救世主と水の女神と伝道師と使徒と
「我々がまず真っ先に行くべき場所は決まっています……分かっていますね使徒宥」
「無論です伝道師香苗。この世をあまねく照らす光であり風である我らが救世主山形公平様が書き記されたこの世の至宝を拝観しに行くのです」
「いかにもその通り御方がお創りになられたその書物こそはスキルについての真実と真理を端的に表したものすなわち我らが探査者であるならば必ずや拝読し目に焼き付けて一言一句その字その文その構成その色艶その内容の端から端に至るまですべてを余すことなく記憶しなければなりませんこれは救世の光の伝道師たる私と使徒たるあなた達の使命であり探査者たる我々の義務でもあります」
「未だ全容不明かつ底知れない奥深さを持つステータスおよびスキル称号レベルそれらの一つに我らが敬うべき至尊の救世主様は一つのヒントをお与えくださったものと心得ておりますそこを見逃しては我々が我々である意味がありません救世の光は御方を讃え尊びそしてその教えを世界に広め知ろしめすことが活動目的であり存在理由なのですから」
「怖ぁ……」
のっけからこの調子だよ、二人分の句読点さん達がダブルデートしにグリーンランドまで行っちゃってるみたいだ。
何組かに分かれた俺達のグループ、最後の一組こそは俺ちゃんと香苗さん、宥さん、ミュトスの四人なんだけども……そしたら案の定伝道師さんと使徒さんが何やら交信し始めたのである。
会話内容から察するに、おそらく真っ先に自由研究展示会に行きたいのかな。それも俺が作ったスキルについての研究を、何よりターゲットにしているみたいだ。
ぶっちゃけ、そんな大した内容でもないんだけどなあ。それぞれオペレータに与えられたスキルのさらに先にあるもの、進化スキル、派生スキル、統合スキルについて思うところを、まあ現世にバレてもかまへんかーくらいの範囲で塩梅良く記しただけのレポートでしかないわけだし。
けれどお二方にとっては、俺が作ったというところにこそ値打ちを見出しているみたいだ。
完全に宗教色に染まってますね怖ぁ……なんならミュトスも巻き込まれてるし。今や香苗さんと同じマンションの同じ階層の部屋の住人ってこともあり、すっかり仲良しさんだものなあ。
すっかり使徒扱いされてるまであるよ。
「使徒ミュトス、あなたにとってもこれは決して他人事ではありませんよ。なぜならあなたもまた救世の光の使徒でありかつ、御方が総責任者として率いられるかの部隊の中核メンバーなのですから。我々救世の光にとっても、あなたの存在の重さは計り知れません」
「え、あ、はい! あの、ミュトスちゃんとしても山形様の研究発表に触れて学ばせてもらうことに異論なんざございやーしやせんが! ……あのう、もうちょい小腹が空いたので道中で何か食べ歩きとかしたいでーす、ナンチテカンチテ」
「ええ、もちろん構いませんよミュトスさん。さすがです、公平様がこの世のためを想って創ってくださった後世への宝とも言うべき人類の財産を前に腹拵えをしてベストコンディションで臨まれるだなんて! 私ももう少し何か食べることにします。救世主様に関わる物事に触れる以上は可能な限り万全を期することは信者の義務ですから!」
「は、はあ……あのう、山形様? そういうわけでしてもう少し何か食べてからあなた様の創られたこの世に残すべき至宝かつ人類の財産を見に行きたいんですが大丈夫でせうか?」
「アッハイ」
うーん、ミュトスまでタジタジ。句読点こそ緊急帰国してきたものの、やはり一切衰えることのない勢いと切れ味の伝道師と使徒の前には彼女もいつものノリを発揮しづらそうにしているよ。
たははー、と照れ臭そうに笑うミュトス。そう言えばこないだにはついに引っ越しを果たした彼女だけれど、その暮らしぶりはどんな感じだろうか? なんやかや一週間は経つけど、何か不安なこととかないかな。
一応、ここに至るまでミュトスも何度か我が家に戻ってきて晩御飯を一緒に食べたりはしてるんだけどね。例の取り調べやら文化祭やらがあってなんやかんやしていて、彼女の新居にまで行くことは実はまだできてなかったりする。
リーベやシャーリヒッタはすでに行ったことがあって、なんか秘密基地ができた気分ですーだぜーとか言ってたから気にはなってるんだけどね。俺自身はせめて文化祭が終わって、落ち着いてからでないとなかなかって感じなのだ。
ぼちぼち13時も回ろうかって頃合い、今言った通りの組分けで分かれた俺達もそろそろ動き始める。
俺、香苗さん、宥さん、ミュトスも同様に大会議室を出て歩き出す──目的はさしあたり自由研究が展示されてる美術室、そしてそこに至るまでに適当に見かけた模擬店だ。
ついでに俺も、いろいろ食べるぞーと考えつつミュトスに尋ねる。
「そう言えばミュトス、新生活も一週間は経つけどどんなもん? なんか困ったこととかあったら遠慮なく言ってくれ、またそのうちそちらを訪ねることになるからその時に一緒にどうにかしようか」
「ありがとうございます! いやー今のところはお陰様で、至極快適な一人暮らしさせてもらってますよ。日常の分からないところとかも香苗さんにご指導いただいてますし、リーベさんやシャーリヒッタさんもちょくちょく来てくださってますし」
「ミュトスさんは隣人としてとても良く振る舞っていますよ、公平くん。ご近所付き合いも相応のコミュニケーションをしていますので、なんら問題はありませんとも」
どうやら香苗さんも太鼓判を押すほどの馴染みぶりらしい。さすがミュトスだ、コミュニケーションちからがすごいぜ。
そのへん、調和と協調を司る水の女神だっただけはあるよねー。
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