委員会とアドラメレク。その発端と顛末
「んー……まあそもそもねえ、オジサンはじめ悪魔が委員会に参加したのって、割合ついこないだのことなんだよねえ」
「概念存在のこないだって割と幅があるんだけど、具体的には?」
「ええーっと、第四次モンスターハザードらへんのあたりからだから半世紀くらい前かねえ」
「こないだとは一体……65年前じゃないですかー」
のんびりした口調で、自分達悪魔が委員会に関与し始めた頃合いからを話し始めたアドラメレクの言葉に耳を傾ける。
概念存在の言う"この間"なんて人間の尺度からしたらとんでもないことで、下手すると500年前だって最近の範疇に入れかねない連中ばかりだ。一応具体的に聞いてみたら案の定、第四次モンスターハザードの頃からなんて言葉が返ってきた。
以前、織田から聞かされた話を思い返す。第四次モンスターハザードにおいては始めて本格的に概念存在による介入が、委員会への参加があったと彼は言っていたな。
言わずと知れたマリーさん大活躍のハザード。若かりし頃の彼女の英雄譚にさえ、眼の前の悪魔は関与していたんだ。
「委員会に関わった経緯もたまたまなんだよねえ。それ以前にも、妖精やら精霊やらが散発的に委員会と接触してたんだけど……なんの因果かオジサンも委員会側の幹部の一体と接触してねえ。ぶっちゃけスカウトされたんだよねえ」
「スカウトだと?」
「そうそう。"ヒトの巣立ちのための戦いに参加しないか"とか言われてねえ。大ダンジョン時代到来以降、概念存在が軒並み現世から手を引いて暇してたのまで知られてたねえ」
「概念存在側の事情すら把握していたのか。時折接触していた妖精なり精霊なりから情報を受けたのか……?」
完全に偶然、スカウトを受けたというアドラメレク。ヒトの巣立ちのためとはまた、委員会も狙った誘い文句をしていたんだな。
それこそは概念存在の本懐であり目的そのもの。現世の知的生命体、地球で言うならヒトがいつの日か巣立つために在るのが彼らだ。
そんな概念存在が、大ダンジョン時代によってその活動を著しく停滞させざるを得なかったところにそんなこと言われたら……それは乗っかるのも無理からぬことではあるだろう。
しかし概念存在の関わりがない、人間による組織らしい委員会がよくそんなことまで知っていたな。そこがまず気になったところだ。
それ以前にも散発的に接触していたって話の概念存在達から聞いたのかもしれないってのはヴァールのつぶやきで、俺もたぶんそうなのかな? って気はしている。
もちろんアドラメレクの言うことすべてが真実だと仮定するならの話だけど。
こいつが嘘を言ってない保証も、今のところはないからね。
「その頃はオジサンも、なんでそんなことまで知ってるのかいよいよ気にしてねえ。ここはいっちょやりますかーなんて、年老いた身体に鞭打って参加してみたんだねえ」
「そうして他の悪魔も呼び込んで、第四次以降のモンスターハザードでも悪巧みに奔走してたってわけですか?」
「表立ってじゃないけどねえ。どちらかって言うと裏方で、概念領域のほうで準備を整えていたねえ……それこそ今回、サークルに関与したようなやり方を考えたり、神々をだまくらかしたり、他の悪魔に声掛けしたり、あと妖怪とかにも渡りをつけたねえ。向こうのぬらりひょんさん達も、独自に動こうとしていたからねえ。ああ、当然現世でも裏方作業してたねえ」
「妖怪カテゴリを巻き込んだの、お前だったのか……」
呆れとも、感心ともつかない吐息をつい漏らす。歴史の表側には立たずとも、ここに至るまで裏側でこの悪魔はずいぶんと暗躍していたようだな。
妖怪カテゴリを委員会に引き込み、神々を誤魔化し妖怪を巻き込んだりと、現世や概念領域での裏方を担っていたようだ。
要はこの悪魔が委員会に参加したことで、妖怪が参戦することになり、ひいては倶楽部設立のトリガーにもなった。
それでいて自分達悪魔もサークルに関与して今回の騒動の引き金になったんだから、委員会にとっては相当大きな恩恵をもたらしたはずだ。
すべては委員会の本丸、本来の構成員達の正体を探るために。そのためだけにここまでやったんだから、なんというかとんでもやつだな、こいつ。
逆に言えばそこまでやらなきゃ、ある程度の仮説すら立てられないほどに連中の素性は謎に包まれていたってことか。
……本当に人間なのか?
「で、まあその甲斐もあってか多少は幹部とも直接対面することになったんだけど……いやー、ところがどっこいアレコレ探ってるのがバレちゃってねえ、オジサン」
「…………は?」
「その上であっさりと言われちゃったんだねえ、アレクサンドラに協力しろって。ギリシャ神話圏で回収したウーロゴスを用いて、新たなる神の発生に力を尽くせ。なんならそのために死んでこい、なーんてねえ」
「オイオイ……まさかそれってよォ」
苦笑いするアドラメレクの言葉に、シャーリヒッタが顔を引き攣らせる。まさかって感じの成り行きだ、なんだか嫌な感じがしてきた。
正体を探っていたのがバレる、なんてのは委員会ほどに用心深い組織ならばまああるだろうけど、その上で任務を課せられたなんてのは、その。なんていうか。
ポリポリと、ボサボサの頭を掻いて疲れた笑みを浮かべるアドラメレク。
なんでこんな無気力な感じなのかと思っていたけど、それならうなずける。うなずけてしまう。
だってこの話通りなら、この男は実質。
「そのために火野くんと赤鬼くんに倶楽部を作らせたし、アレクサンドラにはダンジョン聖教の傀儡化をお任せしたし。そんでオジサン自身は悪魔達総出でサークルに手を貸したしでねえ────ものの見事に狡兎死して走狗烹らるってなっちゃったんだねえ! いやーまいったまいった、とほほだねえ」
「えぇ……?」
「…………委員会にとって、今回の騒動はお前という捨て石を切り捨てるための、処刑でもあったのか!?」
──蜥蜴の尻尾なんだものなあ。
要は知りすぎたかもしれないアドラメレクを、自分達の役に立つ形で使い潰してしまおうという意図のもとで、第八次モンスターハザードは実行されたのかもしれないってわけだね。
怖ぁ……
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