答えを出さない、それが答えであるべき時もある
アドラメレクから直接聞かされる委員会の真実、その断片。
重大なもの、些細なものがまさしく玉石混交って感じにいろいろ豊富な話をしてくれそうなんだけれど、さすがにこの場で一気にすべてを聞くことはできないとヴァールのほうがストップをかけた。
これより先は公的な、現世の資料に残る形で調書を取りたいのだとか。
ペラペラペーラと軽妙にアレコレ語っているアドラメレクが、こちらの想定以上に本気でなんでも話すつもりっぽいのを受けてのことかもしれない。
ちょっと焦った感出てるものな、雰囲気的に。
「対委員会の今後については、まず間違いなく警察やWSO、全探組といった人間の組織も動員されるからな。アドラメレク発の委員会の情報についても、彼らがアクセスできるようにしておきたい。これ以上の取り調べについては後日とする」
「たしかに、俺達身内ばかりで話をしてても仕方ないからな……分かった。後で俺達にも情報共有してくれると助かる」
「もちろんだ。そのあたりはワタシがしっかりとフォローアップを行おう」
WSO統括理事として、より広い視野でのものの見方を発揮するさすがのヴァールに俺ちゃんもニッコリだ。
そうそう、少しでも事件に対して関係しているなら、そういう人達が情報共有しやすいように場を整えるのも大切なことだよね。
こういうとこ、ワールドプロセッサも見習うべきだと個人的には思うよ。
完全にトップダウンな立場なのはアイツもこの子も同じだけれど、少なくともヴァールのほうは秘密主義が行き過ぎて独断でプランを複数抱えるとかはしなさそうだものな。
──噂をすればってなもので、俺ちゃんのステータスが更新されるのを感知する。数日ぶりだな、称号欄を使ってのワールドプロセッサのお気持ち表明。
今回はさすがにアルマは絡んでない、よね? なんもないのにいきなり喧嘩売りだしたらさすがに帰省してまでお小言を言うのも辞さないぞ俺ちゃん。
名前 山形公平 レベル1321
称号 あるいはそれは、微睡みのなかの陽炎にも似て
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
名称 風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING
名称 神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─
称号 あるいはそれは、微睡みのなかの陽炎にも似て
解説 何も知らない雛鳥は、自ら羽ばたく夢を見るのか
効果 なし
《称号『あるいはそれは、微睡みのなかの陽炎にも似て』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……確証は未だなく、すべてが推測によるものばかりのなか。それでも悪魔に真実あらば、すなわちそれはヒトによるヒトのための試練と言えるのでしょうか? 今はまだ、私にも判断がつきかねます》
『マジで負け犬羽虫のこと、見習ったほうが良いんじゃないのこの世界のワールドプロセッサ。明らかに微妙に推理できてるけど黙ってるやつじゃんこれ。秘密主義なんにも直ってないやつじゃんこれ』
俺も若干思ったけどさすがにこれについては黙っとけアルマ!
脳内に響く情け容赦ないツッコミに、どっちかと言うと俺も今回はワールドプロセッサ側だわと思いながら宥めすかせる。
アイツ、やはりここを見ていたのかってのはもはや前提みたいなものなので置いておくにしても。
称号と解説、それから一言を鑑みるにすでに何かしら、推測できているみたいで明らかにそれを匂わせてきているよねこれ。怖ぁ……
いやまあ、アイツの考えてるだろうことは俺も正味、ここまでの断片的な情報からちょっぴり可能性として考えているものではある。
本来ならば概念存在やシステム領域の干渉なく、ヒトが、ヒトだけの力で乗り越えていくべきモノ達。同時にソレらもまた、ソレらだけの力でヒトに挑まなければならないモノである、というのならば。
──それはすなわち、委員会の本質とは試練を課すモノ達だ、ということなのかも知れない。
そうした性質から、もしかしてこれじゃない? って想像は俺のほうにももちろんあるけど……正直ね、人間の立場からすると今はまだ不確定のままにしておいたほうが良いかもしれないので胸のうちに秘めておこうと思うの。
ワールドプロセッサも同じ思いで、だから黙っているんだろう。もしもドンピシャ答えだった場合、概念存在もシステム領域も、最低限の対処だけ施して後は現世に任せるしかなくなるからね。
「…………今はまだ秘すべき時か。アドラメレク、お前ももしかして、確定させたくないから核心に触れないことにしてるんじゃないのか?」
「"ノーコメント"だねえ。そう言うからにはシャイニング山形もそれなりに考えているんだろうけど、オジサンとしてはとにかく"ノーコメント"だねえ。他のことならなんでも話すけどねえ」
「そっか。それなら、分かった」
「公平さん……?」
「いやごめん、ふとしたつまらない質問だよ。俺からはこれ以上は特にない。後は報告を待つことにするさ」
黙りこくっていた俺の唐突な質問。誰もが怪訝そうにするなか、けれど当のアドラメレクだけは目を細め、肩をすくめて動揺もなく答えてみせる。
両手でチョキを見せて、それを何回か指折りするジェスチャーさえ見せながらだ。
なるほど。あくまで可能性の段階で確定していないというのは前提として、やはりアドラメレクもその可能性についてを恐れていたか。
俺はひとつうなずき、今回の取り調べから完全に手を引くことにした──"ノーコメント"。時にはそれこそが回答であるべきだと言わんばかりに。
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一巻
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二巻
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三巻
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