいのですが。答えたくないならそれでも構いませんので、質問だけでもさせてもらえれば」
「どうしたの、急に改まっちゃって。いいよいいよ聞いて聞いて、そんな気にしなくて良いんだから。えーっと、その口振りからたぶん、俺の因子のことだと思うけど」
「はい……俺やリンちゃんに反応しているらしいことが、どうにも気にかかりまして。浄化能力を持つ俺はともかく、超能力である蒼炎にまでというのがちょっと」
「…………え、超能力なの? あの蒼い炎!? スキルじゃないのは理解してたけど、マジで!?」
「は、はい。スキルとは無関係に、けれどスキル並の現象を引き出せる能力。それを超能力と定義した時、間違いなくリンちゃんの蒼炎はそこに当て嵌まります」
不愉快に思われても仕方ない質問を、それでも爽やかに笑って受け入れてくださるロナルドさん。その寛容な姿勢にホッとしつつも、リンちゃんの蒼炎のカテゴリーについて軽く説明する。
はっきり言うけどあの炎は超能力だ。陰陽術とか霊能力とかと同ジャンルに入れられる力だね。
その正体はこの世界に本来存在している、対概念存在のスーパーパワーだ。魂の力を引き出して用いる、スキルとは異なる可能性の発露。
ステータスの各種事項がそもそも三界機構それぞれの世界での概念存在に対抗するための力で、俺達の世界におけるそれこそが超能力なんだね。
その種類は多岐に渡れど、基本的にその方向性というか根源的な性質は"概念存在特効"あるいは"現世外の存在特効"で一致している。
とりわけ蒼炎なんてのは、そこに加えて独自の性質として物質特効も乗っていて、だからモンスター相手にも有効なのだ。
現世にない存在かつ、物質としての特性も併せ持つ連中だからね。二重特効状態になるわけで、そりゃ効果も覿面に決まってるわけ。
そのへんの裏側事情を省きつつ軽く言うと、ロナルドさんばかりか話を聞いていたサウダーデさんやリンちゃんも感心しきりにうなずいている。
香苗さんに至ってはいつものごとくメモメモメモってるほどだ。余念がないよねー、この人も。
「っへえぇぇ……超能力ってのがあるのは前から見聞きしてたけど、フェイリンさんのもそうなんだなあ。たしかにスキルとは違うみたいだから、そりゃ超能力だよなあ」
「たしかフェイリン殿の他にも、シェン一族のなかには同じ炎の使い手がいるのだったか」
「はい! 古くは二代目里長シェン・ラウエン様が死の間際に発現させたのが記録に残ってる最初で、以後はチラホラ使えたり使えなかったりする人がいました! あとはうちの兄ちゃん、シェン・ハオランが使えます! なんか私が生まれる前から、息をするくらい簡単にあの炎を出せてたって話です!」
「怖ぁ……」
褒められて気分が高揚しているのか、頬を赤らめつつシェンの蒼炎についてリンちゃんが語った。
実のところ蒼炎自体は別にシェン一族特有の力というわけではなく、あくまで魂が持つ力の引き出し方を理解した者ならば誰でも使える類の力なんだけど……星界拳の技法がそのへん、ちょっと特殊な鍛錬法でもしてるのかな。
広い世界を見渡せばおそらく現時点でも、蒼炎やそれに近い現象を繰り出せる人は能力者も非能力者も関係なしに、少ないながらもいるだろう。
とはいえやはりシェン一族に特に多く発現しているらしいのが気になるところだ。星界拳が今後より一層の発展を遂げていけば、蒼炎使いのシェンはさらに増えていくかもだね。
っていうか、ハオランさんの話が無茶苦茶すぎてそっちにも普通にドン引きだよ。リンちゃんが生まれる前からってガチで幼少期の頃だろ。あの人今25歳とかそこらだし。
そんな頃から息をするようにリンちゃんと同等かそれ以上の技術で蒼炎を出せてたのかよ。そりゃ次期里長も内定するよな、本人はずっと家に籠もってゲームしてるみたいだけど。
いろいろすさまじいシェン一族のトリビアも聞きつつ、次の部屋へと移動する。
その道中、ロナルドさんは先の俺の質問に答えてくれていた。
「い、いろいろすごいシェン一族についてはさておいて……山形くんの質問に答えるけど、なんのモンスターだかは実は俺も知らないんだよね。WSOも調査してくれていた時期があるんだけど、そっちですら掴めなかったそうだし」
「そう……なんですか? ええとその、あなたにそれを組み込んだ組織、たしかノインノア・ジェネシスのアジトとかに資料は」
「あるにはあったけど、大体被験者達のデータばかりで元になったモンスターについてのまともな情報はなかったんだよ。コードネームすらなく"因子"、"アレ"なんて呼び方してたしな、構成員の連中も」
「徹底してますね……そこまで正体を隠したかったのか、あるいは」
「連中ですら、元のモンスターについて知るところが少なかったのかもなあ。未だに出所不明なのが例の因子だって話だしさ」
軽く、こともなげに語るもその内容は壮絶かつ謎の深いものだ。
ノインノア・ジェネシスの構成員でさえ正体を理解していなかったかも知れない、謎のモンスター。その因子を組み込むのが改造兵器人間製造実験計画……か。
あるいはそちらにも委員会が絡んでいるのかも知れないな。
そこまで考えて、しかしこれ以上は考えても仕方ないのだろうと俺は考えを打ち切った。
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