光臨、満を持して!
「おおおおおおおっ!」
「健気だね、アドミニストレータ」
次々衝撃波を放つ俺に、涼しい顔で端末は語りかけてくる。
やつどころか三界機構の一体にすら届かない──すべて天地開闢結界に阻まれ、なかったことにされている。
片や俺はと言えば、攻撃どころか動く度に身体がひしゃげていく。血があちこちから噴出して止まらない。
《誰もが安らげる世界のために》を、一切の制限なくフルパワーで使い続けるがゆえの、これは反動だ。
構うものか。俺はそれでも放ち続ける。
これ以上、ヴァールの心を傷付けさせはしない!
「公平くん! 加勢します、プリズムコール・デストラクション!!」
「ライトレイ・パルサーキャノン──とはいえ何もかも防がれてますね。これ、まずいのでは?」
香苗さんとベナウィさんが、合わせて攻撃を仕掛けてくれる。しかし、いや、やはり効果はない。すべてがなかったことになり、阻まれてしまう。
信じられないインチキだ、まるで手立てがない。こうしている間にも反動で、俺の方にダメージが来てしまっているというのに。
「ぐ、ぅっ……げほっ、ごほっ!?」
「もう止めときなよ。それ以上やると死ぬかもよ? そこの精霊知能を泣かせたことは謝るからさ。ごめんね? 事実が時に刃と化すこと、知らない僕でもなかったんだけど」
「っ、お前はぁっ!!」
血を吐き、それでも許せない敵に向けて効果のない攻撃を続ける。
たとえ無意味でも無価値でも良い。いたずらに人を傷付ける、こいつを一秒一瞬でも食い止める!
勝てなくても、敵わなくても、絶対に負けられない!
「その口を、閉じろぉっ!!」
「……分かったよ。やれやれ、ただの言葉一つ止めるのにも命懸けか。アドミニストレータ、君、中々に狂ってるね」
「何をっ……く、ぅぅっ」
「公平くんっ!!」
放ち続けた衝撃波の果て、ついに限界が来てしまったみたいだ。身体に、力が入らなくて俺はその場に崩れ落ちた。
すぐさま香苗さんが駆け付けて、俺を抱きとめてくれたが、くそ。手足が砕けてるみたいで動かない。身体のあちこちが血塗れだ。
《誰もが安らげる世界のために》は、リーベが制御してくれていないとこんなに強力で、こんなに恐ろしい反動が来るものなのか。
つくづく、あいつには世話になっていることを痛感する。思えば、何だかんだといつも、リーベが支えてくれているから俺は、ここまでやってこれたんだろうな、多分。
そう、そうだよ。
ソフィアさんもヴァールに対してこんな想いを抱いているのだとしたら。
──たとえ手足をもがれて、顔面を擦り潰されても。護りたく、なるよなあ。
「ヴ、ヴァール……ソフィア、さんは、きっと」
「喋らないで! 安静にしていて、公平くん!!」
「きっと、お前が、大好きだったんだよ……!」
香苗さんの腕の中、乱れる息でそれでも伝える。
涙を流すヴァールに、教えなくてはならない。
俺にとってのリーベが、ソフィアさんにとってのヴァールなら。
お前を庇って死ぬことだって、きっと、きっと。
「後悔、なんてしてないさ……ソフィアさんは、お前を、庇ったことを」
「山形、公平……っ」
「お前は、何も悪いことなんてしていない……!」
だから、そんな風に泣くのはもう、止めてくれ。
150年も戦い続けた果てが、そんな絶望の涙だなんて、あまりにも哀しいじゃないか──!
「そのとおり、ですよー」
「……………………っ、え?」
その瞬間、光が迸った。
眩しいけれど、どこか優しく、暖かな光。俺たちと端末たちとの間を、分かつように生じている。
それと同時に、ダンジョン内に新鮮な風が吹く。ありえない現象。なのに、どこか安心して納得している俺がいた。
風の中、ふと、その声を耳にする。
「公平さん、やっぱりあなたは素敵な人です。自分の身を捨てて、誰かの痛みに寄り添おうとするなんて」
「お、お前、は」
「だからこそ。そんな風に傷付いた、あなたに寄り添いたいと想うんです。アドミニストレータとか関係なく、一人の、山形公平っていう人に」
光がやがて、収束していく。人間の形に、纏まっていく。
黄金に煌めく髪、あどけなく幼さを残した、息を呑むほどの愛らしい顔立ち。慈しむように俺を見る視線は、微笑みに彩られている。
俺より二回りは小さい背丈。優子ちゃんや、あるいはリンちゃんより背が低いかもしれない。絹のドレスに、背中には透明な光の翼を何枚も生やしている。
天使。率直な感想として、そんな二文字が思い浮かんだ。
この世の美、愛らしさを凝縮した、まさしく目の前の少女は天使だ。
だけど、この声。嘘だろ、おい。
俺は、震える指でどうにか彼女を差した。
「お、お前……まさか、まさか」
「ふふふー……ようやく直にお会いできましたねー。もーちょっとドラマチックでロマンティックなシチュエーションが良かったんですけどねー。そこのクソッタレ野郎さえいなければねー」
「……ほう。ふむふむ? 面白いことになったじゃないか」
「おめーに面白がられる筋合いはねーんですよ悪趣味野郎! 公平さんに色目使いやがってテメー、何が愛しい人だってんですかー!?」
端末相手にも勇敢に、あるいは無謀に啖呵を切る少女。
口汚い……見た目に依らずあんまりにも俗なことを言うな。
だが、これで確信した。この子の正体。俺の、相棒。
「──リーベ!!」
「はーい! かわいいかわいいリーベちゃん、ただ今見参! ですよー!!」
精霊知能リーベ。
俺のレベルが300を超えたことで条件を満たした彼女が、満を持して姿を現したのだ。
この話を投稿した時点で
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