さすがにラインを超えたモノ
暗躍していたのは概念領域においてだけではなかった。現世でもガッツリやらかして、まさかのウラノスコーポを委員会に引き入れたりもしていたのだ。
さすがに唖然とする俺達。とりわけシャーリヒッタが困惑もしきりながら、怒りを帯びて声を荒げた。
「テメェ、どんだけ裏でやらかしてやがる!? 今回の件の大体のことがテメェ由来じゃねえか、ふざけてんのかッ!」
「し、シャーリヒッタさん落ち着いて! どうどうどーう!」
「いやあ、こればかりは言われても仕方ないけど、こちらとしてもやるからにはねえ。何しろほら、事実上の処刑とはいえせっかくそちらのチェーホワの正体を探れる機会だからねえ」
「ワタシ……?」
「言うまでもない話だけどねえ、委員会にも匹敵するほどに来歴出自一切不明なのがアンタさんだからねえー。オジサンも他の概念存在の例に漏れず、その正体や真実は常に気にしてたんだよねえ」
激昂するシャーリヒッタ。抑えるミュトスにどうにか暴れ出すまではいかないものの、これ以上の挑発とかがあったら即座に胸倉くらいは掴みにかかっているかもしれないほどの怒りっぷりだ。
正直、気持ちは分かる。この悪魔、完全に今回の一連の騒動における直接的な黒幕じゃないかよ。
アレクサンドラと共謀して倶楽部を設立させて、サークルに接近して悪魔と引き合わせて。挙句の果てにウラノスを委員会に関与させてAMWまで調達した。
なんなら倶楽部が開発していた偽りの神の器──ウーロゴスを宿す予定だったあの化物を構築させていた、三基のスキルブーストジェネレータだってウラノス社製だ。
俺達の、委員会傘下組織との戦いの何もかもにアドラメレクが関わっていたんだ。キレる理由もそりゃそうってなるよ。
しかも当のアドラメレク本人は、そうした激怒を受けてもなんら変わらず飄々と涼しい顔だ。あまつさえそこまで動いた理由を、WSO統括理事たるソフィアさんとヴァールの正体を探るべく行ったと開き直ってさえいる始末だ。
立場上、手を尽くせばこうするしかなかったにしても無茶苦茶だこいつ。
あの火野老人をも超える暗躍ぶりに、俺も思わず呻かずにはいられなかった。
「お前な……」
「いやーオジサンってばアバターだからさ、別に殺されたって本体に戻るだけなんだけど。それでも何もせず突っ込んでいって殺られるだけ、なんてのは悪魔としても納得できなかったんだよねえ」
「そちらの心情も理解しますけどー……にしても本気出しすぎでしょうー……」
「ウラノスについてはオジサン、引き合わせただけだしなんともねえ? AMWの供出はサークル強化のためもあるから交渉したりしたけど、倶楽部のほう、スキルブーストジェネレータ供出についてはそこまでは関わってないのは言っとくねえ。そのへんは完全に火野くん独自の策略だねえ」
「それはそれで嫌な話だ。火野源一、とことん好き勝手やる……」
言いわけというかアドラメレクなりの理由と、あと倶楽部については火野が悪いと言い張ってくる。
さも当然の主張のようだけど、そこから引き起こされた事態があまりに大規模に迷惑かつ悪質すぎてやっぱりふざけた悪魔だなあって感じは拭えない。
まあ、火野老人も火野老人でろくでもなさが極まっているのは言うまでもない話だけど。ヴァールがうんざりしたようにつぶやくのを耳にし、この子も大概苦労するなと心底同情する。
現状、現世においても概念領域においても俺達システム領域についてはほぼ完全に謎でしかなくて、それゆえにアドラメレクみたいな好奇心旺盛なモノなんかは、機会があれば手段を選ばず探りに出てしまうものなんだろうけども。
にしたってあまりに迷惑すぎる。
駄目だこいつマジで……これでなんらペナルティなしはさすがにちょっと無理だな、これは。
その立場、行動、言動に理解はするけど、だからって甘い顔をする義理も理由もありはしない。俺はヴァールに尋ねた。
「ヴァール、どうするこの悪魔。現世の法による裁きで、概念存在たるアドラメレクに対して相応のペナルティを課せたりはするのか?」
「無理だな……どうしたところでこいつはアバター、いざとなれば本体に戻れば現世からの追跡は不可能になる。いかなる裁きも、こいつへのペナルティにはなり得ない」
「だろうな。まったく厄介な……」
「ごめんねえ、オジサンとしてもさすがに心苦しさはあるねえ。どうあれ敗れた以上、負わなきゃいけないものはあるべきなんだけど……現状だとどうしてもねえ。現世の霊能力で封印されていたって、アバターだし本体に戻れば終わるからねえ」
現時点で、現世ではアドラメレクのやらかしに対して相応の処罰を見込める手段が存在するのか? ……それに対する答えは、やはりないようだ。
苦虫を噛み潰したようなヴァールに、なぜかアドラメレクまでひどく済まなさそうに頭を掻いて謝罪してくる。いや、悪魔はこれで律儀で誠実な面もあるからな。どんな形であれ争って負けた以上、そこにはペナルティが在るべきだと思っているのか。
うーん、こうなりがちだから概念存在による現世へのちょっかいってのは、いろいろデリケートなんだよなあ。
根本的なところで文字通り次元が違うモノ同士だから、よほどバランスを意識しない限りは基本的に権能を持つ概念存在のほうが一方的に有利というか、ノーダメノーペナで終わりがちなんだ。
昔から神や悪魔の理不尽性というかヒトの不遇は神話、寓話で語られがちだけれど、そこにはこういう不平等性が絡んでいるわけだね。
さりとて今回ばかりは不平等ではい、おしまい! で済ませられない。俺はさすがに、少しばかり手を打つことにした。
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