「またしても何も知らない」になれ、アドラメレク……
散々やらかしてきたアドラメレクに対してしかし、現世の法、秩序ではそこまでペナルティとなり得る措置を取れないという現実的な問題。
それを前に俺は少しばかり考えた──演算した。コマンドプロンプトとしての思考能力を駆使し、アドラメレクに対しての適切な扱いについて思索したのだ。
まあ、時間にしてものの一秒もかけない程度の物思いだけどね。それでも十分に利用方法を割り出せた。
現世にあってこのモノに、罪償いとして成立し得る罰を課せられないのであるならば、せめて有効活用くらいはしなければならないものな。
俺から提案する前に一応、ヴァール自身はアドラメレクについてどう考えているか確認しておこう。
別に考えているところがありそうなら、そちらを優先するべきだしね。
「ヴァール、この悪魔アドラメレクについての今後の扱いはどう考えている? 法に則った刑罰を与えられるのか?」
「うむ……概念領域での活動については言及し得ないため残念ながらノーカウントだが、ウラノスコーポレーションを犯罪組織に組み込んだ件と何より、自身もサークルに与してテロに参加していた件については罪を問える。法の裁きによって罰も課せられるだろう。ただ……」
「ただし、その罰がアドラメレクが果たすべき贖罪たり得るかは分からないってところか? いざとなればコイツ、封印されていようがなんだろうが本体にいつでも戻れるものな」
「うむ、腹立たしいことにな。封印こそされていても魂レベルで現世に縛り付けるなど不可能。ゆえにこの悪魔は、やろうと思えば今すぐにでも本体に戻ることができる。舌でも嚙み切れば終わりだ。それらを踏まえても正直、あまり有効的なペナルティを考えつかないな、今のところでは」
苦々しい様子で答えるヴァール。彼女の見解はやはり、俺の見解と同一のものみたいだな。
つまり、現世でやらかしたウラノスやサークルのアレコレについては罪に問えても、概念領域のほうでの悪魔や妖怪の扇動については当然、現世では罪に問えないということだ。
また、問える罪についても罰が罰にならないだろう、というのも俺と彼女で一致している。さっき述べた通りこいつの場合、本体に戻れば一瞬で無関係ゾーンに逃げ込めるからな。
現世でない概念領域に戻ったものを、現世の法や秩序で縛ることはできない。そして封印されていたにしてもアバター体など、その身体的機能を停止させればすぐに役割を終えて魂を解き放つだろうし。そうなると本体への帰還など即座だ。
当然その場合、アドラメレクの現世のイメージに毀損が生じるリスクはあるけど……ここまで話した感じ、このモノはいざとなったらそんなものなんら気にもせず逃げを打つだろう、そんな感じがする。
なんていうかね、飄々としつつも常にこちらを窺い探る狡猾さと悪辣さが見え隠れしているんだもの。多少の痛手を承知で、目的のためなら手段を選ばないのは容易に想像がつく。
絶対的な不平等。
かくあるべしという人間達のイメージも混ざってのことだろうけどこの通り、概念領域には現世に対して治外法権も真っ青なやったモン勝ち逃げたモン勝ちなところがあっちゃうんだね。
やはり飄々とした笑みの悪魔が、声だけ申しわけなさげに言ってくる。根底にあるのは、自分の安全は保障されているという余裕か。
「いやあ、オジサンとしてはかすり傷くらいにもならないと思うような罰なんてわざわざ受けてもなあって感じなんだよねえ。正直、退屈凌ぎにもならなかったら本当に本体に戻るかもねえ。なんかごめんねえ?」
「テメェ逃げる気満々だなァ……」
「悪魔として敗れたわけですから、一応敗れたなりに勝者の言い分に従うとかって気にならないんですかー?」
「単なる人間に負けたのならそうしたけどねえ、相手がシャイニング山形じゃねえ? 能力者ってだけならともかく、因果律干渉だの権能だの魂の威圧だの使ってくるようなの、人間じゃないでしょ。はっきり言って正しく負けた感じはしてないよねえ」
「人間ですけど……一応……」
困った。微妙に言い返しづらい言いわけを用意されてしまった。半分人間で半分システムな俺ちゃんは、純粋な人間であるとも言い難いのは事実なんだもんなこれ。
悪魔としては、人間に負けるところまで含めてその存在の役割と言えるわけだから、勝者たる人間を寿ぎ祝いたいところはあるんだろうけど……今回の場合、人間の枠を明確に超えた権能とか備えてる俺にボロ負けした形になる。
そうなるとアドラメレク的には、いくら負けたって言っても釈然としないのが本音なんだろう。
そして俺としても、概念存在のそういう在り方や役割は理解してるし尊重するスタンスなのでそっかー、と曖昧な返事をするしかない。
現世秩序の善悪とか関係ないところにある事柄だしね、こればっかりは。人間としての価値観とコマンドプロンプトとしての価値観が並立している俺としてはその言い分も理解できてしまうのだ。
とはいえ、だからといって退屈凌ぎ程度にしか罰を受ける気がないってのもそれはそれで見過ごせない話だ。
こいつにもある程度、ペナルティとして成立する何かを背負ってもらわないといけないとは思うよね。
だもんで俺はここで、ヴァールに提案した。
「あー、でも少なくとも退屈でも罰は受けきってもらおうと思うわけで。だからヴァール。俺からの提案なんだけどこいつの本体、織田のほうで差し押さえてもらおうか」
「何?」
「そしてその上でこいつには本体に戻ることを許さず、織田を通して俺達に……"こちら側"の手駒になってもらおう。たとえばインターフェイサーとか、あるいは織田のほうの戦力増強とか。もしくはWSO側でも利用してもらったりとかな。これは罪償いと並行して行わせようか。無論、こいつにはこちら側の詳細とか何も知らせないままでな」
「…………雲行きが怪しいねえ」
現世での罪は現世での裁きを受けるべきだし、そこに対して本体に逃げれば良いやみたいな舐めた真似は許さない。
だからこそ織田を頼りにして、アドラメレクの本体を捕縛してもらうのだ。その上で概念領域でのやらかしに対するペナルティとして、こいつには何も知らないままにこちらの言うままに使われてもらう。
これならそれなりにペナルティとなるだろう。概念存在のなかでもそれなりに大物だろう悪魔が、正体不明の推定概念存在かそれ以上のモノに一方的に敗れた挙げ句、事実上の走狗に成り下がるわけなのだから。
それは、思わず顔を引き攣らせる眼の前のモノの様子からも明らかだった。
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