この世界の人類が持つ、本来のスーパーパワーについて
準備も整ったということで、少しばかり席に着いて待っていたところ概念存在の気配が近づいてくるのを俺は察知した。
エレベーターに乗ってこの階にまでやってきて、そして歩いて向かってくる。
権能の、確固たる強さと同時に封印されているがゆえの身動きの取れてなさをも感じ取る……アドラメレクだな。
俺が仕掛けた因果操作による封印は当然すでにないものの、ここに至るまで権能を使ったり暴れたりもしておらず従順な態度を示しているみたいだ。
ていうか、なんか封印されてる? 受肉したアバター体ゆえに本来の規模に比べて相当制限されているのを加味しても、あまりに機能している権能が弱々しいんだが。
赤鬼の鬼島ほど、それこそ人間同然ってほどではないにしてもこれでは為す術もないだろってくらい、権能が弱体化している。
どういうことだ? 俺はヴァールに尋ねてみた。
「アドラメレク、なんか封印されてるのか? どういうんだ、何をしたんだヴァール?」
「うむ……一応、霊能力者による封印がされている。この国におけるいわゆるオカルト機関、退魔組織のいくつかに依頼してな。能力者ならばいざ知らず概念存在、それもかつて太陽神だった悪魔が相手ゆえ、餅は餅屋ということだ」
「……退魔? え、あ、あるのそんな機関!? 霊能力者自体はそりゃ、いるのはいるだろうけど……」
怖ぁ……いきなり退魔師モノの創作みたいなこと言い出すやん。当たり前のようにしれっと言ってのけるヴァールに、日本人ながらそんなもん知るわけもない俺ちゃんが唖然とした目を向ける。
退魔組織て。いやそりゃあ、いわゆる霊能力者ってのはいるのは知ってたけど。たまにテレビに出てくるあの胡散臭い人達のなかに、割とガチ目に超能力を保持してる人とかもいるしさあ。
このへん、言っちゃうとオペレータのほうがイレギュラーであって、探査者が幅を利かせている大ダンジョン時代のほうが本来あり得ない事象だったりするのは以前にも触れた気がする。
スキル、レベル、ステータス。これらは邪悪なる思念による侵攻後に、やつが喰らってきた三界機構の異世界にあった概念を逆輸入して対抗するために取り入れて成立したものだからね。
彼らの世界にそうしたスーパーパワーがあったように、この世界にも別口に超自然的な能力ってのはあるんだよ。
超能力。霊能力。あるいはオカルト、スピリチュアル。
身近な例で言うならリンちゃんが時折放つ蒼い炎とかモロにそれだし、青樹さんと香苗さんが使う特殊な歩法・無想無念法なんかもそれにあたると思う。
能力者とは一切関係ないところにある、能力者にも比肩し得るこの世界独自のパワー。それらを総称して"超能力"と呼ぶのである。
「マンガ・アニメのようだが実際あるものだぞ、その手の組織はどこにでも。特にこの国は、古来から妖怪が跳梁跋扈してきた過去があるからな」
「えーっと、陰陽師的な? そう言われるとこう、少なくとも突如降って湧いた能力者よりは自然だけども」
「大ダンジョン時代開始以降、ワタシも彼らの力に着目していくらか接触を図ったことはある。とはいえ、やはり戦闘力そのものは能力者には及ばないしそもそもダンジョンに入れないため、アドミニストレータ計画に組み込む余地はなかったのが実状だがな」
「あー、そういう人達の相手はモンスターじゃなくて概念存在だしな……」
WSO統括理事として時代を牽引し、アドミニストレータ計画発動のための土台作りに取り組んでいたヴァールは、当然ながらそれゆえにそうした超能力者達の力をも利用できないか考えていたみたいだ。
でもそれはいろいろ難しかったみたいで、無表情にも肩をすくめて残念そうにしている。
まあ、そもそもの力の出処も違えば使い方も違うからね。単純武力こそ能力者のほうが上かもしれなくても、それ以外のところでは超能力者のほうが優位に立つ場面だっていくらでもある。
どちらが上とか下ではない。それは大前提だ。そういう意味でもやはり餅は餅屋ということで、今回アドラメレクの封印に彼らのお力を借りたということらしかった。
「今回の件でアドラメレク封印の依頼を向こう方の組織に持ち込んだ際には盛大に驚かれたな。概念存在の暗躍こそ感知していたようだが、まさかアドラメレク級の大悪魔までもが関与していたなどと思いもしていなかったらしい」
「探査者がドンパチしてんだから、相手はモンスターなり犯罪能力者なりだと思うわなァ、普通よう」
「うむ。それだけに複数の組織も大慌てで最高位の陰陽師やらエクソシストやらを複数人呼び出してことにあたってくれた。相手が受肉していて本来の権能に制限を加えていたこともあり、強力な封印をかけられたみたいだな。さすがと言うべきだろう、職種は違えど立派なプロフェッショナルの仕事をしてくれた」
「それがなかったら、下手したら権能を使って逃げられてた可能性もありますからねー。感謝、感謝!」
感謝しきりにリーベが言う。たしかに、さしものアドラメレクもこうまで封印されていては権能を使って逃げ出すことも難しいはずだ。
とはいえ、たとえば舌でも嚙み切れば即座に本体の下に戻れるだろうけど……概念存在としてはあまり取りたくない逃走法だしね、それは。
何しろ人間にしてやられた挙げ句に自決まがいのことをして居城に戻りましたなんて、下手すると自身の現世でのイメージが毀損されかねないし。
そのへんがダイレクトに自身の存在の在り方に影響する概念存在としては、本当に最終手段ってくらいのはずだ。それをするには及ばない段階にはさすがにないだろうしな、今現在だと。
どうあれ、対概念存在における本職さんなだけはあってきっちりとお仕事してくださったみたいだね。
ありがとうございます、なんか想像もつかないけどすごい腕前の陰陽師さん達……ところでそういう人達って、なんか"臨兵闘者皆陣裂在前"とかやっぱやるのかな。指でピッピッてやるやつ。
うわ、見てみたいー! そのうちどこかで鉢合わせないかな、そういう方々と!
思わずミーハー全開になっちゃうよ、やっぱロマン感じちゃうものね、オカルトとかスピリチュアルってさ。
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