一つ大人になった少年
興奮冷めやらぬまま教室へ戻る俺達1年13組。全員が全員、前準備から本番に至るまでにやるべきことを全力でやりきった結果の大好評に終わった演劇の帰りは、胸をすくような達成感が渦巻く心地いい凱旋となっている。
とりわけ、やはりというべきか主役の関口くんは本当に成し遂げたって感じの空気を出していて……嫌味じゃない自信とか、ナチュラルな強気とか強さをも感じさせている。
ある意味、この演劇を通して彼は成長したんだろう。探査者としてもそうかもしれないし、でもそれ以上に一人の人間として。
その自覚を彼自身持っているようで、教室に戻ってみんなが一段落つくなり、教壇に上がってこちらに向け、深く頭を下げて謝意を示したのだ。
「みんな……本当にお疲れ様でした、ありがとうございました! なんていうか、俺ばっかり目立つ形になったこの劇だけど。それでも一丸となって頑張って盛り上げてくれたこと……本当に、すごく嬉しかった!」
「関口くん」
「こっちこそお疲れ様だったぜ関口! お前のおかげで"勇者関口物語"は成功したんだぜー! 胸張れ胸張れ、主役だろー!」
「そーだよ久志くん! それに帰りもすごい人気だったじゃん、出待ちまでいてさ! もうそんじょそこらのアイドルよりアイドルだったよ!!」
「みんな……!」
やはりテンションが高くなっているというのはあるんだろう。だけど、その感謝の言葉と姿勢は嘘偽りない本心のように俺には見えた。
以前の関口くんだと、なんだろうな、良い悪いは別にしてもうちょい控えめというか……照れ混じりになっていたところだろうに。勢いもあってのこの素直さだろうけど、明確にこの演劇を経て、彼の心理的な部分に変化が見られている気はするよ。
クラスメイトのみんなも、当然ながら笑顔で彼を労う。実際、誰より本気でこの劇に取り組んで努力していたのは関口くんだしね。
自分の名を冠した、自分が主役で目立ちまくりの劇だもの。それ自体は彼が望んだものではないけど、それでもそこに生じる重みとか責任ってものを背負っていたんだろう。
その果てに彼は見事、勇者関口をやり遂げきったんだ。そこに賞賛以外の言葉なんてあろうはずもない。
自然とみんなが拍手する。瞳を潤ませて、主役たる関口くんは再び頭を下げるのだった。
そこから少しして、さやかちゃん先生が天真爛漫な笑顔で話しかけてくる。ちょっとしたホームルームだ。
「はいはいはーい! それではちょっとだけ先生からのお話です、みんな聞いて下さいねー。関口くん、まずは本当にお疲れ様でした! 席に戻って、ゆっくり落ち着いてください」
「先生……先生にも温かく見守ってもらいました。ありがとうございました」
「……ふふっ。なんだか見違えるように大人になりましたねえ。生徒の成長、子供の成長に先生もなんだか、ビックリです」
先生が仰るように、今の関口くんは演劇前にも増して大人っぽくなってるように思う。一皮剥けたって表現がしっくりくるというか。
前からも素の部分はそういうところがあったけど、やはりそれを表に出すことを恐れなくなったって印象だ。
さやかちゃん先生も同じように思ったのか淡く微笑み、嬉しそうにしている。
教師冥利に尽きますねえ──そんなことさえ口ずさみつつも、彼女はクラス一同に告げた。
「演劇の成功、改めてみなさん本当にお疲れ様でした! みなさんの頑張りは先生もすごく見てました、誇らしい思いで今、胸がいっぱいです!」
「さやかちゃん先生もお疲れー!」
「うふふ、お疲れー! ……それでですねえ、ここからはみなさん自由行動という形で文化祭を楽しむ形になりますけれど、一応の注意事項だけしておきますね!」
そこから語られるのは、まあやはりお決まりの注意事項だ。何しろこのクラス、出し物である演劇が終わった以上は全員フリーだからね。
部活動に所属している人はその絡みで別口の出し物に関わっているとは思うけど、少なくとも俺ちゃんは完全フリーダムだ。だもんでこの後、先ほども演劇を見てくださっていた仲間達と合流してひとときを過ごそうかと思ってるし。
時間的にはもうお昼だし、まずは模擬店で焼きそばとかたこ焼きとか食べるかなー。
照明機材弄ってただけなのになぜか全身筋肉痛でエネルギーを消費している俺ちゃん、今日はたくさん食べちゃうぞー。
「────以上のことに注意して、残る文化祭を楽しく過ごしてくださいね! ではでは、みなさん解散でーっす!」
「うおおおおおおっ!! 俺達の文化祭だーっ!!」
「とりま飯だ飯! 模擬店行くべ模擬店!」
「今日は購買もいつもよりたくさん食いもん売ってるみたいだぜー!」
「メイド喫茶行こうぜ野郎ども! フリフリフリルの可愛い子ちゃんに萌え萌えキュンってオムライスにハートマークを書いてもらうんだ!! 関口くんも来いよ、行こうぜメイド喫茶!!」
「えぇ……?」
さやかちゃん先生のひと通りの注意も終わり、解散宣言という名の事実上の文化祭開始宣言がなされた。
途端に浮かれるクラスメイトのみなさん。だけど、もはや一人だけメイド喫茶を求める武士と化した中野くんが女子の目も気にせず叫んだ結果、少なからぬ女性陣から白い目を向けられることになってるよ怖ぁ……
しかも中野くん、それをものともせずに関口くんをも誘っている始末。彼は彼で、いつもの陽キャリア充グループとどこ行こうか語り合ってるなかでのすさまじい突撃ぶりである。
すごいぜ中野くん、勇者よりよほど勇者してるぜ……!
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三巻
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