変な連中の変な主張でくたびれた身体に、特上鰻重をシューッ!!
聞けば誰もが頭を痛める、困った連中でしかなかったサークルという犯罪組織の真相。それをこれでもかと見せつけて、海方陸は取り調べを終えて退去していった。
最後まで、やり遂げたと言わんばかりの微笑みを浮かべながらだ。精神的勝利ってやつかな、自分のなかだけの理屈で主観的な達成感を得ているようだった。
そんな姿をモニターで見終えて、俺達は一様に一息ついた。時刻は昼前、そろそろ長めの休憩を取りたいところだ。
すでに配慮してくれているようで、別室で待機していた郷田さんと島根さんがわざわざ弁当を人数分、差し入れに来てくださった。ロケ弁チックなやつというよりはマジで御膳的な、重箱がそれぞれ座る席の前に用意されていく。
やっとこ小休止かあ。
「みなさん、お疲れさまでした。取り調べの様子は我々も、聴取室の横から立見していましたがひどいものでしたな」
「よもやあそこまで身勝手な動機とは……このまま瀬川、アレクサンドラや新目の取り調べを行うにも休憩がてら昼食が必要です。特上の鰻重を用意しましたのでみなさんどうぞ、ご賞味くださいませ」
『っ!! 鰻重! それも特上だと!? 良いね気が利くねここの警察は、評価してあげよう! 勘違いしたバカどもの無能な勝利宣言擬きを延々聞かされ続けた慰謝料としては上等だね、あははは!』
怖ぁ……ここぞとばかりに脳内のアルマさんがはしゃぎ始めた。取り調べの最中、心底から呆れ返っていたようでもはやなんの反応も示さないでいたのが鰻重を見た途端にこれだよ。
いやでも気持ちは分かる。特上鰻重とか俺のこれまでの人生で見たことないような代物だもの。そもそもうなぎ自体、年に一度しか食べないしね。
お重をパカッと開ければテラテラに輝く独特のフォルム。香ばしいタレの匂いが否応なく食欲をそそる、大きなうなぎの蒲焼がご飯の上にこれでもかと乗っけられている。
しかもサイズがデカけりゃご飯の量もかなり多い。大食いさんの多い探査者さんに合わせたサイズだろうし、おかわりを想定しているのか余りもそれなりにあるね。
これは……遠野さんじゃないけど俺の胃袋も蠢かざるを得ない! ぎゃーすかぴーと騒ぐアルマがどうの以前に、おかしな話を聞かされた数時間で俺もいい加減くたびれて、お腹が空いちゃったりしたりしてるのだ。
仲間達もみんなこれには喜色満面で、さっそく食べ始めている人もいる。リンちゃんとかね。
そんななか、愛知さんとシャルロットさんが不意に目についた。相変わらずの過保護なお姉さん愛知さんが、それをちょっぴり鬱陶しがるシャルロットさんに構わず声をかけていたのだ。
「やれやれ。おかしな連中のおかしな供述を立て続けに聞くとさすがに疲れる……シャルロット、大丈夫か? 不愉快な話も多かったろう、少し休憩の時間だから、食事を終えたら外の空気を吸ってきても良いと思うが。付き添おう」
「いえ、お気遣いなく。あなたの過保護さはともかく、結局アレクサンドラとのつながりが見えてこなかったのは引っかかりましたね。あまりやり取りをしていなかったのでしょうか」
クールなシャルロットさんの返答だけど、愛知さんの気遣いへの感謝も滲ませている声色だ。そこまで仲が悪くないようで良かった、騒動の最中は割とバチバチだったもんな。
ただ、続く彼女が口にした疑問は俺も抱いていたものだ。藤近、海方とサークル幹部二人からの取り調べにおいて、まるでアレクサンドラについての話が出てこなかったのだ。
少なくともこれまでの活動内容とか来歴のなかで、一言くらいその名が出てきても不自然じゃないだろうに。
それでもまったく出てこなかったというのは、つまるところ……神谷さんが反応して、御自身の思うところを語られた。
「おそらく、サークルとアレクサンドラは共闘こそすれど、幹部間のつながりはほぼなかったのでしょう。あったとしても藤近、海方とはなかった。アレクサンドラからしてみれば使い捨ての駒でしかなかったのは、湖畔での決戦においてサークルそのものを山形さんを誘き寄せるための罠に仕立てたことからも分かります」
「なるほど……ですが、最終決戦の際に瀬川だけは手元に置いていたのが俺としちゃ気になります。口振りもどこか一目置いている感じでしたし、もしかしたら瀬川個人とはなんらか、つながりがあったかもしれません」
『そう言えば認定式の日にも一緒に行動してたもんね、瀬川とアレクサンドラ』
サークル側というよりはアレクサンドラ側の視点から見た時、たしかに神谷さんの仰るように幹部陣と仲良くやる必要とかないのはたしかだ。
何しろ最終的に振り返ってみると、徹頭徹尾サークルって組織は丸ごとアレクサンドラの使い捨てにされて終わったようなもんだしな。残党まで含めてものの見事に使い潰されたんだもの……瀬川以外。
そう、瀬川聡太。あいつだけはどうしたことか、神奈川さんの指摘もあったけどアレクサンドラの側仕えみたいな形で最終決戦の場にいた。
あの女も何やら瀬川には肩入れかどうか、多少の気は向けていたようだし。組織単位や藤近、海方とは疎遠で利用するだけの駒だったけど、裏腹に瀬川に対してだけは何やらつながりとか付き合いがあったのかもしれないな。
そのへん、午後からの取り調べで判明すると良いんだけれど。
そんなことを思いながらも、俺はせっかくなので眼の前の特上鰻重に一意専心で箸をつけることにした。
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