一体いつから委員会はノーダメージだと錯覚していた?
「…………見苦しいところを見せた、ねえ。いやはやオジサン、突拍子もない事態に弱くって、ねえ」
「まだやる気かよ、その演技よォ」
「これがオジサン、アドラメレクの対外的振る舞いなんだねえ。それにオジサンに限らず、社会に出るからには誰もが何かしら演技してるものなんだねえ。君らだってそうだろうねえ」
何度かの深呼吸を経て、上っ面だけにせよ冷静さを取り戻したアドラメレクが、改めて穏やか口調に戻って飄々とした態度を再度、行う。
呆れたシャーリヒッタが思わずツッコむものの、こういう態度のほうがやりやすくて良いのはある。割合、話が通じるタイプの悪魔ってこともあり、軽薄がちながら理性的に振る舞ってもらえるならそちらのほうが穏便なのだ。
そんなアドラメレクは肩をすくめ、俺とヴァールを見て目を細める。笑みのようで猛禽類めいた突き刺す視線、何かを探ろうとしている目つきだ。
もはや俺達に従うしかなく、それすなわちしばらくの間は真実に最も近い位置でしかし、何一つ真相を掴むことのできない生殺し状態を味わうことが確定しているのがこいつなわけだけど。それを承知の上で、いろいろと思考を巡らせているみたいだな。
暫しの逡巡。そうしてから大悪魔はふっ……と肩の力を抜いた。同時に全身を脱力させて、力なく口元を歪めて語る。
それは、事実上の降参宣言だった。
「分かったねえ、誓うねえ──《反抗することなく、真摯に罪を償う》ねえ。現世での罪は罪として、概念領域での罪も罪として、それらに相応する罰を受けることで贖いを行うねえ」
「比較的素直に受け入れたな? 助かるぞ、アドラメレク」
「君らが"そういうモノ"であると知ってたなら、オジサンはそもそも委員会に近寄ることすらしなかったねえ……詰みだねえ、詰み。オジサンはもちろん委員会も、動き始めた最初の時点で完全に詰んでたんだねえ」
「うん? その言い方だと、委員会は俺達に対して勝ちの目がないって聞こえるけど。そんなもんなのか? 今回ここまでしておいて、組織自体にはまったくダメージを負ってなさそうな気もしてるんだが」
俺達の素性にある程度の目星をつけたこともあり、完全に抵抗する意志をなくしたようだ。委員会についてさえ軽く触れつつ、もうどうにでもなれと言わんばかりのヤケさで首を軽く振っている。
自身はともかく委員会についてまで、最初から詰みだったのだと悟った様子に疑問を覚えて尋ねる。こんな言い方だとまるで、例の組織はもうどうにもならないってアドラメレクまでもが諦めたってことになるけど。
正直今回の件がほぼ、やつらにとってノーダメージな形で引き起こされて解決された以上、状況は一切連中に痛手ではないと思うんだけどな。
そう思い尋ねれば、素直になったアドラメレクは苦笑いとともに、これまで以上にペラペラと話し始めてくれたのだ。
「いやあ、委員会も実のところこの100年で相当、勢いを削がれてるみたいだからねえ。組織内部のいくつかのセクションが、それぞれ過去に起きたモンスターハザードに関与しては毎回丁寧に潰されているみたいだよ。そちらさん、たしかに彼らを追い詰めてるねえ」
「何? セクションだと……どういうのだ、組織構成についても知っているのか」
「一応ねえ。総務部、教務部、庶務部、指導部、研究部、管理部の六セクション。それぞれに君臨する幹部がいて、さらにそれらを統括するのが委員会のトップ、委員長なんだねえ」
「…………!? い、いきなり重要な情報をサラリと言わないでもらえます!? メモメモ、メモメモメモらなきゃ、メモメモメモらなきゃ!!」
「えぇ……?」
怖ぁ……こちらに従うつもりになったからって、マジでいきなり立て板に水ってくらいの流暢さで重要な情報を話し始めたぞ、この悪魔。驚いたミュトスが慌ててメモを取り始める。
名前ばかりで不明だった委員会の実像。それは首領たる委員長とやらを頂点として六つのセクションが下部にある組織構成をしているというのか。
そしてそのセクションそれぞれに担当する幹部がいて、そのいくつかについてはアドラメレクも知っているらしい。
さすがにすべては知らないか、そりゃそうだな。でも一気に委員会に近づくことができる、すごい情報だぞこれは!
「えーっと、オジサンが絡んでたのは倶楽部関係で指導部のアスタファノス。それとウラノス絡みでは研究部のホリオスの2体だねえ。それ以外の四セクションについては、さすがに知らないねえごめんねえ」
「指導部の、アスタファノス……研究部の、ホリオス……」
「あとは以前、探りを入れた時にねえ。世間話っていうか愚痴話くらいの感じで聞いたねえ。なんでも教務部と庶務部はすでに機能停止状態なんだってさ」
「何? 機能停止……今はもう動いていないセクションとでも言うのか」
指導部と研究部。アスタファノスと、ホリオス。
まったく心当たりのない名前と、何やってるんだか内情が分からないセクション名だけど……たしかに、ついに突き止めた。
委員会の幹部の名前を、一部だけだが俺達は知ったんだ。
これにはヴァールが誰よりも身を乗り出し、真剣な顔で耳を傾けている。積年の大敵だからな、無理もない。
だが、さらに続けて語るアドラメレクに俺達はまたしても、衝撃的な事実に驚くことになる。
「そうそう。あーそれとねえ、歴代のモンスターハザードを主導していたセクションがそこの二つで、度重なるハザードの失敗によって壊滅同然なんだってのも聞いたねえ」
「何!?」
「だから言ったねえ、そちらさんはたしかに彼らを追い詰めているってねえ……君らに喧嘩売ってるんだよ? 委員会だって毎度毎回死に物狂いに決まってるじゃないのよねえ」
そう言って嗤うアドラメレク。
過去のモンスターハザードに関連していたセクション二つ──仔細は分からないにせよ、それらはすでに敗北して壊滅しているというのだ。
他ならぬヴァール達の活躍によって、委員会はすでに手痛い打撃を受けていたんだ!
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第二部・第二次モンスターハザード前編─北欧戦線1957─
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