言うて山形くんも割とポエミーなんだよね。怖くない?
委員会側の事情、アドラメレクによるモンスターハザードの真実。元より組織の真実を探っていたこの悪魔を、切り捨てて使い潰すための凶行。
今回の騒ぎは俺達にとっては絶対に止めなければならないものだったけど、委員会からしてみれば処刑のついで程度にしか行わせていないものだったという。
「何しろモンスターハザードを主導していた連中、軒並み時のエース探査者達に叩き潰されているからねえ。オジサンもそのノリで、そちらのチェーホワとかにけしかけて潰すつもりだったんだねえ」
「敵対相手を利用して、不穏分子を潰そうとしていたのか……ふざけた真似をしてくれるな!」
「つうかオッサン、オメーもなんか抵抗とか逃亡とかしなかったのかよ」
「いやあオジサン、委員会に入る時に契約しちゃってたからねえ。"委員会に入る代わりに、委員会のために働く"なーんてねえ。さすがに概念存在としては、そうなるとそうするしかないんだねえ」
苦笑いするアドラメレク。契約していたのはまあ分かるし、そうなると理屈として、摂理としてどんな形であれ最期まで委員会に従わなくてはならないのも道理ではある。
信じがたい話だし、ふざけた話だとも思うけどね。
これは言うなれば、スパイが発覚したならその場で処断するなり追放するなりすれば良いものを、わざわざ最後だからと現世に差し向け、テロリズムを誘発するだけの活動をさせて俺達に討たせるつもりだったって話だ。
知らないところで処刑人にされかけていた、なんて冗談にもならないぞ、こんなもの。
委員会はそりゃ手間が省ける上にこちらにちょっかいもかけられて大満足だろうけど、仕掛けられた側からしたら堪ったもんじゃない。
さしものヴァールも不快感を顕にし、アドラメレクもそりゃそうだねえとか言って理解を示している。やはり処刑寸前だったにしては悠長な態度だ。
本当に死ぬわけではないにせよ、切り捨てられて痛い目を見ることにもなんら躊躇とかなかったのか? この悪魔。
「ずいぶん呑気というか、そんな経緯の割には気概を感じられないけど……どういうんだ?」
「あー、まあ自覚はあるねえ。逃げられないにしてもせめてなんかこう、そっちに情報渡して命乞いするなり匿ってもらうなりしても良いんじゃないかって感じではあるよねえ? オジサン、仮にも元太陽神の悪魔だし契約の範疇でもできることはやれるはずだったんだよねえ」
「それさえせずに、完全に委員会の言いなりとなって自ら処刑台に上がっていった、その理由はなんなんだ? アドラメレク……あんた、何を考えてるんだ」
さすがに気になってその胸中を尋ねてみる。本質的には委員会の正体や真相とは離れたところでの問いかけになるけど、こいつほどの概念存在の心中は気にならないわけもない。
ましてや半ば、委員会による処刑さえ受け入れたかのような態度。そこに委員会のさらなる恐ろしさが隠されているのかもしれないとも思えたからね。
問いかけに、アドラメレクは少しばかり考える。話すべきか話さないべきかというよりは、単純に言語化するのが難しそうにも見える素振りだ。
彼にとっては短い時間とは言え、半世紀ほどの付き合いにもなると思うところはそりゃ複雑でもあるのか。やがてゆっくりと、彼は胸の内を明かしてきた。
「んー……さっきも言ったけど、手を貸してやりたくなったってのがあるんだよねえ、オジサン的には」
「…………」
「あくまで推測。あくまで仮説だけれどオジサンが見たところ、委員会の中核にいるかのモノ達は……なんていうかねえ、概念存在にとっても他人事じゃない連中なんだよねえ、たぶん。やがて辿るかもしれない連中というか、もう辿った後の連中でもあるというか」
「……概念存在、ではないのか。お前の見立てでは。似て非なるものと言っていたが」
「たぶん、というかこれは確実だねえ。正直、前例とか同類項がいないから比較対象もないし考察の余地もずいぶん少ないんだけれど。"ソレ"が存在し得る可能性については、哲学とか思想学的、心理学的なところでの思索とかであったりしたからねえ。彼らの正体に最も適切だと思われるモノは、あるいは人々の思索のなかにあるのかもねえ」
要領を得ないながらも、彼なりに言葉を適切に選ぼうとしている節の見受けられる一連の説明。
委員会のモノ達。哲学的な、あるいは思想学的な、心理学的でもあるようなところにヒントがあるかもしれないようなモノ。
概念存在として近似性や類似性をも感じ取れるらしい──なんとも曖昧な、衒学的ですらあることを言うなあ。
もしかして口八丁で誤魔化してるだけなんじゃないの? と胡乱にアドラメレクを見る。彼自身自覚はあるのか、申しわけなさげにこちらに謝ってきた。
「なんだか分からない話でごめんねえ。これじゃ実質、オジサンにも大したこと分かってないって言ってるのと同じだねえ」
「それはそれで構わないけど、そう思うならせめて、とにかく結論を言ってほしい気もするかな。結局あなたの思う委員会の正体ってのはなんなんだ?」
「そう、だねえ。平たく言えばヒトそのもの、あるいは概念存在の真髄ってところかねえ? ヒトの裡から零れ落ちた夢のカケラ、あるいは夢見るココロのひとしずく──なーんちゃってねえ。シャイニング山形ほどじゃないけど詩的に表現してみたけど、もしかしたらこれこそが答えそのものかもねえ」
「誰がポエマーだ! もうちょい分かりやすく!」
急に刺すやん。ポエミーなのは俺自身じゃなくてスキルと称号だから誤解すんなよな!
ツッコミつつももう一声! と尋ねるものの、困ったように笑うアドラメレクはもはや何も語ることはないと言わんばかりだ。推測は推測、後は自分達で考えるべきだと。
散々分かりにくいこと言って、ハッキリとした明言はきっぱり避けたぞこいつ……
発言の責任を負いたくないってのもあるんだろうけど、なんとも飄々としたやりにくい悪魔だなあ。
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第二部・第二次モンスターハザード前編─北欧戦線1957─
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三巻
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