すべての夢見る人間達を、悪魔はいつも夢に見る
悪魔とて命だ。たとえ現世のイメージに左右される概念存在であろうと、そこにはたしかな自我があり心がある。
アドラメレクも当然そうで、だからこそ自発的に藤近に魅せられて力を貸す決断に至ったんだ。自覚の有無はどうか知らないけど、とにかく退廃の道を進んでいて……追い詰められていく日々のなかでも理想郷を夢見ていた彼に、少しでも協力しようと思ったんだな。
けれどそれとてやはり、悪魔ならではのものでしかなく。
ゆえに藤近は力を得てさらに闇の奥底へと沈み、法の裁きを受けるところまで堕ちてしまったんだけれど。
この悪魔からしてみれば、そういうやり方しかできないのだと苦笑いするしかないようだった。
「宿痾だねえ……オジサンもセーレくんと似たようなものなんだろうねえ。功くんが大成しようが破滅しようがそこはどうでもよくて、ただ彼が彼なりに走りきってくれるならなんでもいいって気持ちで契約したんだからねえ」
「セーレにとっての瀬川が、お前にとっての藤近だったか。だがセーレのほうは明確に、瀬川が身を滅ぼすところまでを願いとしていた様子だが」
「悪魔の全部が全部、そうだと思ってほしくもないねえ。セーレくんはオジサンから見るとやっぱりちょっと、自分の欲望に直球すぎたねえ」
「お前の目から見てもそうなのか、アイツ……」
怖ぁ……今のところ同胞たる悪魔からさえもドン引きされまくってるじゃん、セーレ。
振り返ればアドラメレクのみならずオノスケリスもそうだしアガレスだってそうだったけど、セーレの瀬川への想いというか期待は、およそ彼らから見ても相当アレな類の執念だったみたいだ。
今頃は織田さんことオーディン神の居城に囚われ、いろいろ尋問とか受けてるだろう悪魔に今さらながら俺ちゃんもドン引きだ。
最終決戦の際にすでに本性は曝け出されていたけれど、まさか同カテゴリ内でもないわー扱いされてるほどだったとはねえ。
改めてアイツなんなん? 的な空気が漂う今日この頃。
アドラメレクはやはり軽く笑って、次いでアレクサンドラについて語り始めた。
「アレクサンドラくんについては……オジサンだけじゃなく、いくつかの悪魔も肩入れしてたよねえ。あまりに報われない願いを抱えた彼女の在り方が、悪魔好みのものではあったんだよねえ」
「報われねェ願い……ってこたァオメーら悪魔も、やっぱアイツの野望なんざ叶いやしねーって思ってたんだな?」
「ウーロゴスを取り込んで概念存在になる、までならいけるとは思ってたねえ? でもそこから先、永遠に生きるなんてのはまあ無理だろうってのが見解だねえ。たぶんどこかで悠久に耐えきれず廃人になるってさ、みんな分かってたよねえ」
やはりか。アレクサンドラに対しての悪魔の見解が、俺の見立てとそう変わりなかったことに軽く息を吐く。
つまりこいつらは、アレクサンドラがどう足掻こうと不老不死に溺れて終わっていくだろうことを見通した上でウーロゴスを与えて暴走を促したことになるな。
無論、結局それを選んだのはアレクサンドラ本人だ。彼女は自らの意思で不老不死を望み、そのために与えられた力を利用してすべてを踏み台にした。概念存在への変生を成し遂げようとしたんだ。
だからこそその罪と罰は彼女自身が受け、償いと贖い、そして更生を果たさなければならない。それは委員会や悪魔の関与とはまた別の話として、彼女が背負ってしまったものだ。
だけど、最初からすべて分かっていてそれを促し誘導する形になった悪魔も悪魔だよ。こればっかりは彼らの本質ゆえ、言っても仕方ないところはあるけどね。
つまるところアレクサンドラの願いや望み、精神性に在り方そのものからして悪魔を引き寄せるものだったと言うことなのかもしれない。
率直に言ってもやるせない話だ。
「彼女も功くんと同じような感じでねえ、オジサンや他の悪魔的には。終わりがどうであろうと、そこに至るまでの駆け抜ける姿を見ていたかったんだねえ。永遠たらんとして滅びへ向かう人間……なんていかにも神話的というかロマンのある話だから、それをもって美しさとする同胞もいたりしたねえ」
「うわー、悪趣味ー」
「悪魔だからねえ。でもさあ、そういうの人間達にだってあるでしょうよねえ? 滅びの美学、なんて良い言葉じゃないかねえ」
「徹頭徹尾、あなた達にとってサークルもアレクサンドラもまるで……そう、映画を見ているようなものだったんですね」
「映画! そりゃ良いねえ素敵なたとえ。そうだねえ、オジサン達悪魔はみんな、彼や彼女の生き様を特等席で見ていたのかも知れないねえ。すべての夢見る人間達を、悪魔はいつも夢に見る……かねえ」
呆れた様子で言う、ミュトスにとうとう声を上げて笑うアドラメレク。
藤近もサークルも、アレクサンドラもダンジョン聖教過激派も、結局こいつらにとっては悲劇的な娯楽作品程度のものだったのかもしれない。
感情移入するけど、それとてしょせんは一過性のものに過ぎない、という点ではまさしくだ。
愛着はあるけど、その不幸に微笑む程度。ファンだけれど、その破滅を楽しめる程度。
厄介ファンってこういうのかな? ……いやちょっと違う気がするな。ともかく、悪魔が気に入るってのはこういうことなんだと、セーレの例もあわせて示すような話であった。
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