そして始まる大ダンジョン時代
「端的に言えばモンスターとは、三つの異世界が元々内包していた魂たちを、邪悪な形に変質させたものです。侵略の尖兵として、邪悪なる思念が生み出しているんですねー」
「……てことは、元々は別の世界の住人たちってこと、なのか。モンスターは」
「魂は、ですよー? モロに元人間でしたーとか、そういうダークなものではさすがにないので、そこはご安心くださいー」
リーベの説明に、俺はなんとも言えない苦いものを胸に抱いていた。
モンスターがどこから来たのか、一体その正体は何なのか……邪悪なる思念絡みから色々、嫌な妄想はしてきたけれど。正直、明かされた真実は最悪ではないにしても、かなり悪いものだと思う。
侵略されてしまった三つの異世界、そのものを化物に変えてしまったこともそうだし、ましてやその世界にいた魂たちさえモンスターとして利用するなんて、あんまりにも外道すぎる。
率直に嫌な思いを抱えているのは俺だけでなく、香苗さんも、ベナウィさんもリンちゃんも、苦々しい顔を見せている。
命を奪っている自覚こそこれまでだってあったけど、実際に明言されるとやはり、心理的な負荷はあるよなあ。
微妙になりかけた空気を、けれどリーベは優しく微笑んで告げる。
「優しいですねー……大丈夫ですよー。モンスターたちには、しっかりと救いが示されていますから」
「救い……?」
「輪廻に受け入れる、と言いましたよね。倒したモンスターは一定の確率で、邪悪なる思念の支配と再利用から解き放たれて、この世界の魂として輪廻転生の輪に入ることができるんですよ」
つまり、纏めるとこういうことだった。
邪悪なる思念はモンスターを用い、この世界に侵略を仕掛けてきていた。
それを察知したシステムさんは、侵食されることで得たスキルとダンジョンの力を逆に利用。ダンジョンにモンスターを隔離し、異世界の魂をこちらに引き込む役割の戦士を生み出し、専用スキルを持たせて戦わせたのだ。
その戦士ってのが初代アドミニストレータ、というわけだな。敵の力を削ぎつつこちらの力を蓄える、まさしく一石二鳥ってところか。
「一定確率、というのもオペレータの話であって、アドミニストレータが倒せば確定で魂を輪廻に飛ばせます。スキル《救いを求める魂よ、光と共に風は来た》のモンスター特効はそういう意味なんですねー。ただ、素手で倒す必要がありますけどー」
「…………あの〜。まさか、俺の武器使用を禁止した理由って」
「せっかく確定で魂を引き込めるのに、武器なんて使わせるわけないじゃないですかー」
「ですよねー!」
思わぬ形でわかった事実! くそう、なまじっかそれなりにちゃんとした理由があるから、文句の一つも言いにくい!
そりゃあ、素手で戦わせることにこそ意味があるなら武器を禁止するよなあ。
でも俺だってヴァールみたいな、鎖とか振り回してギルティイェーイとかしたかったなぁ〜! とか。
そんな馬鹿なことを考えていると、おもむろに香苗さんが挙手した。
「はいミッチー、どうぞー」
「ミッチーはどうかと思いますが……こほん。それで、話を戻しますが。500年前にはすでに、あなた方システム側と、邪悪なる思念との間で戦ってきていた、ということですね?」
「そうなりますー」
「それが、150年前にあなた方の敗北という形で決着した、と? 当時アドミニストレータだったソフィア統括理事が、殺されることで」
「……そう、ですねー」
沈痛な面持ちでリーベは肯定した。ふとヴァールを見ると、彼女も静かに俯いている。
俺の先代であるソフィアさんが負けるまでに何があったのか。そして、負けてからどうしたというのか。
大ダンジョン時代とは結局、なんなのか。
辛いかもしれない事実だけれど、俺たちはそれを、知らなきゃいけない気がした。
意を決してリーベが語る。
「……はっきり言えるのは、邪悪なる思念は150年前まで、本腰でなかったということですー」
「と、言いますと」
「あの日……150年前のあの時。邪悪なる思念は突如、三界機構すべてを伴って現れました。飽きた、とだけ呟いて、そして」
「……そして、ワタシたちは負けたのだ。悲しいくらいに呆気なく、死にたくなるほどに、情けなく」
その時までの350年間、戦いは一進一退を繰り広げていた。折に触れて増加するモンスターと、それらに対応する、時代時代のアドミニストレータと補佐役、ヴァール。
どれだけ続くのか分からないほどの、永劫にも似た戦いは、けれどある日、邪悪なる思念の気まぐれで崩壊した。
三界機構。天地開闢結界を伴っての化物たちの蹂躙で、瞬く間に侵略は加速したのだ。
「ソフィアは殺され、ワタシも半死半生で逃げ延び。ダンジョンからは無数のモンスターが地上に溢れ出ようとしていて」
「精霊知能も半数が壊されました。ワールドプロセッサが直接、邪悪なる思念と戦いもしましたが……やはりあの結界にやられ、権能の半分近くを損ない」
「ボロ負け……」
「全滅に近いですね、もはや」
リンちゃんとベナウィさんの二人が、嘆息混じりに言った。うーん、たしかにこれはボロ負けだ。よく今の今まで世界続いてるなってくらいの負け方じゃないか。
ワールドプロセッサ、つまりシステムさんまで前線に出て、しかも負けて。事実上の完全敗北としか言いようがない。
忌憚ない言葉の数々にも動じず、ヴァールは続けた。
「実際、本来ならばそこでこの世界も食われていたのだろう。だが、本当にギリギリ、終焉の一歩手前の段階で。ワールドプロセッサは最後の手段を取った」
「最後の手段?」
「…………セーフモードへの移行。この世界のすべてを凍結し、強制的に邪悪なる思念とこの世界を切り離したのだ。本来あるべき歴史の流れ、時代の進みさえも止めてな」
そして生まれたのが、大ダンジョン時代だ。
そう、ヴァールはたしかに言った。
この話を投稿した時点で
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