突然、興奮する御堂
「御堂将太。そこの御堂香苗の曽祖父にあたる男がかつて、最終決戦スキル《究極結界封印術》の持ち主だった」
「…………!!」
「だからこそ問おう。御堂香苗……お前は彼から、そのスキルを継承しているな?」
「何ぃっ!?」
「なんですとー!?」
俺とリーベ、二人の心底からの驚きが部屋に響く。
香苗さんは、構わずにヴァールをじっと、見つめていた。
まさか、まさかの指摘である。
これまでずっと、それこそリーベより先にずっと、俺の傍にいて、俺を支えてくれていた人。
御堂香苗その人が、邪悪なる思念との決戦における、最終ファクターだったかもしれないだなんて。
っていうかリーベも知らなかったのか。マジか。
「お前が、山形公平に出会い頭からストーキング行為に及んでいたのも。執拗な布教行為を大々的に行っていたのも、曽祖父から継承したスキルが反応したことを受けてのものだ。違うか?」
「布教はともかくストーキング……?! 失礼なことを言わないでください! まったく心当たりありません!!」
「そこに食い付くな。そしてどういう勢いと認識なんだ貴様は……」
割とシリアスな流れだったのに、一気に弛緩した感じがする。若干強張っていた俺とかリンちゃんも、ふぅーと息を吐いて目を見合わせた。
しかし、布教活動についてはまあ、ネットでいくらでも証拠が転がってるからあれだけれども。出会い頭の、のっけから俺に目を付けていた肉食獣御堂さんの姿まで、ヴァールは知っているのか。
なんとなく不思議に思って尋ねると、なんだか、藪を突いたら蛇が出た、みたいな返事がきてしまった。
「一応な。定期的にだがワールドプロセッサから、新たな時代のアドミニストレータであるあなたについては、その周囲も含めて話を聞かせてもらっていた。御堂将太の曾孫が付き纏い始めた時点で推測していたが、当たりのようだな」
「ですから付き纏いでもストーキングでもなく! 運命です! 一目見た瞬間、曽祖父の教えが実感できたあの体験は!! まさしく神託でしたっ!!」
「そこでひいおじいさんが出てきた時点で、もう語るに落ちてるんじゃないでしょうか」
冷静すぎるベナウィさんのツッコミ。この人ほんと、戦う時以外は頼りになるよなぁ〜。
たしかにそのとおり、こんな話の流れでひいおじいさんの教えとか出てきたら、そりゃもう半分以上は何やら察するよね。
大体、何の理由もなしに今みたいな興奮した狂信者ムーヴをかまされた日にはこっちが堪らない。この際決戦スキルが関わってなくても良いから、頼むから何か理由を俺にください。
そんな思いで香苗さんを、生暖かい目で見る。自然とみんなも、そんな目をしてくる。
視線の集中砲火。そして彼女は、深くため息を吐いた。
「っはあぁぁぁぁ……! まあ、教えにも沿ったタイミングですから、私としても近々、教えるつもりでいましたが。公平くんと二人っきりの時、ロマンチックなムードで明かしたかったです」
「ってことは、やっぱり?」
「ええ、そうです。いかにも私は、曽祖父より最終決戦スキル《究極結界封印術》を引き継ぎました。そして、公平くんを初めて見かけた新規探査者教育の時。その使用が解禁されています」
ついに認めた。やはりこの人が、最後の決戦スキル保持者だったんだな。
灯台下暗しというか……いや、気付くかそんなこと。まったくおくびにも出さなかったんだし、そもそも決戦スキルの話が出たのだってつい最近のことじゃないか。
香苗さんはそこから、色々と話し始めた。
夜天に星が煌めく、とある幼い日。曽祖父から、大切なものだと言われ、スキルを与えられたと。
そしてそのスキルは、今は封印されているがいつの日か、開放される時がくると。
「そしてその時、目の前にきっかけとなった人がいるならば……その人をよく見て、よく触れ合って。人間性をたしかめなさい、と。それが曽祖父の教えでした」
「それで、わざわざ俺の新規探査者教育にも一枚噛んだんですか?」
「はい。正直、曽祖父の教えなど従うまでもなく、出会った時点であなたの人間性に疑うべき点など一切ない、とは直感しましたが。その……あの、知り合うきっかけが欲しくて!」
「かわいい」
「かわいい」
「かわいいですねー」
「青春ですねえ。いささかまあ、妄執気味ではありますが」
「うるさいですよ、みなさん!」
珍しいことに頬を真っ赤に染めて、香苗さんは恥じらいを顕に叫んだ。ヴァール以外のこの場のみんな、率直に微笑ましさを感じて囃す。実際かわいい。
なるほど、道理で初対面からやたら、距離を詰めてくるわけだ。ひいおじいさんである将太さんについては、以前に香苗さんの御実家を訪問させてもらった際に聞かせてもらっている。弟さんの光さんも強く尊敬しているらしい、偉大な人みたいだ。
「と、とにかく! そういうわけで決戦スキルを保持しています。どうですかリーベさん。これで、ファクターは揃いましたか?」
「バッチグー! ですよー。とはいえ、今すぐ殴り込むわけにもいきませんから。諸々準備と休息も兼ねて、そうですねー、半月から一月ほど、期間を設けましょうかー」
「マリアベールを呼び、ことの経緯と予定についてを話す必要もある。そのあたりは、ワタシではなくソフィアが主体だが……」
香苗さんのセリフを受けて、今後の予定がざっくりとだが、リーベの口から語られた。
半月から一月後かぁ。大体遅くても、夏休み入る直前ってとこかな? 丸く収めて高校生活初めての夏休みと洒落込みたいところだ。いやまあ、死ぬ確率も大いにあるんだけれどさ。
そのへん悩んだって仕方ない、できる限りを尽くすだけだ。システムさんやリーベ、ソフィアさんやヴァールがこれまで、そうしてきたようにね。
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