赤い炎のサウダーデ、蒼い炎のシェン・フェイリン
次の部屋、102部屋目に移動する。当然いるよねモンスター、そしてすぐさま飛びかかるお二人さん。
そうだね、近接戦闘担当のサウダーデさんとリンちゃんだね。ここに至るまでの100回近くに及ぶ戦闘のなかですっかりこの流れはお決まりになっていた──お二人がまずは先行して殴りかかり、数が多いようなら俺と香苗さん、ロナルドさんで対処すると。
「《炎魔導》! サウダァァァァァァデッ・バトォォォルファァァァァァイトッ!!」
「星界! 龍王転身脚ッ!! ──しぃぃぃぃぃぃっ、やぁぁぁぁぁぁっ!!」
スキルを用いて全身に炎を纏い、部屋の中にいるモンスター・A級モンスターであるリッチナイトに肉薄するサウダーデさん。
同時にリッチナイトの取り巻きであるモンスターの群れに、飛び跳ねながら蒼炎を纏った両足を自在に繰り出すリンちゃん。
揃って通路からのシームレスな奇襲、モンスター側に対応する暇など当然与えない勢いの猛攻だ。
リッチナイトなんてのはB級モンスター・リッチの上位種で、リッチと異なり自身も剣を装備して戦闘力を保持している厄介さを増した化物なんだけど、それでもこの二人の前には大したこともない。
咄嗟に剣を振るうものの、即座にサウダーデさんの拳にへし折られ、しかも炎で燃やし溶かされてしまった。
「ぐげげぎぎががごご!?」
「サァァァァァァウ、ダァァァァァァデッ・クラァァァァァァッシュッ!!」
「ぐぎぎがぎぎががががげが────!?」
「サウダーデさんの《炎魔導》、相変わらずの威力ですね……ただでさえ常軌を逸した破壊力の殴る蹴るに、極限まで高めた炎の火力まで乗って」
「あの人の炎は、俺の《氷魔法》でもジリ貧だからね。割と汎用性の高い魔法シリーズじゃ、殺傷力特化の魔導シリーズには戦闘面で不利ってのもあるけど……何より御本人が努力を積み重ねた末に至った練度がヤバいんだ。あの人くらいだよ、60歳を迎えて全然肉体的にも衰えてない太平洋の探査者なんて」
続け様に放つ蹴りの一撃は、リンちゃんの華麗なる星界拳とは真逆に重厚かつ迫力に満ちた必殺の剛脚だ。
まして鍛えに鍛えた《炎魔導》さえ絡めての威力……そんなのを受ければまともな反撃などできるはずもなく、リッチナイトは剣の次には鎧ごと骨身に風穴を空けられ、しかも絡みつく炎に焼かれ光の粒子と化していった。
その様子を後方から、後詰めとして控える俺とロナルドさんが見学させてもらう。
さしものロナルドさんの《氷魔法》であっても、こと破壊力や殺傷力という点においてはサウダーデさんには及ばないらしい。
まあ、ともにS級最高峰な腕前だし、そうなるとあとは他の要素とかスキルの違いが大きく影響してくるものだからね。
反面、サウダーデさんでは難しいスキルによるバリア展開とか、あるいは他の応用なんてのはロナルドさんのほうが上だから、そこは適材適所ってものだろう。
「我が豪脚は龍の咆哮ッ!! 星界拳の恐ろしさ、とくと知れッ!!」
「ぐぎゃあおおおおおおお」
「ほげ────」
「みきききききーっ!?」
次いで見るのはリンちゃんの連撃。こちらもサウダーデさんとは対照的で、恐ろしく軽やかで早く、そしてしなやかなのに強い。
あまりの勢いに脚を振る度に衝撃波が発生しているほどだ。言うなれば繰り出す攻撃の一撃一撃に周囲をも巻き込む威力があるわけで、これももうほとんど超能力みたいなもんなんだよね。
見ればサウダーデさんも普通に手足から振るう攻撃に衝撃波が伴ってるし、極まった武術家ってのは平然とソニックブームを放つものなんだなあ。
これにはロナルドさんもドン引きと感心が入り混じった様子で、主に若手のリンちゃんに注目していた。
「フェイリンさん、マジですごいな……あのサウダーデさんと、少なくとも武術的な動きでなら見劣りしてない。彼女、本当にティーンエイジャー?」
「それは間違いないですが、彼女の背中には100年続いたシェン一族の技術と魂が込められています。あの蒼炎もそうなのでしょうが、実際、私から見てもすさまじい動きです」
「さすがに経験とか年季、それとレベルの差でサウダーデさんほどのキレや探査者としての動きの良さはないですけど。そこはこれからの成長で埋めていけるでしょうね。正直、あの子は実力的にはもうS級クラスはあり得ると思えます」
「同意見だね。無論その括りの中だと下位だけど、将来的には十分に上澄みを狙っていけるよ」
香苗さんと俺が口々にリンちゃんを讃えれば、ロナルドさんほどの方であっても異論はないみたいでうなずいてくれた。
シェン・フェイリン……探査者としては異端な、己の一族が誇る星界拳のみをもって戦うスタイルのオペレーター。しかしそこに宿る才覚はまさしく天井知らずで、練り上げた功夫のみをもってすでにS級探査者達の領域に足を踏み入れているんだ。
この子をこそ、紛うことなく天才と言うべきだろう。
近接戦闘の頂点に君臨するサウダーデさんと肩を並べて戦う細身で小さな可愛い女の子の、すべてを圧倒する蒼き炎の両脚はたしかに、世界にその名を轟かせるだけの威力を備えていた。
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