そして終わった取り調べ。長い一日だった……
アドラメレク──新目玲玖が取り調べを終え、戻ってきたおまわりさん達に拘束されながらも部屋を退室する。最後まで飄々とした雰囲気の笑みを浮かべた、余裕ある態度のままでだ。
途中こそ本性というか、地を出した場面はあったものの。終わってみれば終始食えない態度が基本だったなと俺はこの数時間ほどを振り返った。
「重要な情報をいくつも得られた。それに、アドラメレク自身もこちら側に確保できた。成果で言っちゃうと今日一番だったな、アイツ」
「うむ。特に委員会の内部構造と現状が知れたのは大きい。あなたはさらにそこから何かしら、推測できるところがあったようだが……今はそこについて言及するのがまずいというのでしたら、我々はそれに従い控えます。ちなみに、お教えいただく機会は今後、可能性として有り得ますか?」
「ああ、それはもちろん。正直な話、委員会が今後仕掛けてくるなら確実にそのタイミングだし、大人しくしてるならそうだな……俺達が現世での活動を終えた後にでも、言える日は来ると思うよ」
ヴァールからの、コマンドプロンプトたる私に対しての敬意ある質問に誠意をもって答える。
私が今回得た情報から類推し、かつアドラメレクとの間にも言外のやり取りを経た上で半ば、確信に至りつつあるもの──委員会の正体、その中核についてだ。
先も言ったがこれは今現状、うっかりにでも口に出すわけにはいかない。この推測が正しい場合、システム領域は彼らに対して完全に不可侵、不干渉の立場を取らざるを得なくなるからだ。翻って現世への協力すらもできなくなる。
彼らが未だ、システム領域由来の何かを確保し悪用しているのならば、著しく行動を制限するきっかけになってしまうようなことは避けたいからな。
そして同時にそれは、概念存在側も同じことが言えるのだろう。正体に思い至り、そしてそれが当たっていた場合……彼ら概念領域もまた、委員会が絡む案件に対して一切の干渉権を喪失することにつながる。
正真正銘、現世の知的生命体と委員会との一騎打ちの構図が良くも悪くも確定してしまうのだ。現時点では、それはさすがにまずいというのが私やワールドプロセッサ、アドラメレクといった"気付きつつあるモノ"の考えだ。
それゆえに、黙秘を貫くわけだね。
「今このタイミングで、委員会の正体について確定させてしまうとまずいことになる──かもしれない。というのは明言しておくよ。これは俺、私のみならず"アイツ"も同様の考えだ。称号欄にメッセージが入っていたからな」
「やっぱり見てたかァ、あの方も今の取り調べ……御二方が揃ってそう言うってことはマジでヤベーやつッすね」
「ぶっちゃけそのあたりの物言いから、リーベちゃん達でも推測はできそうですけどー……なんか本当に怖いので止めときますねー。知らぬが花、知らぬが花ー」
「どひぇー……! 御方にそこまで警戒させる真実! ちょっぴり気になるのが本音のところですけども、触らぬ神に祟りなしが元の職場にいた頃からの処世術だったミュトスちゃん的にはバッチシグー! スルーしてチョベリグって感じー! ってスタンスですヨロヨロー!」
「そ、そう……」
触らぬ神に祟りなしって、かつて神だったモノが言うのか怖ぁ……明らかに例の最高神を恐れて身につけた処世術じゃん。
マジでよっぽど理不尽な神だったんだなぁ、となんだか想像するだにブラックさで胃がキリキリしそうなミュトスの古巣についてはさておき。シャーリヒッタとリーベもヴァール同様、俺の言動から触れちゃまずいことだと察してくれたのは助かる。
正味、ここまで材料が出揃ったなら精霊知能であれば思い至るモノもチラホラいるかもしれない。世界そのものの仕組み、"巣立ち"について知っているなら、そのへんのことも知識として持っているからね。
だからもしかしたらリーベなんかはやはり、怖いもの見たさで演算して勘付くかもしれないけど。けれどその場合でもやはり問題はないだろう。精霊知能であるならば、今の俺のスタンスは理解するからさ。
『どーでもいいことで手間を食うねえ、君も羽虫どもも夢見るワールドプロセッサも……僕だったらもうこの時点で全部まとめて食い直してオールリセットだよ、進行度があまりにもチグハグすぎる。君やっぱ、あの時に僕をリソースにして全部やりなおしたほうが良かったんじゃない? いやまあ、しなかったがゆえに今こうしているあたり僕としては感謝してなくもないけど』
脳内のアルマもまた、かつてワールドプロセッサだったゆえにかことの真相が"ソレ"である可能性に至っているようだ。相変わらず短絡的なことをそのものズバリ口にしている。
たしかに現行の知的生命体のこの文明度だと、推測している通りの委員会が発生する段階にはないのも事実。こいつが言うように進行度があまりにもチグハグだって指摘はもっともだろう。他ならぬ元凶がどのツラ提げて吐かしてんだってのを除けばね。
とはいえ、だから即座にオールリセット! やっぱり滅尽滅相こそ大正義やったんや!! ──なーんて話になるわけがない。
それは単に完璧主義のアルマが面倒くさがってるだけの幼稚なワガママで、普通のワールドプロセッサならそんなこと絶対にしないのだ。
別段、それをもって世界の趨勢がどうのって話にもならないし。あくまで"巣立ち"の観点から言うとさすがに早すぎるんだよねってだけで、すべてなくして一からやり直すなんてことはあり得ないのだ。
そう脳内にて説明すれば、アルマも舌打ち一つだけしてすぐに興味をなくしたのか黙りこくった。おう、そんな態度なら最初から絡まんでもろて。
相変わらず極論大好きだなーと呆れつつ、俺達も取調室を後にするのであった。
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