悪魔との面会を控えて
シャルロットさんと神谷さんも退室して取調室には、取り調べをしていたおまわりさんと俺ちゃんだけが残された。
いや俺もモニタールームに帰ったら? という話になりそうなものなんだけどそこはちょっぴり待ってほしい。むしろ俺の立場と今日これからの予定を考えると、ここからが本番だったりするところはあるのだ。
「新目玲玖、いや悪魔アドラメレク。いよいよ最後はあいつの取り調べ、かあ」
「新目の取り調べについてはWSO統括理事と、他探査者数人で行うと局長と室長からも通達されています。つまり我々警察の出番はここまでで、ここから先は探査者の方々におまかせする流れです……山形さんも参加されるのですか、この部屋に留まっているということは」
「あっ、はい! 実はそうなんです。すみません、素人がしゃしゃり出るような真似で」
委員会の悪魔アドラメレク。
倶楽部に端を発する一連の騒動のなかで、アレクサンドラと並んで元から委員会に属していた存在。そのモノの取り調べがこれから、行われるのだ。
なんならアレクサンドラが言う通りなら、彼女でさえ末端に過ぎなかったものをアドラメレクはさらに組織の深みにいるらしい。
つまりはこれからの取り調べの次第によっては、委員会の実態がついに明らかになるかもしれないわけだね。
それゆえにかの大悪魔の取り調べには倶楽部の赤鬼の時同様、俺やヴァールはじめシステム領域がメインで受け持つことがあらかじめ予定されていた。
当然、警察側にも話はいっていてそれゆえのおまわりさんのこの質問だ。恐縮しつつも答えると、彼は軽く笑って言ってくれた。
「いえ、さすがに悪魔とか概念存在とかいうような人外のモノを相手取るには、警察だけでは太刀打ちできないでしょう。やはり普段からモンスターを相手取る探査者の方々にお任せするべきだとは、私も考えております」
「あ、ありがとうございます」
「月並みですがご武運を。今回、ことを起こしたテロ組織すべてを裏から操っていた謎の組織・委員会……やつらの謎は、我々にとっても重要な情報です。どうか闇に隠された真相を、少しでも詳らかにしてくださることを期待させてもらいます。それでは」
「はい! お疲れ様でした!!」
大人としての落ち着いた振る舞いで、けれど委員会に対する正義感を発露させるおまわりさんが送ってきたエール。
過去幾度となくモンスターハザードにおいて暗躍してきた事実上の黒幕たる巨悪。そんな委員会の謎に迫ろうとしているのだから、警察としても当然気になるんだろうね。
この国の、いや世界の秩序と平穏のためにも……アドラメレクから少しでも多く、やつらについて聞き出さねばならない。
そのことを改めて強く感じて、立ち去るおまわりさんに頭を下げる。彼だけでなく警察という組織の協力に、システム領域のモノとして感謝させてもらうよ。
……そうしていると部屋に数人、おまわりさんと入れ替わるように入室してくる者がいた。
仲間だ。今回アドラメレク取り調べに参加する、精霊知能達が勢揃いでやって来たのだ。
「失礼する。山形公平、先程はお疲れ様でした……見事、《聖女》をシャルロットに返還できたな」
「お疲れ様です公平さんー! いやーティートレくんも相変わらず暑苦しい感じでしたねー」
「ヌツェンもキャッチボールとかすんだなァ、今度愚痴でも聞きがてらオレもやってみっかなァ……お疲れ様です、公平サン!」
「さっきすれ違ったシャルロットちゃんと神谷さん、いい顔してましたよー山形様! ハロハロにゃちわ、ミュトスです!」
ヴァール、リーベ、シャーリヒッタそしてミュトス。
現時点で現世に受肉している精霊知能、システム領域側の存在がゾロゾロと部屋に入る。シャルロットさん達とは入れ違いになった形だな。
ちなみに精霊知能という括りで言うならここに、新たに神奈川さんも加わってくれても良かった気はするけど……さすがに人間から精霊知能へと新生した方に対してすぐ、こういうところに放り込むのもちょっと気が引けたのはある。
本人とステラも、まだまだ新しく生まれ変わった自分自身の能力や存在の規格に慣れていく段階だしね。そこに集中させてあげたいってのもあるし。
委員会の相手なんてやれる余裕のある人がやればいいんだよ、うん。
そう内心にて独り言ちる。ミュトスが人数分の座席を机の前に並べて、俺達はそこに座った。
「やっぱ取り調べのメインは公平サンとヴァールだよなあ。オレとリーベとミュトスは、もし野郎が暴れたりし始めたら即座に押さえる役だぜ!」
「まあ、現状暴れたりとかはせず大人しくしてるみたいですけどねー。とはいえ万一、万一!」
「そういう役割もあるにはあるが、かと言って少しくらいの悪態程度にも一々反応してくれるなよ。特にシャーリヒッタ! お前の場合は特にな。山形公平を揶揄されたからと逐一飛びかかられては話が進まん」
「えー?」
「怖ぁ……」
先んじて釘を刺すヴァールに不満を漏らすシャーリヒッタにビビる。なんかあったらすぐさま胸倉掴みにかかる気じゃんこの子、怖ぁ……
赤鬼の時が顕著だったけどこの子、ちょっと口の悪いのが俺をからかうとそれだけで沸騰するところがあるからなあ。身内想いは良いものの、取り調べ中にそれをするとたしかに話が進まなくなるところもある。
こればっかりは仕方ない、我慢してほしいところだね。
俺からも頼むよと頭を撫でると、シャーリヒッタは嬉しそうにはにかみつつ頑張ってみますと言ってくれたのだった。
いやそんな頑張るほどのことなんだろうか? 怖ぁ……
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