謎明かし編
少しばかりの休憩を取れば、全員、日常生活に支障がない程度には体力が回復できた。
ホテルの一室、俺の泊まっている部屋には相変わらず、今回の闘いに参加した香苗さん、リンちゃん、ベナウィさん、そして俺とヴァール。何よりもリーベがいる。
「さてー。みなさん、それなりに回復されたところで、ちょっとお話しましょうかー」
と、切り出す俺の相棒。受肉した今、彼女は何の隔たりもなく俺以外の誰かともコミュニケーションが取れるようになっている。
時刻は15時すぎ。怒涛のダンジョン探査からリンちゃんの試練、そして強襲してきた端末から命からがら逃げ延びるまでに数時間しか経過していなかった。
今日のところはもう、ひたすら休む。だけど先にリーベの話も聞いておきたい。
つまるところ何があったのか。邪悪なる思念とはなんなのか。そして、俺たちは何をするべきなのか。
ついに顕現した精霊知能だからこそ話せることだ。もう、そのへんに関しては今すぐにでも聞きたかった。
やがて、リーベは話し始めた。
「まずはご挨拶をしましょう。はじめまして、公平さん以外の方々。私はリーベ。システムさん──この世界のワールドプロセッサに代わり当代アドミニストレータを補佐していた、精霊知能と呼ばれる人格プログラムです」
「システムさん……ワールドプロセッサ?」
「正式名称、いわゆる本名ですねー。この世界のすべてを統括管理する、中央演算装置。神とか精霊とかともまた違う、本来であれば意志もないし表舞台にも出るはずのないモノですー」
「……えーと、なんて?」
「一言で言うと、世界そのものですねー」
オーケー把握、なんて言えるか! わけわからん!
システムさんがやはりその、ワールドプロセッサとやらだったってのはわかるが。中央ナントカ装置とか言われてもわからん。ざっくり世界そのものと言われても、神様ともまた違うってんだから理解が追いつかない。
頭を抱える俺とは裏腹に、ベナウィさんが挙手して言った。
「中央演算装置……つまりはこの世そのものが一つの大きなコンピュータとして、その制御部分を司っているのが、ワールドプロセッサ。つまりは、システムさんということですか」
「そうなりますねー! いやあさすがは大人ですねー。授業中になると途端に思考があっちこっちに飛び散るどこかの山形公平さんとは理解力ダンチですよー」
「うっさいよ! 子どもにも分かるように言え!」
こいつめ! 下手にこの数ヶ月間、俺の脳内に住み着いていたもんだから、いらんことばっかり知っていやがる!
ていうかベナウィさんすごいな、理解力早っ。理数系なんだろうか、理数系なんだろうな。頭良さそうだもん、理数系に決まってる。
とまあ、別に文系ならできるのか、と言うとそこまで自信のない山形くんは置いといて。
リーベは、ついに核心に触れ始めた。
「ワールドプロセッサも、それをサポートするプログラムに過ぎなかった精霊知能も。あるいはその他、ありとあらゆるシステム側のプログラムまで含めて、本来はただの装置。今みたいに意志を持つことも、まして現世に干渉するなんてことも、まずあり得ないはずのことでした」
「でも、今、リーベちゃん目の前にいる」
「いますねー……500年前のとあるできごとをキッカケに、リーベたちは一斉に意志を、魂を得ることになったのです」
500年前。またなんていうか、遠い遠い昔の話だ。
たしかに、150年前のソフィアさんは先代アドミニストレータだったけど、さらにそれ以前の歴代がいることを匂わせていたように思う。もっと言うと、初代は500年前に発生した、とも。
……アドミニストレータの発生とほぼ同時に意思を得た、ワールドプロセッサと精霊知能たち。そこを踏まえると、とあるキッカケってのがなんなのか、おおよそ推測はできるな、さすがに。
「邪悪なる思念の発生、か?」
「正確には侵略、ですねー……外敵からの攻撃に反応して、緊急的に発生した疑似人格プログラム。それがシステムさんやリーベ、ヴァールの素性ですー」
やっぱりか。にしても、疑似人格プログラムって。
ずいぶんと無機質な物言いをするな。俺にとってはシステムさんだってリーベだってヴァールだって、たしかに存在する命と心だと思うんだけど。
まあ、そこはともかくとして。
外敵からの攻撃とか、侵略とか。まるで邪悪なる思念が、元々この世界にいなかったみたいに言うんだな。
問いかけると、静かにリーベは頷いた。
ついに時が来たんだ。邪悪なる思念の正体が、明かされる時が。
固唾をのむ俺たち。そして彼女は、厳かに告げるのだった。
「そのとおり、やつは元々この世界のモノではありません。邪悪なる思念──正体は異なる次元、異なる空間、異なる理から攻め込んできた異なる世界。別なる世界の、ワールドプロセッサです」
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