彼らにとっては青春、それ以外にとっては──
聞けば微妙な面持ちになるしかない、セーレと瀬川の馴れ初めと言うかカモになるまでの一部始終と言うか。
元から承認欲求とか、肯定されることや愛に飢えていたのかもしれない。そんなところにそれを叶えてくれるセーレが現れて、瀬川はあっという間に恋に落ちた。
いや、これを恋というかは俺には分からないけど。あるいは依存というか、でもそういうのも含めて恋なんだろうか? 複雑だ。
ただ言えるのは、そこから先の瀬川は……俺からすると、まるで崖から転げ落ちるかのように進んではいけない道へと突き進んでいってしまったということだった。
『セーレさんは僕に優しかった。なんでも認めてくれた、褒めてくれた。だから僕はなんだってできた。ダンジョンコアの密輸のために国内外を巡ったし、裏社会の連中とも戦ったりもしました。訓練としてサークル構成員内で戦闘経験も積み、時にスレイブモンスターを相手に戦いさえしました。ああ、ダンジョン聖教過激派との交渉役にもついて、アンドヴァリ様とお互いの理想を語り合うこともしたかな』
『非能力者が、制御下にあるとは言えモンスターと戦ったのか!?』
『セーレさんの力によるバリアとAMW……ルートディバイダーあればこそでしたけど。他の悪魔憑き達も、ある程度の級のモンスター相手ならステータス抜きで戦えていましたよ』
サークル内での活動、特に戦闘経験や実務方面に精を出したと述べる瀬川はどこか、懐かしげに当時を振り返っている。まるで、いや、たしかにこの男にとってその日々もまた、青春の日々なんだろう。
良い感じに言えば仲間とともに掲げた理想と愛のため、日夜活動しつつ切磋琢磨したという充実の記憶だものな。にしてもスレイブモンスター相手に訓練とはなかなか無茶をするもんだけど、悪魔憑きならそのくらいのことはできてしまうんだな。
さらに言うとこの男、ダンジョン聖教過激派との交渉役を担っていたのか。それで最後の決戦時にアンドヴァリと肩を並べていたんだな、合点がいった。
なんていうか、子犬めいた雰囲気もある優男風のルックスだしな。それに上っ面だけでも取り繕えるなら、藤近や海方以上に対外交渉では威力を発揮できていたのかもしれないね。
しかし、こうなるとやはり、そうした悪魔憑きやスレイブモンスターの存在を裏社会に広められたことはかなりのリスクに思えてくる。まさしく非能力者がモンスターと戦えるようになる夢の力だ、追い求める者は必ず出てくるだろうし。
……そうして得た力を、悪意をもって悪事に使う者もまた、必ず現れるだろうし。ヴァールが危機感も顕に呻くのが聞こえた。
「モンスター相手にまともに戦える力……それが正しくモンスターだけに振るわれれば良いが、現状ではまず望めまい。能力の有無を問わず、それは人にも向けられるだろう。まずいな」
「今のところ、情報が出回ったってだけでアクセス手段までは確立されてないっぽいのが救いではありますがね、たしかに厄介だこいつぁ。さっきの藤近っての、本当にやらかしてくれてるねえ」
「本人としては善意のつもりなのでしょうがね。あの男、どうも人の悪意から意識的に目を背けていた節も見受けられます。大器かもしれませんがそれでは人の上には立てませんし、それを糺すべきだったサブリーダーも機能していなかった。となれば、今のあの有り様はなるべくしてなった末路でしかないのでしょうなあ。ホホホホ!」
裏社会に広められた、その力の存在。今はまだそういうものがあるというだけの話で、本格的に利用するための手段は確立されていないようだけど、早いうちに対処しないとそれもどうなるものか怪しい。
マリーさんの危惧も当然のものだし、それを受けて藤近や海方、ひいてはサークルという組織を総括するサン・スーンさんのお言葉も納得するしかないものだ。
藤近功。たしかにリーダーとしては一廉の人物だったように思うけれど、あまりに思慮が浅すぎた。
自分のやりたいことを最優先にして、周囲の被害をまるで何も考えず、将来へと深く残る禍根を残してしまった。そしてそれを海方以下、彼の仲間達はただ追従して全肯定してしまった。
糺すべきは糺すのもまた、仲間の在り方だろうに。それを拒んで、ともに堕ちることを選択してしまったんだ。
『最後にはこんな形になりましたけど、それでも、僕にとってはこの日々こそが青春でした。僕だけでなく功さんや海方さん、他のサークルメンバーもみんな、みんなそう思っているはずです。僕らは、僕らの信じたものに向かって駆け抜けた』
『後悔や反省の気持ちはないのか。お前達のその青春とやらで、大勢の人に、社会に危害が加えられたんだぞ』
『それでも、セーレさんは褒めてくれましたから。功さんも、僕に優しくしてくれたから。身も知りもしない不特定多数の人間達のことよりも、僕にとってはその愛と絆こそが大切で、何よりも優先すべきことですから』
『……………………そうか』
そしてそれを、悪びれもせずに良い思い出かのように語る、瀬川。おまわりさんも絶句して、憤りと嫌悪を押し殺してただ、モニターの向こうでつぶやいている。
徹頭徹尾、自分達だけのことしか考えていない集団。時代のため未来のため誰かのためと嘯いていても、本質的にはどこまでも自分達のやりたいことをやっているだけの者達。
結果として多くの人達や社会、暮らしに迷惑をかけても……何一つ気にも留めない、そんな人達。
サークルの正体は薄々透けていたけれど、ついに明確な形で答え合わせがされた気分だ。
結局こいつらは、他人を踏み躙ることを青春と呼んでいるだけの連中でしかないということだった。
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