アドラメレク視点だと結構ホラーな山形くん
いかにも余裕ぶった態度をここまで取ってきたが、ついに本性と言うべき焦りと苛立ち、恐怖を顕にするアドラメレク。
引きつった顔で今しがた、その行いを因果レベルで封印した俺を睨みつけているのが良い証拠だ。明らかに動揺している……表向きの飄々とした仮面を、つけていられないほどに。
「シャイニング、山形……ッ!! やはり私の睨んだ通り、君は、君達は……創造神よりもさらにその先にいる……!?」
「俺達のことなどもう、お前の知ったことじゃないだろう。それこそがこちら側からのペナルティだ。誰よりも真実に近しい位置で、しかし何一つ真実に到達することなかれってとこかな」
「……その力その知恵その権能を使いながら、しかして何一つ報いられることはない、か。無償の奉仕、無償の労働。それこそがこの悪魔が委員会のために成した悪に対して、ふさわしい罰則だな」
ことここに至れば彼ほどの悪魔であり、かつ元よりある程度の思索を深めていたモノであるならば大凡こちらの正体に当たりをつけたみたいだ。恐怖と裏腹の畏怖さえも、その視線には混じっているように思える。
しかし悪いけど、もうここで推理も推測も一旦ストップだ。事実上システム領域側で身柄を確保する形になるが、織田と違ってこのモノにすべてを明かすことなどあり得ない。
最低限でも委員会絡みの決着がつくその時まで、アドラメレクは今後こちら預かりとなる。厳密にはアバター体は引き続き現世警察にて、本体は織田のところにて。
そして必要に応じて情報を引き出すなり、力を貸すなり立場を利用されるなりしてもらうのだ……現世にて裁けぬ概念領域における暗躍の数々には、それをもって贖いとする。
そこまでやって初めて、この大悪魔も多少なりともペナルティらしきものを背負うことになるのだ。
「今に至るまで半世紀。してきたことの報いを受ける時だと諦めろ──誓え、アドラメレク。《反抗することなく、真摯に罪を償う》と」
「ぐ、くぅ……ッ!! こ、このようなことが、このようなモノがまさか、まさか本当に……ッ! 予想していた、確信さえしていた! けれどよもや、こんな形で、こんなタイミングで顕現しているのかッ!!」
「あからさまに背筋の凍りついてるみたいな顔してますねえ。あたかもバレないと思ってこっそり隠れて上司の愚痴をこぼしていた時に、その上司が突然目の前に現れてきた時のかつての私みたいな。あっ、今所属してるところじゃなくて前いたところの上司ですので誤解なくー」
「怖ぁ……」
俺からの宣告に、アドラメレクはまさしく総毛立った様子で全身を震わせている。叫びながらもひどく、本当にひどく怯えて顔を青褪めさせているのだ。
いや怖がり過ぎじゃない? なんだよいきなり血相変えて。そりゃたしかに多少、ビックリさせるくらいのタイミングだったんだろうけどもビビられすぎじゃないかと若干、ショックなんですけど。
人格的にはピュアハート山形くん16歳だもんで、ちょっぴり内心しょんぼり。でも続くミュトスのあまりにもあんまりな直喩に思わずこっちがビビることとなってしまったよ。
彼女の言う上司ってそれ、元いた世界での最高神だよねそれ。怖ぁ……人間社会で言うならまさしくビビリ散らかすしかないシチュエーションじゃん。
前も織田との語らいの時に零していたけど、かなりハラスメントチックな最高神だったみたいだ。ミュトスの苦労が偲ばれる。
上司って意味では今や、俺にも掛かって来そうな過去話に俺も気をつけなきゃなーって自省していると、ヴァールがアドラメレクに多少、気遣いと言うか飴を提示しているのが聞こえてきた。
「とはいえ、だ。お前の働きぶり如何では償い後、織田に続いて"我々"と概念領域のパイプ役を任せることもあるかもしれん……構わないか山形公平? この手の役割、神だけでなく悪魔側にも欲しくはある」
「んー……まあ、お前がそう望むなら良いと思う。どうあれそういう形に持っていく場合にも、然るべき時に然るべき誓約を結ぶことには変わりないからな」
「ありがたい。織田だけだと万一、そのルートが使用不能になった際に困ることになるとこの間からいろいろ、考えていたのだ。無論、アドラメレクの働きぶり次第の展望ではあるが渡りに船となることを願いたいところだな」
現状、システム領域と概念領域との間をつなぐパイプ役……あるいは折衝役を担ってくれているのが織田ことオーディン神なわけだけど、ヴァールは彼だけにその役目をすべて任せることに幾ばくかの懸念を覚えていたみたいだ。
織田がどうとか言うよりも、万一何らかの理由でかの神と連絡がつけられなくなった際の別ルートを欲しがっているようだな、これは。
まあ、概念領域内でもいろいろ揉め事やら勢力争いなんかもあるかもだし、織田も俺達のことだけをやっているわけにもいかない立場のはずだからね、本来なら。今なんかバカンスしてるけども。
それを考えると神々経由でない悪魔経由のルートというのも、これは一つくらい持っておいても良いとは俺も思うよね。
とはいえ、すべてはアドラメレクのここからの対応と言動次第なんだけど。この期に及んでなお反抗的で罪償い一つする気を見せないなら、申しわけないけどこの話はなかったことでってするしかない。
悪魔の反応を待つ。やはり恐怖に引きつった様子のアドラメレクは、それでも何度か深呼吸を行い平静を取り戻そうとしていた。
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