何やら手遅れな方がいますね……
「山形さん、いつもうちのパーティの関口がお世話になってます。そのことも含めて、あらためて先日は本当にありがとうございました」
「海北さん」
近江さん、群馬さん、青森さん。ハミバの三人に続いて出てきた四人目は、いよいよ関口くんのパーティメンバーだという海北アキラさんだった。
黒髪に銀のメッシュを入れた、クールな感じだけど表情は優しく温度のある笑顔の少女だ。これはハミバ全員に共通して言えることだけど、アイドルやってるだけのことはありすごく魅力的な女の子達だと俺ですら思うよ。
そんな海北さんは前の三人にも増して俺に踏み込んで近づいてくる。至近距離と言っても良い近さで、なんだろう案外パーソナルスペースの狭い方なのかな? と思っちゃう。
すると海北さん、俺の手を両手で握って、何やら深々と頭を下げてきたのだ。え、何なんなのこのいきなりムーヴ怖いよ!?
「へ!? あ、あのう!?」
「今年の春から、あの馬鹿が少しずつ変わっていったのは山形さんのおかげ、なんですよね? アイツ自分で言ってました、あなたのような人間になりたいって」
「え……と。もしかしなくても関口くんのことですか」
「はい。たぶん知ってると思いますけどこの数年、あの馬鹿は最低なカルト思想にどっぷり浸かって、探査だってろくにしないで遊び呆けてました。仲間として支えていた私や他のパーティメンバーでさえ、もうそろそろアイツはさすがにダメなんじゃないかって思い始めていたくらいです。人として恥ずかしいやつだったんです、春までのアイツは」
「怖ぁ……」
いや言葉強っ。パーティの仲間である関口くんについて、思いっきりボロクソ言ってくる海北さんに震える。
もちろん、仲間であるがゆえの気安い毒舌なんだろう。俺への丁寧な口調からも、普段から誰にでもこんな感じじゃないのはよく分かる。っていうかそんなことしてたらアイドルとして普通にやっていけないだろうし。
何より、パーティメンバーとしてはこのくらい言われても仕方ないくらいに過去の関口くんが大概酷かったんだろうなーってのも理解できちゃうんだよね。
他ならぬ彼自身が度々、今となっては苦い思い出として語っているもの。カルト思想──真人類優生思想にドハマリして、探査者こそが世界の支配者となるべきだと勘違いしてきた自分を、きっと海北さん以上に今の関口くん本人が嫌っていると思うほどだ。
そんな過去の関口くんについて吐露する海北さんは、けれど俺を真摯な瞳で見上げて握る手に力を込めた。
感謝と尊敬が入り混じった、思いのこもった握手。そして彼女は、熱っぽく頬を染めてさらに続けるのだった。
「そんなアイツを糺してくれた、山形さんは私達パーティの救世主です。救世の光チャンネルいつも拝見しています、あなたは人間としても探査者としてももちろん救世主としても最高です!」
「は、はあそれはどう……はい?」
「お会いできて光栄です救世主様、ようやく御礼が言えました! 救いの光を二度も差し向けられておいて今日に至るまでまともにご挨拶にも伺えなかったことを許してください、救世主山形さんッ!!」
「まっ……ちょっ、待って…………信者の方ァ!?」
嘘だろその瞳と言葉に宿る信仰の光!? 思わず伝道師さんと使徒さんを見ると、二人は何やら腕組みしてサムズアップさえ見せつけている。おう後方師匠面やめてもろて。
まさか今しがた伝道かまして引きずり込んだとかでもないだろう、口ぶりからして日常的にあのチャンネルを摂取してるみたいだし。
ってことはナチュラルにこの人、例の信仰に染まっちゃったガチの人ってことじゃん怖ぁ……
周囲のハミバメンバーも、俺の仲間達もなんなら他の来校者の方々もあぁ、なるほどみたいな生温い目をこちらに向けてきているのが非常によろしくない。
ていうかアイドルまでこんなとかマジでハーレム救世主呼ばわりが加速しちまうんだけどなあ、もう!
「あの、あの! ……ええと、お、お気になさらず。せ、関口くんは自分自身の力で自分を変えたんです。そのきっかけがなんだって、そうすることを決めたのは彼自身なんですから、本当に立派ですごいのは関口くんなんです。あと、救世の光についてはえー、僕自身よりそちらの伝道師さんのほうが、ハイ」
「本当に、信じられないくらい謙虚なんですね……! そんな山形さんだからこそ、あのトンチンカンも私も影響を受けているんだと思います! 救世主様、バンザイ……!!」
「えぇ……?」
「はいはいーアキラちゃんアキラちゃん、そろそろ救世主さんも戸惑い過ぎやしちょいと落ち着こなー?」
「あっ、キィラ……」
やんわりと、波風立たせないように矛先を俺から香苗さんに向けようとしてもまるで効果なく、むしろ海北さんはさらに感動した様子を見せる。
そこへさすがに見かねたか、ハミバ最後の一人である宮崎キィラさんがストップをかけて俺から海北さんを引き剥がした。
桃色の髪の、ちょっとギャルっぽい感じの子だ。でも穏やかに微笑んで海北さんを即座に鎮まらせたあたり、なんだろう姉とかお母さん気質も感じる。
そんな宮崎さんも俺に軽く会釈して、関西弁訛りのある自己紹介を始めるのだった。
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